哲学的彼女企画「生徒会長の重い愛」<ジャンル:コメディ 恋愛 シリアス 学園>
哲学的彼女企画に投稿したものです。
http://tetugakunovel.sakura.ne.jp/story_system/public_story/02125.shtml
時に君たち、俺のことをご存じであろうか。もしご存じでなければ、この場で知っていただきたい。
俺はとある高校に通う高校生である。
……え? 高校に通うのは高校生だから当たり前だって?
まあそんな日もあるってことでこの話はおしまい。
ちなみに生徒会副会長でもある。名前をカイという。名字は様々な事情により伏せておくことにしよう。
さて、俺のこんな話を聞きたくて君たちはここにはいないと思う。
俺のファンがいるなら光栄だけど、残念なことに今日のメインは俺じゃない。
俺の隣でせっせと四つ葉のクローバーをゴミ箱に捨てている、傍から見ても遠くから見ても頭がおかしい女性が中心となる。
正直そんな光景は見てて辛い。というか、この人は何をやっているの?
「カイに問題出すけどいいかな?」
「どっちでもいいけど、俺は間違えるに違いない」
俺のこの断言には力があった。
「私は何をやっているでしょう?」
「四つ葉のクローバーをゴミ箱に投入している」
「それが違うんだよね~。みんなそう間違うんだよね」
「じゃあ俺のが答えじゃね? つかみんなって何さ。そんな奇怪な行動を俺以外の人の前でもやってたの!?」
「私は、幸せを平等にしてるだけ」
「いつもの通り、凄く意味が分からないです」
残念なことに、この女性は俺の一つ上の先輩で、しかも生徒会長である。
「幸せは平等であるべきなのに、この四つ葉のクローバーは世界の秩序を破壊する凶器よ!」
何をどう考えても、あなたがやっていることの方が禍々しい。
俺は冷静に彼女にツッコミを入れる。もう慣れたから、驚くことは少ない。
「まあそれは前座なんだけど」
「え!? もうお腹いっぱいなんですけど……」
俺は丁重……低調に彼女のお誘いを断った。
「そう簡単に満足していいの? 満足したら人は成長できないわ」
「俺にとってはこれ以上成長しなくても構いませんが」
「せっかく真人間になれるチャンスだったのに……」
憐れんだ目で俺を見る生徒会長。
いやいやそんな目を俺があなたにしたいですよ。
あれ?
「ちょっと待って下さい! 今まで俺のこと何だと思ってたんですか!?」
俺は十分な真人間だと思うんですが。
「だからこそ私はあなたを自分の領域内に入れてるのだけれど」
「聞いてねえよこの人」
この人は自分の論を語っているときは、誰の言葉も耳に入らない。
「つまり貴方のことが大好き。アダムとイヴのように愛しあいたいの!」
「ここで告白かよ! どんな論理展開!?」
「私の乾いた心を満たしてくれるのは、あなただけなの……」
そっと彼女が俺に寄り添う。
何故だろう、全然ドキドキしないのだが。
「我思う、故に我有り。今日も忠実に人間したわね」
「あれ~? 今までの素振りはどこいったんだ~?」
突如俺から離れ、考えるロダンのポーズをする生徒会長。
「見えそうで見えないスカートがたまらなく愛おしいとか考える暇あったら、幸せについて本気だして考えてみたら?」
「スカートが見えそうで見えないとかおかしいから! しかも最後何か聞いたことあるよ! というか俺そんなこと考えてねえよ!!」
俺は息切れし始めた。
多分水泳とかを本気でやっていても、俺は彼女との会話で息切れする自信がある。
「ツッコミ長いわね。幸せの前にそっちの方を考えるべきね」
「あなたは俺に何をさせたいんですか?」
この会話にデジャブを感じるのは気のせいではあるまい。
前世か何かに、後輩の女子あたりにこんなことを言われたに違いない。
さらにその子は、彼女とおなじように頭のねじが緩いに違いない。
そしてこんな妄想をする俺は末期に違いない。
「とりあえず、みんな黙って仕事しているのに、あなただけ自分の仕事が終わっていないのはどういう挑戦?」
敢えて言い忘れていましたが、ここは生徒会室であり、俺と彼女以外に数人の人間がいる。
何人いるのかとか、男女比は何なのかとかは、これも敢えて言わず。
「いやいや、貴方は俺にツッコミを強要させてるでしょ!!」
「その話は終わりよ」
「理不尽だ!!」
「そう、世の中は常に理不尽なのよ。私たちのように、バカやって生活している人たちもいれば、食事すらまともに手に入らず、生きることで精一杯の人たちもいるわ。目の前の真実の扉が存在しているのに、恐怖で無かったことにしている貴方には到底気付かないことだとは思うのだけれど。でもそんな貴方が大好き。貴方の考えや論理にケチをつけたくはないのだけれど、絶対に動かない事実が存在していることを忘れてはならないわ。事実から目をそむけて生きることの方が確かに楽よ。でもそんな貴方が大好き。幸せと言うのは人それぞれだから、私は貴方の幸せについてもどうこう言いたくはない。けれど、偽りの幸せを手にして、本当に心は楽なのだろうか? 多分私は無理。でもそんな貴方が大好き。私は一度決めたことは曲げないわ。私の哲学の一つ。それで、私が最後に言いたいことはただ一つ」
こんな女性見たことないです。
俺は彼女の話を、疲労を感じながら聞いた。
「ただ一つ……?」
しかし、妙にためる彼女の言葉には、耳を傾けてしまう。
何と言うマジック。この人のおそらく数少ない長所らしきところに違いない。
「あんまり痛くしないでね……?」
「何がーーーーーーーー!? ためておいて意味不明な結論かよ!!」
「失礼ね。まだ論理は続けられるわ。私の無限の可能性を否定しないでもらいたいわ」
「いや、もういいです……」
俺は仕事をするために自分のデスクへと赴き、着席。
そして初めて机の上に置かれたプリントを目にする。
さらに目が点になる。
「な に こ の か み ?」
俺は生徒会長が作成したと思われる謎の用紙を、作成者(仮)に見せる。
「私とあなたの愛の楽譜よ!」
ちなみに、プリントにはおたまじゃくしもレーンも書いていない。
書いてあるのは、「幸せの人生設計(私とあなたのキャッ)」という一文だけだった。
「その紙に書くことをね、単純明快に具体的に説明するわね」
俺が拒否する前に彼女は話し始めた。
途中退室が認められないのは、薄々分かっているだろう?
「まず貴方にとっての幸せを記入するのよ。記入の際、書きものを持つのは利き手でも、逆でも構わないわ。いつもそんな貴方が大好き。次に、私が貴方の幸せと自分の幸せの共通点を見つけるの。とりあえず、それをしながらキャッってするわ。貴方もそれは必須。そしてそんな貴方が大好き。その後、世界全体の幸せについて二人で考えて書きこむの。でもここが一番気をつけておきたいところなのだけれど、貴方の「世界」と私の「世界」が異なる場合、まずは世界について私たちが論じないとダメなのよね。だからそんな貴方が大好き。相互理解と言うのが結婚で一番大事な要素だと思うのよ、私は。とりあえず、その後は世界全体の幸福を世界人口で割る計算をしないといけないのよ。正直、幸せは量より質だと私も分かっているわ。ミルの言うことは、いつも私を解放状態へといざなってくれるもの。でも、幸せは平等であるべきなのよ! 貴方が大好きっ! それを考えるとね、ミルと私は敵同士になってしまうのよ……。そのジレンマが私にとっての幸せに値したりするのだけれど。私、実はドMだから、虐められれば喜ぶのよ。ミルとペンサムの話題を出すと、1年以上牛乳を飲まなきゃいけなくなっちゃうから、この話はここでおしまいにするわね。本当に貴方が大好き。最後に、私たちに見合った幸せを見つけて、将来を具体的に計画していくのよ。どう? 何だかワクワクしてこない?」
「まずはよだれを拭きましょう」
「舐めて」
「拭きます!!」
俺は彼女の口から漏れ出たよだれをティッシュでさっと拭きとり、ゴミ箱の中へと放り投げた。
何故俺は彼女と知り合ってしまったのだろうか。
もし、これが運命と言う奴なら俺は神様を七代先まで呪ってやる。
でも寛大な俺は、それ以降は許してやる。
神の悪戯か、はたまた人為的な何かかは分からないが、俺と彼女のファーストコンタクトを俺は回想せざるを得なくなった。
この学校。K学園ということにしておこう。
俺がこのK学園を受験した理由は大したことは無い。
「家に近いから」
「それ分かるな」
俺は悪友のTと一緒にそんな会話をしながら登校する。
まあここまではいつもと変わらぬ状態。
ただ、神様は俺を見捨てる好機だったのかもしれない。
彼女にとっては何食わぬ質問だったのかもしれない。
「ねえ、貴方って幸せ?」
「微妙ですね」
突如耳に入って来た声に、半ば反射的に返答をしてしまった俺。
今になってこの行動を悔いるも、それは全て遅し。過ぎ去りし事!
彼女はそんな俺に興味深々のまなざしを向ける。
黙っていればかなりの美人である彼女に見つめられては、思春期の男子である俺にとってはかなりの幸福感に浸れる。
彼女が生徒会長だと知ったのはそれからすぐのことであるが、彼女が変人だと言う噂を俺は聞いたことが無い。
「貴方! 名前は!?」
「え? え?」
これはチャンス到来か。
俺にもようやく春が回って来たとこのときは思った。
春の後ろで冬が手招きしているのに気付かず、のほほんと真実の扉から目をそむけた俺は、今考えれば浅はかであるとしか言いようが無かった。
「カイ」
「幸せディスカバー!!」
彼女に引きずられて連れて来られたのは、生徒会室と言う名の、彼女の独裁ルーム。
正確にいえば、都合により彼女以外ひとこともしゃべらない人たちを観客とした彼女の舞台。
俺は舞台袖でも、観客席でもないところから強引に彼女によってその舞台に出演することになってしまった。
俺にとっては悲劇ではあるものの、視聴者から見れば喜劇である。
人の不幸は蜜の味とは上手い言葉だ。誰が考えたのか。そして俺を笑いたければ笑え。そしてこんな変人をそれでも愛せる人たちは俺を妬め。
「まず初めに。君の哲学を私に教えてほしいな」
俺は彼女の名前を知らない。今思えば、自己紹介などされた覚えが無かった。
「俺の哲学ですか……?」
このときに恥も外聞も服でもいいから投げ捨てて部屋から出ていけば、今の苦労は無かったのかもしれない。
ファーストクエスチョンが歪だということに、いち早く気づいていれば、または熟考していれば結果は違ったかもしれない。
だがそれを裏付ける証拠はここには存在しない。
「そうですね……特には無いですね」
「無い!?」
彼女の目が輝く。
何度でも言うが、顔だけ無駄に美人の彼女の目が輝けば、どんな野郎でもドキドキするだろう。
俺はそんな彼女の詐欺に引っ掛かり、そのまま彼女と仲良くなろうと試みる。
「貴方はあるんですか?」
「私は……いっぱい粒はあるのだけれどね。明確なものが少しだけ」
「何です?」
「幸せは平等に! 私が幸せなのに、貴方が幸せじゃないのは納得いかないの」
彼女は本気で悲しそうな顔をする。
これは参る。男ならみんな堕ちる。男はバカだよ。
「だから、全力で貴方を幸せにするわ!!」
俺はこの数分後、副会長となり、彼女の奇怪な行動の歯止め役または被害者として地獄を見ることとなった……
地獄は天国より暇じゃなし。
「全ての始まりは、ここからだったわね」
俺と彼女は、生徒会室で久しぶりに二人っきりになる。
二人だからと言って彼女は俺に積極的に甘えたりなどはしない。いつもしてるし。
自分を隠さずに生きる、彼女の哲学の一つだ。
俺と彼女が過ごした日々の中には、様々な出来事が福袋のように詰まっていた。
その中で、彼女は自分の中にある様々な哲学を生み、考え、破棄、採用を行ってきた。
「もし私が死んだら、貴方も死ぬって約束のことなんだけど……」
「すいませんが、そんな約束はしてない!!」
「つれないわねー」
彼女が少し頬を膨らます。
何かいつもと様子が違うのは気のせいではないだろう。
「何で私が貴方に話しかけたか、知ってる?」
「気になりますね」
神様の偶然ならどんなに良かったことか、だが、彼女の中には神様は存在していないだろう。
いつも決めるのは彼女であり、神様ではない。彼女の哲学の一つだ。
「私たち、前世が恋人だったのよ」
「んなバカな」
「実は貴方が昔ジュリエットで、私がロミオだったの」
「シェイクスピア本当に好きですね! というか輪廻転生信じてるんですか? 貴方は」
俺は意外そうな顔で会長を見る。
「面白い考えだと思うけど、私はあんまり好きじゃないわね。一つの生の価値が下がる気がして。生きることを安っぽく見てる理論でしょ、それ。私は今生きているこの瞬間を大事にしたいのよ。いつものように貴方が大好き。「私」という存在があることを証明するための唯一の手段は、生きることだと思うわ。でも、ダラダラ生きても証明できないと思うから、私は激しく、出来れば貴方といやらしく生きるわ。今生きていることを幸せに思うことにしてるのよ、私は。生きていなければ、こういうことを考えないと思うし、貴方とも出会えなかったし、さらにはこれから先、貴方の子供も産めないってことを考えるのはとてつもなく嫌なのよ。だから私は人生を自分で決める。でも貴方と生きるって決めたから、貴方の意見にも耳を傾けるわ。貴方が大好きすぎて。もう、自分が存在しないなんてことは……嫌だもの」
ときどき彼女は寂しそうな顔をする。最近では、一緒に過ごした長い時間のおかげか、彼女の微かな変化にも気が付くようになった。
彼女のプライベートなことを尋ねたことは一度もない。
興味が無い訳ではない。単にそんなことを聞く必要が感じられなかったからだ。
それに、彼女が話したいときは自分から話すだろう。
彼女の過去に何があったかは知らない。けれど、今を生きることが全ての彼女にとって、過去など無意味だろう。
「実は私さ、戸籍ないのよね」
「はい?」
折角彼女のことについてのまとめに入ろうとしたのに、その編集の邪魔をする。
しかも、また訳のわからん話のようだ。
「あー。信じてない。妻の言うことは信じなきゃダメだぞ☆」
「……」
あー、結構まともな話をしてるっぽい。
彼女は、普段が普段なだけに、シリアスめの話をする際には、暗くならないように無理に明るくふるまう癖がある。
これも彼女とすごした年月から得た代物。
「私さ、昔双子の妹がいたんだ」
俺は少しだけ目を細める。彼女が話すこと自体に意味があるような気がした。
「でもさ、小さい時に死んじゃってさ、あまりのショックで両親が私のことを死んだ妹だと思い込むようになっちゃったの。だから、私が死んだことになっちゃった。幸い、趣味は似てたから、そこまで苦労はしなかったけど……やっぱショックなのよねえ。私の存在が無くなるのは」
彼女は自嘲気味に笑う。
俺はそんな彼女を抱きしめる資格は無い。彼女の想いにこたえる自信が無いから。
「でも両親も妹も恨んでないわよ。誰かを悪者にする生き方は、醜いもの。価値なんてほとんどないもの……」
人の衝撃的な過去を知った時、人間はどんな反応をすればいいのだろうか。
俺は戸惑って何の反応も返せない。
「ま、急に過去を語ったら死亡フラグになっちゃうのよねー。だから私を一生守ってお願い!! そして結婚しよう!」
「すいません。俺はまだ17歳です」
「知ってる……。今日で君ともお別れだね」
今日は3年生の卒業式だ。
つまり、会長……すでに元会長であるが、彼女が卒業なのだ。
だから、俺が生徒会長であるのだ。まあそんなことどうでもいいのだが。
「進路はどうしたんです?」
「どうかしら?」
俺は急に彼女がどこか遠くへ行くのではないかと感じた。
俺の勘は良く当たる訳ではないが、嫌な予感がした。
「決まってないんですか? 大学とかは?」
「貴方にはもう関係のないことでしょ」
「……」
それを言われるとつらい。確かに今まで何ら彼女のプライベートを聞かなかった俺には、資格なんてあるはずもないだろう。
故に、何故こんなに自分が彼女のことを聞くのかが、気になった。
自分のことは自分が一番理解しているはずとは思いつつも、自分の中にもブラックボックスがあるようだ。
それは中身が分からない意味ではなく、開けたら何かとんでもない変化が起きてしまうという意味で、だ。
「ま、自分で決めた道に後悔はしない予定よ、私の哲学の一つ」
彼女はヒラヒラと手を振る。
これが彼女との最後の別れになるかもしれない。
本当にこれでいいのだろうか?
何も彼女にかける言葉は無いだろうか?
何か喉から出かかっていたが、それを俺は何とか飲み込む。
何故飲み込んだかは分からない。いや、すでに知っているのか?
だが、俺の口から出たのはほんの少しだけの情。
「お元気で」
俺は生徒会室からいつもと変わらずに出ていく彼女を見送った。
そして周りを見渡す。
そこで感じたのは、俺と彼女が過ごしたさまざまな思い出と、生徒会室の意外な広さであった。
俺は近くにある日誌をとる。
これは、彼女が幸せ日誌と称して、俺との未来を勝手に予想して書いた日誌である。
当然ながら教員には見せられず、俺が別の日誌に活動報告を書いて出している。
その後、本棚の中に立てかけてある写真も手に取った。
写っているのは生徒会メンバー。俺が彼女に抱きつかれて困ったような顔をしているのが特徴的だ。
このとき、確か合宿で海に行っていたはずだ。
生徒会活動と称していたが、実際は単なる息抜き……いや、遊びに行っただけである。
ちなみに、経費で落とした。俺はまともな人間であるが、そこまで真面目な人間ではないため、それについて咎めるつもりは毛頭ない。むしろもっとやれ状態であった。
最後に、生徒会長席に座ってみる。
……虚しかった。
俺が座るべき椅子ではないのかもしれない。
いや、彼女が座っていることに慣れ過ぎていた。
顔が美人なだけのとんでもない変人なのに、生徒会長席には気に入られているようだ。
本当に変人なのに……
何故だか、俺は急に目の前が霞み始める。
それが何故だか、語る必要は感じられず、語りたくもない。
だが、心は俺に真実を投げかける。
真実の扉が目の前にあるのに、俺はまた眼をそむけるのか?
だが……。
「俺は……貴方のようには……」
真実の扉を開けることに恐怖を感じているのか?
「それは……」
本当に後悔しないの?
「それは……」
春休みが終わった。
俺の気分は最悪のままだった。
結局真実の扉は閉じられたままだ。
このまま風化してしまえばいいと思うのだが、俺は彼女と違って過去を思いっきり引きずるタイプらしい。
彼女と違う……つまりは変人じゃない!!
……何故だろう、そこまで喜びの感情が起きない。
生徒会長である俺は、新入生のための挨拶の言葉などを言わなければならない。
今日ほど生徒会長職を呪ったことは無かった。
何だろう……まさかこれが不幸っていう奴なのだろうか?
俺は気乗りしないものの、責任感を頑張って引っ張り出して学校へ行くことになった。
登校して最初に行く場所はもちろん生徒会室。
鍵は俺が持っているのだが、変人の彼女が生徒会室の合鍵を持っているため、会長職を引退した後も忍び込んでいた。
その理由は、幸せ日誌を書くためという凄くくだらない理由であるが。
「ま、どうでもいいか」
俺は敢えて口に出して呟き、鍵を開け生徒会室に入る。
そういえばまだクラス発表を見ていなかった。
新年度になったらクラスが変わる。それは常識ではないか。(学校によりけりだが)
だが当然のごとく、見に行く気にはなれず、悪友のTに写メを送ってもらった。
どうやらTとは同じクラスらしく、少しほっとする。
俺はその数分後、入学式へと向かった。
新入生の時、俺は自分の学校生活がこんなものになるとは予想していなかった。
中学の時、特に何ににも打ち込んでいなく、趣味も特になし。
ダラダラと過ごしていた中学時代と比べると、ギャップがあり過ぎる。
「皆さんはこれからどんな学校生活を送るかは分かりません。突然生徒会に勧誘されるかもしれないし、突然自分の生活が激しくなるかもしれません。ですが、僕は皆さんが幸せにこの学校で生活できて欲しいと思っています」
俺は?
俺は今幸せか?
「これからどんな出会いや別れがあるか分かりません。今を楽しめるのは今だけ。だから後悔しない学校生活を……」
俺は?
俺は後悔していないか?
「送ってください」
俺は自分の言葉で考え事を打ち消す。
「以上です」
俺は胸の痛みを無視するように舞台から降りる。
そういえばもう俺は舞台の上で一人だけだ。
俺の一人舞台など、たかが知れている。
入学式が終わると、俺は教室へと向かう。
乗り気はしなかったが、生徒会長がサボるわけにもいかない。
教室内の空気は、俺を窒息させそうであった。
俺の居場所では無いようにも感じられる。
不快だが、Tとの会話で我慢する。
「危ない危ない危ない!!」
「?」
そのとき、教室の扉が勢いよく開けられた。
「ふう……初日から遅刻しそうだったわ」
「!」
俺は目を、耳を、鼻を、世界中のあらゆる事柄を疑った。
「久しぶりね、カイ。はい、これハワイのお土産」
「え、あ、はい」
俺はどうして彼女がこの場にいるのか分からずに、呆然とした。
「どうしたの?」
「な、な、な、何で貴方がここに!?」
何とか言葉を紡ぎだせた。褒めてやりたいところだ。
「私? 留年よ留年」
「……は?」
俺はすでに点になっている眼をさらに点にした。
彼女の言うことは、俺を混乱へと誘う。
「何よ。成績不振とかじゃないわよ」
「じゃ、じゃあ何で?」
「貴方といたいから」
「ええ!?」
俺は多少頬を染めた彼女を見る。
「私の幸せだもの……」
「で、でも……ええ!?」
「私は一度決めたことは曲げないわ。私の哲学の一つって言ったでしょ? 貴方と幸せになるって決めたもの」
彼女の言葉は俺の心を潤した。
俺の乾いた心を満たしてくれるのは彼女だけだと気付くのは、少し遅かったかもしれない。
「それとも……迷惑?」
少しだけ寂しそうに尋ねる。
今回は自分でもやり過ぎたと思っているのだろう。
俺は勇気が湧いてくる。
再び出現した真実の扉を開けなくては。
俺の手がドアノブを掴む。
予想外の重さに驚くが、今開けなかったら俺は一生後悔する!
俺が力を入れると、ドアは少しずつ開いていく。
だが、まだだ。まだ足りない。
俺は力尽きそうになる……が、急にドアが軽くなった。
「あ……」
振り返ると彼女がいた。
彼女が俺と一緒にいてくれる。
「いえ。俺も貴方といるのが幸せです」
俺は彼女と一緒に自分の扉をとうとう開けたのだ。
彼女は初めて俺に笑いかける。
「じゃあ、一緒に幸せになりましょう」
彼女は俺の手をとり微笑みかけた。
変人に恋した俺も変人だったという訳か。
だが、俺の人生に色が再び戻ったのは……違いない。
良かったら感想をください。