狭い世界で
剣と魔法の世界の学園のつもりで書いてますが、恋愛の話しかしてないので身分制度も剣も魔法もほぼ意味がありません。
期待に胸をときめかせ、根拠の無い自信に溢れていた。
教室の札を確認し、自身へ案内された紙と見比べ、一致しているのを確認する。
少し扉を開けると、まだ誰も居ないのか人影や物音も無い。
────私が一番乗りね!
その事にほんの少しだけ上機嫌になり教室に入る。
先程は見えなかったが、1番後ろの窓際に突っ伏した男子制服を着た人を目に留める。
────1番じゃなかった...!
一番乗りだと思い込んでいて満面の笑みで入室した彼女はほんの少し顔を赤らめ、羞恥を覚える。
入室に気づいたのか、ほんの少し顔を持ち上げこちらへ向く青い瞳。縁取るまつ毛は切れ長で、頭を動かしたと同時にサラリと揺れる黒髪。朝の陽光が背後から当たり、キラキラと姿を縁取る。
──ドクン
彼女の内部から心臓が脈打つ音が響いてくる。
目を逸らせない。
指先一つ動かない。
時が止まったのかと錯覚するくらいの静寂。
一瞬だけ持ち上げられた顔は再び目を瞑り、伏せられる。
胸が締め付けられるような息苦しさと、胃の底に落ちるような重い感覚、それなのに脳はふわふわと甘い感覚が漂う。
ドクン、ドクン
徐々に感覚を狭めていく鼓動に戸惑う。
────なに...これ...どうしちゃったの、私。
初めての感覚に焦り、身動きが出来なかった彼女は次に教室の扉が開くまで彼を見つめ続けていた。
ーーー
カイラは伯爵令嬢だ。妾腹のため庶子と馬鹿にされることも多いが、父の認知と国への届出でしっかりと伯爵家に名を連ねている。
父の伯爵家当主だが、跡継ぎである嫡男と愛妾であるカイラの母にしか興味が無い。特に母だけを溺愛している為、正妻と嫡男次男には母共々疎まれている。
愛妾である母は優しいが、ただの夢見る乙女で頭が花畑。子爵令嬢だったが恋に溺れ、愛する男と居れるだけで幸せよと妻子のいる父の元に囲われた。
父はカイラには興味が無い。父がカイラのために動く時は母がお願いした時だけ。入学試験を受ける時も母に「お父様にお願いして欲しい」と懇願し、母からお強請りしてもらった。
何とか入学し、入試成績上位10名に入ったカイラは特待生になることが出来た。
特待生は授業料免除と最低限の授業資材を学園から提供される上、寮も食堂も全て学園の資金で賄われる。
もちろん、裕福な家だと学園に恩を売るためその制度を次の順位のものに譲ることもある。
母から強請って貰えば父から授業料も何もかも出して貰えるはずだ。しかしカイラは自分の力で卒業して、身を立てようと思っていた。自身が好きに生きるには今の力関係ではダメだった。
母にしか興味のない父が、直ぐにでも嫡男に家督を継がせたいのも知っていた。そうなったらどうするのか。恋愛脳の両親にくっ付いて隠居生活について行くか。行かなければ、正妻や嫡男に厄介払いされるだろう。母にお願いして父に縁談先を見つけてもらう?母にお願いされたからと縁談先を見つけてきても、カイラには興味がない父の事だ、とんでもない家に嫁がされるかもしれない。
両親を当てにしていたらどうなるか分からない。自分一人で生きていけるように。
そう誓った。
ーーー
豪華な入学式を終え、翌日は初授業だと張り切って朝早くに朝食を済ませ、学園へ入る。
昨日入学式後に新入生歓迎パーティを早々に抜け、図書館で本を借りた。分厚い本は冒頭しか読み進めておらず、授業前まで読んでいようと大事に抱えて持ってきていた。
入試の成績順にクラス分けされる為、カイラの入る教室は上位20名の特進クラスだ。高位貴族や学者を目指す生徒が在籍する。
そのクラスに入れた喜びと特待生になれた自信で高揚していた。
一番乗りだと満面の笑みで教室に入ったが先に1人来ていたため、羞恥で頬を染める。
机に伏していた男子生徒が顔を上げるとまるで時が止まったかと錯覚するような静寂。
鋭い瞳に見つめられると先程まで静かだったのに喧しいほど心臓が脈打つ。
────なに...これ...どうしちゃったの、私。
初めての感覚に焦り、身動きが出来なかった彼女は次に教室の扉が開くまで彼を見つめ続けていた。
彼のひとつ前の席にすわり、本を開くが内容が頭に入ってこない。文字を目で追うが、何度も同じ場所を読み返してしまっていた。
やがて人が揃い、教師が入ってくる。自己紹介を教師が名前を呼んだ順にしていく。初めが公爵令嬢だったのも考えると爵位順なのだろう。彼の名前が呼ばれたのはすぐだった。
「侯爵家三男、サイシスだ。よろしく。」
その言葉が脳に響き、何度も繰り返す。
────サイシス様...侯爵家のサイシス様...
落ち着いたと思っていた心臓が再びドクドクと音を立て始める。
ーーー
次の日もカイラは同じ時間に教室に着く。
────今日も寝ているのね
昨日と同じく机に伏し、同じ席座るサイシス。
────挨拶するだけ。返事がなかったら寝てるだけよ。大丈夫。
そう言い聞かせながら声を掛ける決意をする。
「おはようございます、サイシス様」
本を両手で抱え込み、少し頬を染めながら朗らかに笑む。
むくりと顔をあげると
「おはよう...あぁ、カイラ嬢...だったか?」
名前を覚えて貰ってるとは思っておらず、肩が跳ねる。
「ええ!名前を覚えて頂いて嬉しいです。昨日もですけれどサイシス様は朝が早いですね」
何か話さなければと口が回る。
「早く来れば寝坊しないし、授業が始まるまで寝れるだろう?」
少し口角を上げ、告げる。
「あっ...お邪魔して申し訳ありません...」
せっかく寝ているのを邪魔してしまったと思い焦る。眉を下げ目を伏せる。
「いや、少しなら構わない。先程来たばかりだしな」
そう言いながら顔を伏せ、再び眠り始めた。
同じ時間に登校する2人は毎回挨拶と一言二言交わしていた。
カイラはほんの少しだけの会話と、その後次の生徒が来るまでの本をめくる音だけが響く静寂がとても好きだった。
この教室だけ外界から切り離されたような感覚に心地良さと嬉しさを感じていた。悪巧みや人に聞かせられない話をしている訳でもないのに、サイシスとだけ共有する秘密を持ったみたいで擽ったさも感じていた。
ーーー
1ヶ月経つ頃、公爵令嬢のレイニチュカ様がクラスの全ての女生徒に声を掛けた。
「せっかく同じクラスになったのだもの。もう少し、皆様とお話したいわ」
学園のサロンを貸切したのでまずは女生徒だけで親睦を深めようとの事だった。
和やかに進んでいた親睦会で突然異性の話が持ち出される。
「レイニチュカ様は殿下の婚約者ですわよね?聞いても宜しいですか?」
「ええ。良くして頂いています」
ぽっと頬を染めるレイニチュカにきゃあきゃあと黄色い声を上げ喜ぶ。カイラもこの手の話に混ざったことが無かったため、興味津々だ。
「朝も一緒に登校されておりますよね?」
「殿下が迎えに来てくださるので」
「入学式、在校生は学園がお休みだったのに殿下をお見掛けしましたわ」
「入学祝いをとコレを渡すために逢いに来てくださいました」
恥じらいながらも話し、周りは盛り上がる。レイニチュカ様がさすがに恥ずかしさに耐えきれなくなったのか
「皆様は婚約者や意中の方はおりませんの?」
そう聞くと話したい令嬢が次々と順番に話し始める
「私は婚約者がおりますわ。婚約したばかりなのでこれから仲良く──」
「私もおりますが、なかなか会えなくて...手紙でよくやり取りを──」
「私は意中の相手もおりませんが、レイニチュカ様と殿下の様な睦まじい関係に憧れていて──」
「2学年の先輩に助けて頂いたのですが、対応が素敵で──」
「放課後鍛錬をしている姿が凛々しくて──」
思い思いに話していく彼女達に、特に話を持っていないカイラも楽しかった。茶会などで庶子と馬鹿にされることが多く、もっと色んな人達と話してみたいと思っても父は連れ出してくれない。母は父がいればそれで良さそうだったので、母に願っても「後でお父様にお願いしてみましょうね」と微笑むだけだった。
つい両親の事を思い出しているといつの間にかクラスの男子生徒についてどの方が素敵かという話になっていた。
「サイシス様はお話した事ありませんわね」
「私もです。休憩時間もよく寝ていらっしゃるでしょう?」
「侯爵家というのもあり、見目も良いので話しかけづらいというのは有りますね...異性ですし」
「殿下も含めて幼なじみなのですが昔からサイシス様は無愛想なのです。たしか、この前お茶会で殿下が話をふった時にリリア様とカイラ様とお話した事が有ると話していましたわ。」
レイニチュカ様がふと思い出した様に呟く。その言葉に思わずドキリと心臓が跳ねる。
リリアとカイラに視線が集まり、なんと言おうかと慌てる。
「私は、登校した時に朝の挨拶を何度かしました...」
少し頬を染め、慌てながら
────何度かって...毎日挨拶と会話をしているのに、何故誤魔化してしまうのっ?
「カイラ様は確かにいつも先に教室にいますものね」
「どんな感じでしたのっ?」
キラキラした様な目でみつめられ
「いつも眠そうですが、挨拶をすると何時も顔を上げて返事をしてくださいます」
きゃあきゃあと楽しそうに騒ぐ彼女達。
「怖そうと思ってましたけれど、お優しそうですわね」
「ちゃんと挨拶も返してくださるのねっ」
次はリリアの番だとばかりに全員の視線がリリアに集まる。
リリアの顔が真っ赤に茹で上がる。
「きゃっ!その反応は期待できますわ!」
「リリア様、恥ずかしがらなくていいんですのよ」
「そうですわ!誰も噛み付いたりしませんわ!」
満面の笑みでリリアを取り囲む。赤面しながらも言葉を紡ぐ。
「えっと...大したことでは無いのですが、入学して1週間頃の事です。この学園て広いでしょう?放課後ひとりで訓練場を見に行って帰ろうとしたら迷子になってしまって...」
言葉を詰まらせながらも少しづつ話す
「周りに誰もおらず、不安でどうしようとその場に立ち尽くしていたんです。不安過ぎて周りが見えていなかったのか、サイシス様がいるのに気づかず...後ろからサイシス様に声をかけていただいて...」
嬉しかった出来事なのか徐々に顔をへにゃりと崩し嬉しそうな顔になる。
「迷子だと言うと学園の入口まで案内してくださったのです」
きゃあきゃあと騒ぎ出す。
「それで?リリア様はやっぱり...?」
「ちょっと!問い詰めるのはダメよ!」
「そうよ、本人が言うのを決めなきゃダメなのよ」
「いえ、いいんです。......あの...私、サイシス様のことが
────好き、なんです...」
ガツン。
カイラの頭に何かが響いたような気がした。
「まあ!そうなのね?サイシス様も三男なので婚姻などはそこまで厳しく無いと伺ってます。応援致しますわ」
レイニチュカ様の言葉を皮切りに堰を切ったように「私も応援します」「私も」と続く令嬢たち。
────この気持ちは...。いいえ、私は両親のような恋愛脳にならないと決めたのよ。そんなはずないわ。
痛む胸に手を添えながら、笑えと念じ
「私も」
と口に出した。
笑えていたかどうかは分からない。リリアに夢中になっていた彼女達はカイラに視線を向けることなく、盛り上がっていた事が救いだった。
ーーー
カイラの母はお姫様みたいだった。銀糸の様なサラサラとした髪にヴァイオレットの瞳。パッチリとした目にぷっくりと瑞々しい唇。
何時も優しく微笑み、カイラを慈しむその目が大好きで幼い頃はベッタリだった。
そんな優しい母の1番は何時でも父だった。寝る時も一緒がいいと毎回グズっていたが、その願いは叶えられることがなかった。
「また今度一緒に寝ましょう」
そう言って頭を撫でられ、乳母に寝かし付けられるまでが何時もの流れだ。
毎夜毎夜伯爵に呼ばれ、母は朝まで帰らない。
今ならば分かる。床を共にしていたのだろう。
穏やかな母が時に怒ったり泣いたりしている時があった。その時は夜も母が近くに居たが、一緒に寝てくれることは無かった。成長すると共にそういう時は正妻を伴って父が社交に出かけている時だと理解した。
母は父が屋敷帰ってくるまで待っているのだ。帰ってきた途端、父の寝室に赴く。
父と正妻はお互い嫌悪しあっているので次男が生まれた時から床を共にしていないのだと使用人の噂で知った。
母はそうだと分かっていながら
「あの女が色仕掛けしてきたら...」
「何時でもそばにいたいのに、社交はあの女を連れていくのね」
「愛されているのは私よ...」
正妻に嫉妬していた。
普段はしっかり正妻を敬って「何も脅かさないわ、愛があれば」と言うよう振舞っている母。
父が傍に居ないと、あれだけ溺愛されていても不安になる。
母が少しでも「寂しかったわ」と告げれば、一日中そばに居てやり、世界の中心は母だ言わんばかりの父。
父が母に張り付くと、家内の業務が滞ることもあった。そうなるとカイラに対する正妻やその子息と使用人の風当たりが強くなるだけだった。母はそばにいないし、皆が冷たくなる。いい事なんてひとつもなかった。
父の尊敬できるところなんて、伯爵家を存続させるだけの頭がある事だけだった。
そんな父と母を見ていたカイラは「こんな人間にならない。恋愛なんてしない」
そう思って、自立し、身を立て一人で生きていこうそう決意した。
はずだった。
リリアの「サイシスが好き」という言葉に、もしかして、自身もサイシスが好きなのでは無いかという考えが頭をよぎった。
────そんなはずない。私はあの人たちみたいにならない。私の血筋は恋愛なんてしても、あんなに苦しい思いをして周りに迷惑かける両親からの血よ。恋なんて...しないと決めたの。きっとこの感情は、朝のあの居心地の良い空間が壊れる。そう思った寂しさよ。リリア様がサイシス様とお付き合いや婚約をしたら二人で会話する場面なんて誤解を産む種にしかならない。そうなったら登校時間を遅らせなければならないかしら...
ーーー
翌日いつも通りに登校し、サイシスと会話をする
「おはようございます、サイシス様」
いつものようにむくりと起き上がり視線を交える。いつもは感じないのに瞳を見ると後ろめたさと、ズンと胃が重くなる。
不思議そうな顔をしてから
「...カイラ嬢、おはよう。次は魔術理論を読んでるんだ。それ、前に読んだことある。」
────せっかく話しているのに勝手に落ち込んではダメよ
務めて明るく振る舞うが、どうしても瞳だけは見つめられない。
「そんなんですね!どんな雰囲気だったか伺っても?」
「興味深かったよ、それを読んでからその作者の本を読むようになった」
「分かります!まだ少ししか読んでませんが切り口が面白いですよね」
「それを読み終わったら、次の本をおすすめさせてくれ。」
言い終わると、欠伸をしてから再び顔を伏せる。
いつもと違ったのは目を伏せるまでこちらをジッと見ていたことだろうか。
些細な変化だと気にせず、いつもの席に座り本を開く。
ポツポツと人が来始めた頃、友人に背中を押されるようにリリアが登校してきた。
どうやら、サイシスに挨拶するかしないかコソコソと言い合っているようだ。
リリアがこちらに目を留めたため、ニコリと微笑む。
パッと笑顔になりカイラに近寄るリリアと「そっちじゃないでしょう...」と呆れる友人。
「おはようございます、カイラ様」
「リリア様、おはようございます」
「おはようございます、カイラ様。────リリア様がサイシス様に挨拶したいようで手伝って欲しいんですの」
後半はコソッと耳打ちしてきたリリアとよく一緒にいるマーリン様。
ズキッ
軋んだ心臓を無かったことにして微笑む。
「あら?...ふふ。もちろんです」
────応援すると賛同したのは自分でしょう。しっかりしなきゃ
「サイシス様」
声をかけるとむくりと起き上がる。
「カイラ嬢...?」
不思議そうに顔を上げながらこちらを見る
そこでリリアの背中を押す
「あっ...あのっ...えっと、おはようございます、サイシス様」
訝しげにカイラをチラリと見てから、頬を染め下を見つめながらもじもじとするリリアを見やる。
「あぁ...おはよう。」
ぽっと頬をさらに上気させ、いっぱいいっぱいになったのか、逃げるリリア。
「あっ...リリア様、まって!」
マーリン様が後を追う。
サイシスは再びカイラをチラリと見てから顔を伏せる。
嫌な音を立てながら心臓が軋んでいく。それを感じながら席に戻った。
それからペアの授業や、ちょっとした係でリリアとサイシスを2人にさせようと女生徒たちが協力していく。
その度にカイラへ視線をやるサイシス。それは何故かは分からないが、いつも逃げるように顔を逸らしていた。
知らない内に放課後2人はよく話すようになったみたいだ。今日もリリアとサイシスが連れ立って教室を出ていく。
2人をじっと見詰め、姿が見えなくなると唇を噛む。
自分を誤魔化すのがどんどん下手くそになっていった。
ーーー
それから1ヶ月ほど経った頃、いつもの様に登校するとそこにサイシス様は居なかった。
リリアと仲が良くなろうと、サイシスは変わらずカイラより早く来ていた。朝のこの時間だけは2人だけの特別だった。
不自然にリリアを推すこちらに何か言いたげな視線を貰うことも多かったが、それでもこの時間だけは何時もの世間話をしていた。
────どうして、今日は居ないの...?
不安に瞳が揺れる。いつもの席に座り、本を開く。初日の朝の様に内容が頭に入ってこない。
1人だけの教室は初めてだった。いつもと同じく暖かい陽光が差し込んでいるのに、どこかひんやりと冷たい空気。
誰かが登校してくる度に、そっと視線を向ける。サイシスはまだ入ってこない。
暫くすると教室の外が騒がしくなる。
何だろうと視線を向けると、サイシスにエスコートされるリリア。
ゴンッ
頭を殴られたような衝撃と、指先から駆け上がってくる悪寒。
リリアが席に着き、サイシスもいつもの席に向かうと、リリアの周りに女子が集まる。
「どうしたんですのっ?」
「まさかっ...」
「何かあったんですのね?」
きゃあきゃあと取り囲みながらリリアの言葉を待つ。
「女性からははしたないのかしらと思ったんですが...昨日、私の気持ちを伝えたのです」
頬に手を添え、嬉しそうに微笑む。
「そしたら、婚約などはまだ考えられないけど私さえ良ければ付き合ってくれ...と」
「そしたら、今日から一緒に登校することになりまして...」
女子たちが口々におめでとうございますと祝福を告げる。カイラも「おめでとうございます」と微笑みを意識しながら告げる。
「カイラ様も本当にありがとうございます。初めのきっかけを作れず、カイラ様がサイシス様に声をかけてくださり挨拶を出来たのが取っ掛りになりました。後でお礼をさせてください」
嬉しそうに微笑むリリアに胸が苦しくなる。何とか返事をしようとした時、教師が入室し慌てて席に着く。
脳がぐわんぐわん揺れて、授業も何も頭に入ってこない。
フラフラとしていると隣の席のバーバラ様に心配をされたので
「...風邪かもしれません、医務室へ行ってきます。申し訳ありませんが次の授業の先生に伝えてくれませんか?」
「もちろんですわ...お大事になさってください。一人で大丈夫ですか?」
心配そうに見つめるバーバラ様に胸が熱くなる。
「ありがとうございます。医務室までなら平気ですわ」
安心させるように微笑み、医務室へ向かう。
熱が出ているようで暫く医務室のベッドに横になるように指示される。
「暫く寝てもらったが、熱が下がらないから今日は早退しなさい。寮母さんにも頼んでおくから。授業は担当の教師に伝えておくので安心しなさい。」
そう言われ、重い体を引きずりながら寮の自室にたどり着く。
制服のままベッドに倒れ込む。
────リリア様が悪いわけじゃない。
それなのに憎く思えてしまう。
────サイシス様も毎朝私と楽しそうに会話しながら...なんで。
友人との会話に何故も何もない。
わかっていた。
全てわかっていた。
────恐れ多くも予想が当たっていたとするならば、サイシス様は私に興味を持っていた。
恐らく、幼馴染であるレイニチュカ様以外で親しかったのは私だった。
リリア様が近づく度にサイシス様から向けられる私への視線。それは、こちらの反応を確かめるものだったのだ。私がサイシス様へ関心を示していたらこの結果は違ったのだろう。それをことごとく無視し、リリア様をすすめていた。
相手が興味無さそうだったら、芽生えた気持ちも冷める。そういうことだろう。そこへ熱心にアピールする可愛らしい令嬢。
自分に関心が無いものより、自分に興味を持ってくれる令嬢の方が好ましいだろう。
そう思っているのにサイシス様の決心を鈍らせていたのも私だ。
毎朝楽しそうに世間話をする私。きっと周りに生徒がいる時と態度が違うと思っていたことだろう。だからたまにジッともの言いたげな視線を向けられるのだ。
正直朝以外は、リリア様を応援すると言った手前サイシス様に必要以上に関わらないように避けていた。
矛盾した気持ちと行動を取っていた。だから余計にサイシス様を混乱させていたのだろう。
ここまでわかっている。
自分を知ってしまっている。
もう自身を騙し切ることが出来ない。
あれ程両親のようにならぬと決めたのに。彼に彼女が出来た途端に溢れ出てしまった。
嫌なら協力しなければ良いのに。
好きならリリア様に断り手伝えないと伝えれば良いのに。
頭では分かっていながら、自分の心に嘘をつき「恋じゃない」と言い聞かせ続けた。
意固地だったが、もう私の負けだ。
認めよう
初めて教室で視線を交わしてからきっと
「わたし....サイシス様が...
────大好き...」
呟いた一言にポロリと涙が出る。
一目惚れだったんだなとしみじみ思う。
自分の気持ちを認めると、好きな相手に彼女がいる現実が重くのしかかる。
「やだやだやだ...つきあわないでっ...うぅっ」
次々と涙が溢れ、止まらない。
初めてした恋は自分から手放したはずだったのにずっと燻り、失恋が確定した段階でやっと素直になれた。
自分で馬鹿だと思いながらも涙を止めることができなかった────
思いついた殴り書き。




