ズボラ〈天使〉を着飾りたい〈悪魔〉
『世界』と『世界』の狭間である『あわい』。誰も拒まない『世界』であるが故に、厄介なモノも招き入れる。
「(敵襲!)」
十年に一度に『あわい』で開かれる会議に、現われた招かれざるモノ。それは、理から堕ちた異形のモノ〈化生〉。
現われた〈化生〉は脅威ではないが、図体が大きい。それに、『あわい』では〈チカラ〉の影響力を考えて、大掛かりの〈術式〉の使用は禁止されている。
〈化生〉に向かって、誰かが飛び掛かる。それは、大剣を持った〈天使〉。
「(なっ!)」
その〈天使〉は〈化生〉を大剣で一刀両断。〈化生〉を囲んでいた〈天使〉と〈悪魔〉達は言葉を失う。
勇ましく、圧倒的な強さで〈化生〉を滅した〈天使〉。だからこそ、ぼさぼさの赤髪と色あせてヨレヨレの服装に、目撃した〈服飾の悪魔〉は我慢できなかった。
「(も、もったいないぃぃぃぃですぅぅぅ!)」
響く〈服飾の悪魔〉の嘆きに、皆が注目する。
〈天使〉達はなんだと困惑、もしくは何かの精神攻撃を受けたのかと警戒。〈悪魔〉達はいつものアレかと納得の呆れ、何事もなかったように、〈化生〉との戦闘後、『あわい』に浸食している穢れの浄化を開始する。
「(あの者は、いったい?)」
「(気にしないでください)」
短い金髪に碧眼の凛々しい〈碧空の天使〉に〈魔音の悪魔〉が言った。
「(ただの着飾り病ですので)」
「はっ?)」
〈化生〉の襲撃から次の会議の日。
「(私をどうする気だっ、離せ!)」
赤髪で大剣使いの〈紅蓮の天使〉を逃がさないように両脇を固めるのは、二体の〈天使〉。
〈装飾の悪魔〉にお願いされて、〈紅蓮の天使〉を捕縛したのは〈碧空の天使〉に〈天音の天使〉。
「(〈魔音の悪魔〉に青と翠、〈紅月の悪魔〉に金と碧色の衣装はいかがでしょうか?)」
訳、相手を自分の色に染めたくありませんか。二体の〈天使〉は喜んで協力した。
〈装飾の悪魔〉は捕まった〈紅蓮の天使〉に言った。
「(ワタクシにあなたをコーディネーターさせてください!)」
〈装飾の悪魔〉は美しいものが好きで、着飾ることを生きがいにしている。
あぜんとしている〈紅蓮の天使〉をよいことに、用意した自前の衣装を合わせていく。ちなみに、〈碧空の天使〉と〈天音に天使〉は、〈装飾の悪魔〉に念押しの約束をして、とんずらした。
「(あの、服など戦いの邪魔にならなければ)」
「(衣装は鎧でもあるのです!)」
〈装飾の悪魔〉は力説する。
衣装は最初に自分を紹介するもの。最初に与える印象だけで対応は変わっていくものである。
それに〈紅蓮の天使〉は戦いの役目を与えられた〈天使〉。戦士としての実力は高い、だから。
「(〈神〉の戦士として、なめられる隙を与えてはいけませんわ)」
一理あると〈紅蓮の天使〉は〈装飾の悪魔〉にまるめこまれた。
こうして、〈装飾の悪魔〉は〈紅蓮の天使〉に衣装指導や美容の手入れなどをしていった。
そして、ある日。
「(もう、大丈夫ですね)」
(装飾の悪魔〉のアドバイスにより、最初の頃よりも衣装も手入れが改善した〈紅蓮の天使〉。もう、自分は必要ないなと達成感を味わっていた。しかし、〈紅蓮の天使〉はそれをよしとはしなかった。
「(ど、どうしてなのですかぁぁぁ)」
改善していた〈紅蓮の天使〉が最初に出会った時よりもさらに酷い状況で、〈装飾の悪魔〉と再会した。
無造作に切られた髪に薄汚れて裾が裂けた衣装。おまけに〈紅蓮の天使〉の顔色は悪く、疲れているのがわかる。
「(申し訳ありません。忙しくて疲れて、そんな余裕がなくなってしまったのです)」
衣装担当などの家政の役目を与えられた〈悪魔〉である自分、戦いの役目を持つ戦士である〈天使〉では、『世界』と果たすべき役割も異なる。
こればかりは仕方ないこと、ならば。
「(わかりましたわ。ワタクシがあなたの専属になり、あなたを癒してあげますわ!)」
ぼさぼさになった〈紅蓮の天使〉に〈装飾の悪魔〉は、宣言した。
「〈よくやるな〉」
こっそりと二体の様子をみていた〈紅月の悪魔〉が呟く。
最初は〈装飾の悪魔〉に仕方なく付き合っていたのに、いつの間にか〈紅蓮の天使〉はほだされてしまった。〈装飾の悪魔〉の興味が自分以外に向かれることに嫉妬して、わざと自分から仕事を増やしたのを聞いた。
「(仕方ないだろう)」
同じ戦士の役目を持ちながら、前回の会議から変わった様子がない〈碧空の天使〉が〈紅月の悪魔〉を後ろから抱きしめる。
「(手放したくはないからな)」
情が深く激情な性質の〈悪魔〉は厄介な性格をしているモノが多いといわれるが、責任感が強く淡泊な性質の〈天使〉がする執着は、〈悪魔〉のそれを上回る。
〈碧空の天使〉からそれを向けられている〈紅月の悪魔〉は、〈装飾の悪魔〉にご愁傷様と呟いた。




