第4話:Case4(討伐と慢心)
調査報告書
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【Case4:対峙と退治、そして『ネイティブ世代』の慢心】
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【1. 用語整理:「犠牲者」の廃止】
本事例以降、人類は
「最初の犠牲者」という表現を公式文書から削除した。
理由は単純である。
それは、犠牲ですらなかったからだ。
消失した小国の住民は、
抵抗も、交渉も、逃走も行っていない。
存在の痕跡ごと消去された以上、
そこに「犠牲」という因果は成立しなかった。
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【2. 観測:対岸の火事と政治機構の機能不全】
地図から消えた小国の数が二桁に達した頃、
ようやく魔物の存在は広く人類社会に認知され始めた。
しかし、大国における反応は鈍かった。
物理的距離のある国家では、
魔物は「現実の脅威」ではなく、
政敵を攻撃するための材料として消費されていた。
記録映像には、
議会で支持率や予算配分を巡って罵倒し合う政治家の姿が
数多く残されている。
検証結果:
彼らは「魔物」を見ていなかった。
見ていたのは、常に「有権者の視線」だけであった。
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【3. 詠唱法ネイティブ世代(Caster Native)の台頭】
この停滞した状況下で、
新たな人類の層が表舞台に現れ始める。
詠唱法ネイティブ世代。
幼少期から生活魔法を
呼吸や会話と同じ感覚で使用してきた世代である。
彼らにとって詠唱は、
神秘でも信仰でもなかった。
それは、
論理的に再現可能な「関数」であり、
物理法則を一時的に上書きする「インターフェース」に過ぎなかった。
技術的転換点:
従来の魔導師が数分を要した術式構築を、
彼らはショートカットキーを叩くように即座に実行した。
コードは短く、
無駄は削られ、
結果だけが残った。
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【4. 自警団の発生と初期成功】
各地で、自警団と呼ばれる小規模戦力が自然発生した。
国家でも軍でもない。
地域単位で編成された、即応型の詠唱集団である。
そして――
ついに、
人類史上初の「魔物討伐」が記録される。
一体の魔物が、
詠唱によって完全に消滅した。
成功要因は明確だった。
ネイティブ世代による高効率詠唱が、
魔物の発する「空間剥離の振動」を
上書き(オーバーライド)したのである。
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【5. 勝利という名の誤解】
この出来事は、
瞬く間に「人類の勝利」として報道された。
討伐成功。
希望の光。
魔物は倒せる。
だが、
検証班の内部記録には、
全く異なる評価が残されている。
魔王軍側のログ解析によれば、
この事例は「ユニットの損耗」ですらなかった。
それは、
デバッグ中に発生した、一行のエラー
程度の出来事であった。
人類は初めて勝った。
しかし同時に、
最も危険な勘違いを獲得したのである。
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補足記録
このCase4は、
後年こう総括されている。
「人類が魔物を倒した最初の記録であり、
同時に、人類が最も深く慢心した瞬間である」
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