第7話:Case7(基底詠唱)
後年、この時代は
「人類が最も効率よく死んだ時代」と呼ばれる。
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【手記:回収ログ No.7-α】
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僕は、7人編成の部隊に所属している。
詠唱の速度を買われ、
冒険の記録をそのまま詠唱ログとして送信・保存する役割だ。
だから今も、こうして書いている。
編成はこんな感じだ。
攻撃が得意なやつが3人。
物理でいく筋肉自慢が2人。
料理詠唱が1人。
そして、僕。
ある日の夜、焚き火を囲んでいた時、
誰かが何気なく言った。
「なぁ、魔物ってさ……どこから湧いて出てくるんだ?」
「知らね。宇宙とかじゃね?」
「いつまで、こんな魔物退治しなきゃいけないんだろうな」
少し沈黙があって、
別の誰かが言った。
「だったらさ、湧いてる場所を探せばよくない?」
「それ、いいな!」
「お、なんか俺ら、階層上がった感じしない?」
その時は、
ただの冗談半分の思いつきだった。
でも、みんな笑っていたし、
次の日から、
本気で魔物の“湧く場所”を探し始めた。
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山岳地帯に入って、すぐに気づいたことがある。
山の奥に進むほど、
魔物の数は減る。
その代わり、
一体一体が大きく、
そして、強くなっていく。
考えてみれば、
生き物はみんな同じだ。
弱いものが追いやられ、
山を下りて暮らす。
強いものほど、
山奥や、深海に残る。
今まで戦ってきた魔物より
少し大きいくらい。
対応できない相手じゃない。
そう思っていた。
順調に旅は進んだ。
かつて存在していた小国の跡地を通り、
雪山を越えた先で、
大きな火山湖に辿り着いた。
その時だった。
ひと目、というより、
ひと耳、と言った方が近い。
湖の中心から、
ずっと音が聞こえている。
聞いたことがない。
でも、確実に「詠唱」だと分かる音。
ここだ。
ここが、
魔物の湧く場所だ。
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【Case7:発生源の特定と『基底詠唱』の観測】
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【1. 火山湖における音響現象】
手記に記された湖の中心音は、
従来の詠唱分類に該当しない。
歌でも、
呪文でもない。
それは、
世界が回転し、
摩擦が熱を生み、
重力が物質を引き寄せる。
この宇宙が本来持つ
基底的な物理プロセスの動作音に、
不協和音が重ねられたような、
極めて異常な振動であった。
解析班はこれを、
「OSの動作音に対する、
外部からのノイズ混入」
と記録している。
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【2. 生態系仮説の再検証】
「強い者こそ、山奥にいる」
手記の記述は、
生態系としては正しい。
だが、
人類側の誤算は、
“強さ”の定義にあった。
山の麓にいた魔物は、
物理的な暴力に過ぎない。
奥地に存在していたのは、
物理法則そのものの改ざんであった。
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【3. 周辺空間の異常】
火山湖周辺では、
すでに物理定数が破綻していた。
湖面は氷結している。
しかし、測定された水温は数千度。
「熱」という概念が、
同時に成立し、同時に破壊されている。
手記の主が使用した
記録用詠唱は、
空間歪曲の影響を受け、
送信データが
過去ログと未来予測に分裂し始めていた。
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【4. 「湧き場所」の再定義】
結論として、
この地点は発生源ではない。
ここは、
魔王軍側の高次物理法則が
この世界を上書きし、
**基底現実が剥がれ落ちている「穴」**である。
湖から聞こえる詠唱は、
誰かが唱えているものではない。
世界そのものが、
自らの破損を修復しようとして
上げている悲鳴――
すなわち、
基底詠唱であった。
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【補足記録】
この地点の発見以降、
人類は初めて理解する。
魔物は湧いているのではない。
漏れているのだ。
そして、
漏れている原因は、
すでに人類自身が作り出していた。
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