第1章 5.
5.
「大量大量ォ! ふぉー!!」 「いいのかなぁ?」
『百億万』の部隊はとっくに撤収し、後に残るのは戦車の残骸だの、彼らがそのまま放置したライフルやその銃弾だのそういった武器弾薬の山。
咲坂高校冒険部4人組は大量の武器弾薬を鹵獲し、久しぶりに大黒字になったと大喜びであった。冒険者としては何かが致命的に間違っている。
「こっちは『現代化刀剣類』の大陸王手メーカーが作っている『青龍刀・雷撃Ver0.41』!! これ、売れるんだよ!」
「良かったやん。『部長』、これ西側規格の12.7ミリや! ぱっと見しただけで300発以上! この間『部長』が乱射した分取り戻せるで!」 「いやっふぉーー!!」
「うーんです。中国規格の5.8ミリライフル弾はどうします? 全部合わせたら数千発くらいなりそうですけど、しばらく私たちも5.8ミリ使います? 5.56ミリの節約になりますです」
そんなこんなで4人組はお宝――やっぱり何かが間違っている――を前に歓喜狂乱しながら自分たちが使うにはどうしたらいいか。換金するか、それとも……といった感じの事を 話し合いながら整理整頓をしていた。
呼び込んだポーター業者の2人組が惨状にどん引きしながら到着したのはそういうときだ。
「えっ? 今、なんて?」 「うーん。いくつかさ、銃刀法とかで許された武器じゃないよ。これ運んでバレたらヤバイ。悪いけど見ちゃった以上、通報させてもらうね」
呼んだポーターの容赦の無い発言に、『部長』がムンクの叫びと成り果て、『関西』が奈良の大仏の様な優しい顔を見せる中、『いちちゃん』はこっそりと5.56ミリの弾薬箱を一つ服の中に隠し、同じように『オキタ』が カメラドローンを操り、出来上がった死角を盾に大急ぎで手榴弾やら7.62ミリライフル弾やらを鞄に詰め込む。
「こっちの爆薬も駄目だねぇ……。ウチの武装運用許可証で使ったり運べる規格じゃない。君たち5.8ミリライフル弾をこっそり盗んでいたら今のうちに捨てた方がいいよ? 『通常の現実世界』に戻った時 所持したら容赦なく手錠がかけられると思う」
その発言とともに、部長が5.8ミリライフル弾の弾薬箱を10個くらい服の中から捨てる。ポーターは「多い多いっ!」と呆れた声を上げる。何処にそれだけ入るのか。
「『青龍刀・雷撃Ver0.41』か……これ技適マーク入って無いよ! まぁ、当たり前だけどさ。これを日本国内で充電してごらん。バッテリーとか本当に危ないよ。火事るよ」
その言葉とともに『関西』が青龍刀を3本くらい背中から取り出して捨てる。「多い多い!」とポーターが呆れた声を出す。いや、何処にあったのそれ。
「あっ、これは出来るかもね。ソ連規格の7.62ミリライフル弾。これなら所持しても冒険者なら文句いわれな――――」
「――かき集めるのよぉ!! 薬莢の1本ものこすなぁぁああああ!」
『部長』の号令とともに4人組総出で地面に散らばって落ちている奴さえ拾い集めているのを見ながらポーターは一応運べそうな物をまとめ始める。
目の前の戦車の残骸、売ったら高そうだな。でも取引したら普通に法令違反だな~とか思いながらポーターの2人組は運んでも問題がなさそうな物の一覧をスマホに呼び出し それ片手に荷物をまとめながら、注意事項などを4人組に伝える。
「あっ、戦車の砲弾、『第1階層』限定で取引してくれる業者がいるよ。レベル0には絶対持ち出さない前提でIEDに加工しているみたいだね」
「それ、大丈夫な奴ですか!? いくらになりそうです!?」
「ほら、一応ちゃんとした日本の『傭兵企業』でしょ。菱形火曜グループの」
Tips:『スキル&アーツ』……アバターにはゲームライクなHP、AP、MP、SPなるものが設定されている。
スキルはMPを消費し、再使用可能時間という物が設定されており、いわゆる大技に相当する。アーツはSPを消費し、再使用可能時間が存在せず連射可能でいわゆる小技。
どちらにせよ、RPGゲームと違って、現実のそれは種も仕掛けもある奇術の類いであり、アバター製造時にそれ相応のコストをかけた上で定期的なゲージ補充が必要となる。
Tips:『傭兵企業』……国策特許企業の一種。特別な行動許可、特別権益が国家より与えられた企業の一つ。『民間軍事会社』の類いであり、ダンジョン専門。
文字通り武装しており、兵隊を貸し出す事をメイン業務にしている。ダンジョンは『傭兵企業』と『採掘企業』が日夜激しい抗争を繰り広げる修羅の世界とも言われている。
何にせよ、人呼んで「21世紀に復活した東インド会社たち」。
「『部長』……これだけじゃ」
続く言葉は大赤字。ポーター曰く運べない、運んだら駄目な物が多すぎる。つか、下手にレベル0に持ち込んだら手錠をはめるはめになる代物が多すぎる。
「せ、先輩達が残してくれたダンジョン内拠点に運び込んで、隠す……! 少なくとも弾代節約には!」 「どうやって運ぶんだよ!! これ!」
「もう一度言っておくけど、一応警察に通報しておいたからね。見ちゃった以上、うちとしてはどうしようもないから」
「「「…………」」」
折角の高収入。あと少しで久しぶりの黒字。少なくとも弾薬費の節約には絶対になる戦利品。そして、コレが無きゃ赤字。
頭の中でそろばんや電卓、スマホのイメージがぱちぱちと音を立てて鳴り響き、結論が導き出される。
「……ポーターさん、ここお任せしていいですか?」 「えっ? いいけど、いつもの場所まで運べばいい?」
「お任せしますです。ちょっと、私たちもうちょっと頑張ってきますです」 「頼んます。もうちょい稼ぎにいこうと思ってるさかい」
「『部長』、たしか連中の撤収方向、あっちであってましたよね?」
彼らが見ているモノは日本の国境線の先――正確には領海より向こう側のEEZのど真ん中――にあるとされている『権益争い多発地帯』。
「インファイト・フレームはともかく、戦車はトランスポーターが必須ですよね。ここにトランスポーターの姿はない」 「そもそも燃料どうやってんの? 後方施設あるよね」
「救援部隊の動きも速かったです。兵隊の練度はクソ、と言うかダンジョン素人っぽかったですけど……ヒット・アンドアウェイで一気に攻め込めばいけるとこまでいけます?」
ポーターは聞かなかったことにした。
「撃破して、しばらくそのままにしとけば、天然の弾薬庫に?」 「さすがに1ヶ月以上もあれば誰かが見つけて片付けるでしょうけど2週間前後くらいなら見つける人もいない……かも」
かくして、大陸系『採掘企業』の一つ、『百億万』はこの日より数日間、立て続けに大損害を被った。