第二章 ~ 訃報 ~ 第四話
どんなに憎んでも憎み足りない敵将が、これから訪れようとしていたクルドの弟子だった事を知って、ルシルベアイスはもやもやとした苛立ちを感じた。
「クルドの爺さんはもうこの世にいねぇけどよ、爺さんの薫陶を受けた弟子に教わるのも悪くはないと思うがね。どうだ? 爺さんの弟子に弟子入りするって案は。ん?」
店主は喋っているうちに段々と自らの思いつきがとても良いものだと思い始めたらしく、磨き抜かれて黒光りしているマホガニー材のカウンターから身を乗り出して、弟子への弟子入りを熱心に勧め始めた。
「し……しかし、タオルはすでにブルジュ・ローリエへ仕官しているのだろう?」
タオルはシュタインゲルグ王家の仇敵。そんな相手に弟子入りするなんて有り得ない話だ。
だが、それを店主に言うわけにもいかず、ルシルベアイスはなんとか言い訳を作って店主の案を拒絶した。
しかし、店主はすでにノリノリだった。簡単に自分の案を引っ込めようとはしない。
「まぁタオルに弟子入りするのは今じゃもう無理だろうが、他にも弟子はいるさ」
「いや、タオルに劣る者から教えを請うてもしょうがないのだ」
「ん? どうしてだい?」
「それは……」
いずれは倒さなければいけない敵の陣営にタオルがいる。ならば、タオルより劣っている者に助力を請うても意味がない。……と、これも正直には言えなかった。
「大仰なことを言うようだが、私はタオルを超えたいのだ。今はしがない浪人の身でしかない私だが、いずれ大陸一の将軍になりたいと思っている」
嘘を吐き慣れていないルシルベアイスが苦しそうにそう答えると、店主は一瞬きょとんとして、それから楽しそうに笑った。
「あははは、随分と野心家なんだな。けど、その心配は無用だ」
「どういう意味だ?」
「さっき言っただろ? タオルは爺さんのところで一、二を争うキレ者だったって」
「それが?」
「つまり、あのタオルと互角に張り合っていた弟子がもう一人いるってことさ」
「どうせ、その者もどこかに仕官しているのだろう?」
「それがなぁ、あいつはまだどこにも仕官してないんだよ」
ルシルベアイスは切れ長の目をまん丸にして驚いた。
「そ、それは……真か!?」
店主はルシルベアイスの表情の変化を愉しむようニカッと笑い、ドンと自分の胸を叩いた。
「あぁ、真も真。大真だとも。おっちゃんは美人に嘘をついた事なんて一度も無ぇからな。あはははは」