第1話:Case1(虫/侵入)
調査報告書
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【文書情報】
文書名:Case1(虫/侵入) 調査報告書
対象:魔王討伐(作戦史/失敗事例)
備考:本文は原文メモの記述を保持し、体裁のみを報告書形式へ整形した。
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【1. 概要】
魔王討伐とは、同時に失敗の歴史である。
本資料は、魔王討伐に関する対策記録を整理したものである。
魔王軍の弱点、特性、出没地。
膨大な情報が整理され、体系化されている。
だが、その情報の裏には、記録されなかった数多の人類被害が存在する。
本資料では、それらの調査報告を順に確認していく。
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【2. 初期目撃情報(起点)】
最初の目撃情報は、市街地に飛来した一匹の虫であったとされている。
どの昆虫学にも該当しない新種を発見した学者は喜び、
当時の生物学の賞を総ナメ(皮肉)したと言われている。
ゴールドラッシュと言わんばかりにこの昆虫狩りは流行し、
人々は愛玩動物のように飼育を始めた。
しかし、この昆虫こそが、
魔王軍による最初の偵察隊であった。
愛玩動物として人類の生活圏に侵入し、
人類の生活に関する情報を、着実に収集していったのである。
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【3. Case記録】
【Case1-B:偵察個体『レギオン・バグ』の侵入と浸透】
〈3.1.1 社会的受容と拡散の検証〉
この昆虫は、人類が「美しい」「愛らしい」と感じる黄金比の翅と、
心地よい羽音を持っていた。
その羽音は、フォード社のドア音のように、
安心感を与える周波数として計算されたものであった。
検証結果として、
人類は未知の生物に対し、警戒よりも「所有欲」を優先することが実証された。
各家庭、果ては王宮の寝室にまで、
「生きた盗聴器」が配置される事態となった。
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〈3.1.2 物理・化学的耐久性の検証〉
一部の学者は、この虫を解剖しようと試みた。
しかし、メスを入れた瞬間に揮発し、
強力な神経毒を撒き散らす個体が混じっていた。
犠牲として、
当時の高名な生物学者三十名が、研究室ごと「消毒」された。
これにより、人類側からの「生物学的アプローチ」は初期段階で封殺され、
当該個体は以降、「不可侵の愛玩対象」としての地位を確立した。
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〈3.1.3 情報収集プロセスの確立〉
この虫は、捕食の代わりに「魔力(精神波)」を微量に吸収し、
それを糧として増殖する性質を持っていた。
収集されていたデータは以下の通りである。
人類の言語体系。
軍事拠点の間取り。
主要人物の交友関係。
そして、「どの程度の苦痛で個体としての機能が停止するか」という精神的閾値。
これらの情報は、
魔王軍の母艦、あるいは異次元のサーバーへ、
リアルタイムでアップリンクされていた。
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【Case1-C:詠唱法理論の体系化と物理定数の揺らぎ】
〈3.2.1 観測:精神活動と物理現象の相関〉
当初、宗教儀式における「お経」や「祝詞」は、
集団心理への影響、すなわちプラセボ効果に過ぎないと考えられていた。
しかし、
超高精度な重力波測定器、あるいは魔導計測器によって、
特定の周波数と倍音構成が、局所的にプランク定数や重力加速度を変動させていることが観測された。
検証の結果、
「祈り」ではなく「波形」こそが本質であることが判明した。
人類は、
宇宙のソースコードに直接干渉する「デバッグ用コマンド」を、
偶然にも宗教という形で保存していたのである。
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〈3.2.2 詠唱法理論(Incantation Dynamics)の誕生〉
特定の拍子と、
特定の母音の組み合わせが、
空間の相転移を引き起こすことが数式化された。
物理的影響として、
F=ma が常に成立する時代は終焉を迎えた。
特定の詠唱下では、
加速度が質量に関わらず無限大に発散する現象や、
エネルギー保存則が一時的に無視される「バグ・スポット」が確認されている。
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〈3.2.3 人類の慢心:技術革新という名の罠〉
人類は、この発見に狂喜乱舞した。
「これを使えば、エネルギー問題も、移動コストも、すべて解決する」
そう信じられていた。
皮肉な事実として、
フォード社長が「音」によって心理を操作したように、
魔王軍はこの「詠唱法」というインターフェースを、
人類が使いやすい形で、あえて露出させていた。
当時の人類は、そのことに気づかなかった。




