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許されざる誓い

作者: 右京 左京
掲載日:2025/11/14

「メリッサ、君が来てくれて本当に助かった」


薄暗い森の中、松明の光だけが二人の姿を照らしていた。

王太子アポロンは剣についた血を拭いながら、少女に微笑みかけた。


「いえ……わたしこそ、お役に立ててよかったです」

メリッサは少し頬を赤らめながら応えた。


数日前のことだった。隣国からの使者が緊急を要すると伝えてきた。

古の封印が解かれ、かつて大陸を恐怖に陥れた魔獣ケルベロスが復活したというのだ。

騎士団長も務めるアポロンはすぐに討伐隊を組織し、自ら先頭に立って出陣した。


だが予想以上に強力なケルベロスの前に、護衛の騎士たちは次々と倒れていった。

絶体絶命の危機に陥ったその時、メリッサが現れたのだ。


彼女は貴族の令嬢でありながら、幼い頃から古代魔法を研究してきた天才だった。

普段は宮廷で静かに暮らしているが、アポロンとは幼馴染でもある。


「この炎の封印式を使えば、しばらくは動きを止められるはず」

メリッサは持ってきた古文書を広げ、複雑な魔法陣を地面に描き始めた。

「でも、これは一時的なものです」


「構わない。あいつを退ける時間が欲しいだけだ」


アポロンが言い終えるや否や、魔法陣が青白い光を放ち始めた。

メリッサの詠唱と共に、ケルベロスの周りに炎の壁が出現する。


「さあ、今のうちに!」


メリッサの声に促され、アポロンは再び剣を握りしめた。

その時、彼らの背後から足音が聞こえてきた。


「殿下!ご無事ですか!」


振り返ると、重傷を負いながらも生き残った騎士たちが駆けつけていた。

アポロンは安堵の表情を浮かべる。


「みんな、よくぞ戻ってきてくれた。しかし油断はするな。まだ戦いは終わっていない」




城に戻ったアポロンは、父である国王に報告を行っていた。


「ケルベロスは封印しましたが、完全な封印ではありません。いずれまた復活するでしょう」


「そうか。だがよくやった、我が息子よ」

国王は満足そうに頷いた。

「ところで、騎士たちによるとそなたは一人の女性の助けを受けたとか」


アポロンは「はい、メリッサです」と答えた。


「ほう、あの魔法の才女か」

国王は思案顔になる。

「彼女は確か、隣国の伯爵家との婚約が決まっているはずだが……」


その言葉に、アポロンの表情が硬くなった。

それは以前から知っていたことだった。彼女が遠くへ行ってしまうことも。


「陛下、その件ですが」

アポロンは静かに口を開いた。

「私は彼女を愛しています。どうか、婚約を取り消すよう手配していただけませんか」


部屋に沈黙が流れる。


「……本気か?」

国王の目が鋭く光った。

「彼女の義父は我が国にとって重要な同盟相手だ。婚約は既に成立しているのだぞ」


「私の心は変わりません」




謁見の間を出たアポロンは、中庭でメリッサを見つけた。

彼女は月明かりの下、静かに花を見ていた。


「メリッサ」


呼びかけると、彼女は驚いて振り返った。


「殿下……」

「今夜はありがとう、君のおかげで多くの命が救われた。もちろん私の命も」

「いえ、わたしの力など微々たるものでした」

アポロンは彼女の横に立ち、同じように月を見上げた。


「陛下から聞いたんだ。君の婚約のことを」


メリッサの表情が曇る。


「……はい」

「私の気持ちを聞いてくれないだろうか」

「何をおっしゃるのですか?あなたは王太子様です。私は単なる臣下の娘にすぎません」

「身分など関係ない。ただ一人の人間として、君を愛している」


風が二人の間を通り過ぎていく。


「昔のようにアポロンと呼んでくれ。頼む」

「……私も殿下を尊敬しております。でも」


彼女の言葉が途切れたとき、突然警鐘が鳴り響いた。


「敵襲!城門より魔物の大群接近!」


二人は顔を見合わせ、すぐさま走り出した。




城内は混乱に包まれていた。

ケルベロスの影響で、各地から魔物が押し寄せているらしい。


「全軍を配置せよ!」

アポロンの号令が響く。


メリッサは宮殿の中央にある祭壇に向かっていた。

「ここで防御結界を張ります!」


アポロンが彼女の側に駆け寄る。

「手伝うよ」

「殿下は指揮を!」

「いいや命令だ、私とともに戦ってくれ!」


祭壇に二人並び、手を取り合って詠唱を始める。

彼らを中心に強力な光の輪が広がり、城全体を覆っていく。




翌朝。

魔物たちを退け、なんとか破壊を免れた街を二人は歩いていた。


「……終わったね」


アポロンの言葉に、メリッサは小さく頷いた。


「これからどうするつもりだ?」

「婚約のことですか?」


彼女は俯いたまま言った。


「父は反対するでしょうけれど……あなたの側にいたいです」


アポロンは彼女の手を取った。


「一緒に父上に話そう。そして王国民にも訴えよう。私たちの思いを」


メリッサは彼の瞳を見つめ、ゆっくりと頷いた。


「はい、ともに歩みましょう。たとえ道が険しくとも」


太陽が昇り、新しい日の始まりを告げる。

二人の未来はまだ見えないけれど、手を取り合って進む道を選ぶ覚悟はできていた。


しかし、彼らの選択が、王国の歴史を大きく変えていくことになるとは、この時はまだ誰も知る由もなかった――。

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