最終章〈会議室にて〉
「皆、集まっているようだな。
早速だが我々は今後、アブジーの存続と威信をかけての大博打をしなければならん。
実は、今回闇組織ブラッディマリアの本拠地を捜索及び殲滅を実行するにあたり
野川 智弘警部補とシンディー・ジョナサン警部補には潜入捜査をする人物を選定し
いくつかの情報を掴んでいたのだ。」
あ、こないだ智弘君がいってた件ってこの事だったんだ。
でも潜入捜査って要はスパイじゃない?
それってバレたら目も当てられない物凄く怖くて肝っ玉が据わった人じゃないと
とても無理だわ。
大胆で沈着冷静で、判断力も機転も要求される危険な任務。
「私じゃ絶対に無理だなぁ、別に潜入捜査とかしなくても良いんじゃ?」
と思わずぼそっと呟いたのを、運悪く春樹に聞かれてしまった。
「だろうな。
誰もアバウティーにそんな大事な任務を頼む訳ないだろう。
何しろお前は、アホぅにアバウティーという二枚看板を背負っているからな。」
くっ、ついに春樹にまでアバウティーの烙印を押されてしまった。
「それとだ!
潜入捜査はいわば、我々の命綱なんだぞ?
どんな場所か、どんな間取りか、手勢がどれだけいるのか。
それと、どんな罠が仕掛けられているのか。
それを知らないまま捜査など自殺行為も甚だしい。
かの有名な赤穂浪士も討ち入りまでに、どれだけの準備が必要だったか。
入念な準備、入念な情報、入念な戦略、それに万全な戦術。
討ち入りも潜入してそれらの情報を得たからこその成功だったのだ。
貴様は今迄、何を学んでいたんだ!」
ちょっと、声が大きいわよ。
「あー、藤田くん。
説教はそこまでにして、話を進めても良いかな?
君達の仲が良好なのは周知の通りだが、この緊迫した会議の最中に
痴話喧嘩は謹んで貰いたい。」
ほらぁ、普段温厚な木戸課長まで怒らせちゃったじゃない。
「ごめんなさい。」
「誠に申し訳ありません。」
私達は、同僚達に白眼視されながら頭を垂れるしかなかった。
「で、先の2人から得た地図を元に闇組織のアジトを探ってみた。
その場所は廃病院。
御誂え向きに地下室には非常に大きな霊安室もあり、奴等が居を構えるには
これ以上に似合いの場所もない。
そして地上5階立てで、しかも病室には陽光除けの遮光カーテンまで備えてある。
鑑みるに相当大規模な現有戦力が終結しているようだ。
今回の作戦は正直言って、文字通り命がけになるだろう。
各自にそこの病院を含む立地と、病院内部の地図を渡しておくので
目を通しておいて欲しい。」
はぁ、凄い。
病院周辺から病院内の間取り迄、地図には克明に記されている。
「闇組織ブラッディマリアの最高権力者はシモーヌ・ミシェル・ド・ダルク。
首領を名乗って反政府を気取ってはいるが、所詮は血に飢えた悪鬼。
だが潜入捜査をした巡査曰く、全てを見透かす程の洞察力と冷徹さを兼ね備えた
姿を見る事すら恐ろしくて出来なかったと言う事だ。
だが、それでも我々はやらねばならん。
目標は闇組織ブラッディマリアの根城、廃病院の徹底捜査
それに首領及び幹部の逮捕が最優先だ。」
いよいよ、来るべき時がきたのね。
姉さん。