第2話:Case2(詠唱理論/分断)
調査報告書
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【Case2:詠唱法理論の発展と「暗黒のサイロ化」】
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【1. 軍事転用と「物理定数の局所破壊」】
詠唱法理論の体系化は、人類社会に急速な技術革新をもたらした。
その最初の用途は、生活改善ではなく、軍事転用であった。
各国は競って詠唱法を兵器として利用し始めた。
ある国では、
重力を反転させることで城壁を浮遊させ、防衛拠点とした。
またある国では、
エントロピーを局所的に増大させ、敵軍を熱も光も残さず灰に変換した。
これらの事例から得られた検証結果は明確である。
魔法は「便利な道具」ではなかった。
それは、世界の物理定数そのものを削り取る「ヤスリ」であった。
内戦や国境紛争が発生するたび、
地球の物理的安定性は不可逆的に損なわれていった。
結果として、
論理的な予測が不可能な「特異点」が、
各地に放置される状況が常態化することとなった。
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【2. 情報共有の欠如と「情報のサイロ化」】
詠唱法理論の発展と並行して、
人類社会には深刻な情報断絶が発生した。
各国は、自国で確立した詠唱理論を「国家機密」として厳重に管理し、
他国との共有を拒否したのである。
この現象は、後年「情報のサイロ化」と呼称される。
結果として、
人類全体での技術統合は事実上不可能となった。
現状分析として記録されている内容は、以下の通りである。
隣国で何が起きているのか、誰も把握していない。
物理的な距離以上に、
独自の詠唱体系による「認識の壁」が人類を分断していた。
同一の世界に存在しながら、
各国はすでに異なる物理法則の上で生存しているに等しい状態にあった。
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【3. 魔王軍の「デプロイメント(配置)」】
この状況を、魔王軍は見逃さなかった。
人類が関知していない、
物理法則が著しく摩耗した土地。
それらは、魔王軍にとって、
極めて都合の良いテラフォーミング拠点となった。
侵食の記録によれば、
人類が互いに呪い合い、詠唱を撃ち合っている間に、
魔王軍は「誰も見ていない土地」に次元の楔を打ち込み始めていた。
前線基地は、静かに、しかし着実に構築されていった。
人類が異変に気づいた時には、
すでに世界の「仕様変更」は、
取り返しのつかない段階まで進行していたと記録されている。
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補足記録
後年の解析により、
魔王軍の侵入は「奇襲」ではなかったことが判明している。
それは、
人類自身が削り、歪め、放置した世界に対する、
正規のデプロイ作業であった。
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