第6話:Case6(犠牲の最適化)
調査報告書
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【Case6:犠牲の最適化(sacrificial optimization)と共進化】
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【1. 意思決定:大国首脳会議の結論】
世界上位の詠唱集団が壊滅した事実は、
各種大国の首脳陣に、
否応なく現実を突きつけた。
――全面戦争は成立しない。
――数で押す戦術は無意味である。
そこで決定されたのが、
少数精鋭による力量計測型討伐である。
目的は殲滅ではない。
勝利でもない。
目的はただ一つ、
魔物の性能を測ることだった。
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【2. 検証手法:10人未満の精鋭チーム】
編成されたのは、
10人未満の詠唱チーム。
火力特化。
補助特化。
解析特化。
いずれも、その時点で選び得る
最高性能の人材で構成された。
1000人を失うリスクを避け、
最小コストで最大情報を得る。
検証班の内部資料には、
次の一文が明記されている。
「1人の天才の死は、
1万人の凡夫の生存に勝る」
極めて合理的で、
極めて非人道的な判断であった。
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【3. 遺言記録デバイス(ブラックボックス)】
精鋭チームの全員には、
高精度の記録装置が装着された。
・詠唱コード
・魔力変動
・脳内パルス
・恐怖反応
・死の瞬間の認識構造
それらは、
本人の意思に関係なく
自動で中央サーバーへ送信される。
彼らは、
討伐隊であると同時に、
記録装置そのものとなった。
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【4. ビッグデータ化された死】
この検証は、
確かに成果を上げた。
死のログは蓄積され、
魔物の傾向は数値化され、
弱点と見なされるパターンが抽出された。
やがて、
『対魔物・最適解術式』が完成する。
成果として、
詠唱デバイスにパッチが配布された。
これにより、
凡庸な魔導師でも
かつての精鋭に近い出力を得られるようになった。
人類は、
再び確信した。
「これで勝てる」と。
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【5. 魔王軍側の解析】
しかし、
この検証は一方通行ではなかった。
魔王軍にとって、
人類が提供した「死のログ」は、
・最新の戦術
・最適化された詠唱
・人類の思考限界
それらを網羅した、
極めて高品質な学習データであった。
人類が最適解を導くたび、
魔物側はそれを即座に解析し、
耐性を生成した。
昨日まで有効だった詠唱が、
今日は無効化される。
一昨日まで致命傷だった術式が、
今日は魔物の活力源に変換される。
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【6. 共進化(Co-evolution)の成立】
この時点で、
人類と魔物の関係は変質していた。
それは、
「戦争」ではない。
一方が最適化すれば、
もう一方も最適化する。
完全に対称な、
共進化ループであった。
悲劇的なのは、
そのループにおいて、
人類側の更新コストが
常に「人命」で支払われていた点である。
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【7. 内部総括】
後年、この時代は
次のように総括される。
「人類が、
最も効率よく死んだ時代」
このCase6を境に、
討伐隊は英雄ではなくなった。
彼らは、
使い捨ての検証端末となった。
そして、
その端末の中から
ごく稀に、
想定外の挙動を示す個体が現れ始める。
後に、
それらは別の名前で呼ばれることになる。
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補足記録
この時点で、
一部の研究者は気づき始めていた。
「これは勝敗の問題ではない」
「復旧作業に近い」
「そして、復旧には――初期化が必要だ」
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