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咲坂高校冒険部活動報告書  作者: ホエール
第1章「残念無念で当然の結果です」
5/22

第1章 4.

  4.

 境界線条約によれば、『第1階層(レベル1)』~『第3階層(レベル3)』まで、自国の領土領海と重なる座標は自国領土として扱う事になっている。

そして、その先は海洋にまつわる条約や一部で宇宙関係の条約を適応することになっている。

で、月面協定と呼ばれる宇宙関係の条約行政協定には次のような規定がある。


「先着順で、到達出来た『民間企業』にその土地、小惑星とか月面とかでの優先資源採掘権を認める」

「まぁ、月面協定なんて結んでいる国殆ど無いっすけどね」  

「無いって言ってもです。ほぼ同じ文面の法律を制定している国は山ほどありますです。代表的なのが『アメリカMr.O宇宙法』とかですね」

思い出したように語る4人組の目の前には武装した民間企業、ただし外国人の群れがいた。

多脚履帯(レッグズクローラー)』と呼ばれる機構を用いた乗り物が4つ、それとは別に完全に戦車の見た目をした兵器が2両。大型のダンジョン用トラックも2両。

完全に軍用小隊編成と呼べる部隊がそこにはあった。彼らは肩に『百億万』のワッペンをしている。

大陸系『採掘企業』の王手として知られている所だ。国境の外の世界や『第4階層(レベル4)』と言った国家権力が及ばないエリアは事実上、21世紀に復活した東インド会社の系譜ども、いわゆる『採掘企業』や『傭兵企業』の戦場だ。


「大陸系採掘企業の王手の軍用編成か……つまり、そう言う事ね」

部長が薙刀に手をかける。他の冒険部メンバーも自分たちの武器に手を伸ばす。

相手側も青龍刀や、呉鉤にライフルに手をかける。

『百億万』の側から1人、前に出る。対応するようにカメラ担当の『オキタ』が前に出る。


「「我想平静地走(平和的にいきたい)」」

不思議な風景だった。『オキタ』が彼ら言葉を、『百億万』の側が少しくせのある日本語を


「「这是我们国家的利益区(ここはわれらの国の権益地)、请撤走(撤収してくれ)」」

双方がほぼ同じ意味の言葉を口にして、『オキタ』がアメリカ製5.56ミリ:アサルトカービンを、相手側が中国製5.8ミリ:アサルトライフルを構える。

そして、同じ言葉を繰り返す。「请撤走(撤収してくれ)」と。


「『EEZ月報』には百億万がこの辺の採掘権を取得した的な事のってませんです」

『いちちゃん』の言葉で、この後の全てが決まった。

双方が投げ合うのは『閃光音響手榴弾(スタン・グレネード)』と『煙幕手榴弾(スモーク・グレネード)』。

一瞬の仕切り直し。そして飛び交うのはライフル弾と、光が反射してきらめく抜き身の刀身の数々。

どちらも金のかかる弾丸の消費量を抑えるために最初で行ったのは、距離をとるために10発をめどとした弾幕の形成と、それが終了次第行われる『現代化刀剣類』を用いた突撃攻撃。

つまりは、銃声が途切れた瞬間――――

――刃が迫ってくる。


ドローンカメラはとらえる。


『オキタ』の首に迫る呉鉤の刀身と、呉鉤を握る右腕をきれいに切断する『関西』の日本刀のきらめきを。

『オキタ』は呉鉤を持つ人物の後ろに控える人物の顔面に対して、11発目のライフル弾をぶち当てるとともに、ライフルの銃身で呉鉤を握っていたはずの右腕を叩き落とす。邪魔であると。

そして、そんな『オキタ』の肩を踏み台にして飛び上がるのは1人の少女。


「他国のEEZを侵犯している自覚足りてないんじゃないの」

『部長』の薙刀の刀身から、流れる鮮血を思わせる赤い光の筋。アバターの首筋を切られて何かが噴出する兵士。

アバターを構成する質量情報の流出。アバターは即死しない。

青龍刀を振り回し『部長』に迫る。打ち合うのは『部長』の薙刀。

青龍刀というのは、大まかに2種類存在する。日本人が青龍刀と聞いて真っ先にイメージするような中国式の曲刀と、日本で言う薙刀の中国版だ。

薙刀型青龍刀と『部長』の薙刀が打ち合う。刀身同士がぶつかり合い、『部長』の薙刀が右に刀身をはじく。そのまま、塚の部分で兵士の顔面を左からぶん殴る。

所詮はアバターだ。首が明らかに曲がってはいけない方向に曲がっていたとしても、脳みそや心臓にあたる場所の破壊による即死と出血死相当以外では死亡しない。

故に首がどうなろうが、兵士はそのまま薙刀型青龍刀を振り回し、『部長』の薙刀の塚と打ち合おうとして――――


「――関西ィ!」

『関西』の拳銃が兵士の頭を打ちぬいていた。おかげで、光の粒となって消え去るまでの兵士の死体が『部長』の視界を邪魔する。

『関西』が「あっ」とか言ってるその間も『オキタ』はカメラドローンを制御しているスマホ片手に専用の籠手から取り出した投げナイフを右上に投函する。

つい、目で、ナイフ、おって、その行き先に、目を、向けて


散弾銃のスラッグ弾が人体を吹き飛ばした。『オキタ』はライフルとスマホを宙に投げ、代わりに散弾銃を構えている。すぐさま散弾銃を背中に片付けて、ライフルとスマホをキャッチする。


『 な、何だよ、おまえ等!!』

3人の兵士が一瞬で無力化されて、音がする。オキタの投げナイフが落ちた音。投げナイフに気をとられて目の前の強敵から目を離す等あってはならない。

どうせナイフなのはわかっている。だから、誰もその音の方向を見ない。そこに、カメラドローンが浮かんでいる事に。そして、遠慮無くカメラドローンは体当たりでぶつかってくることに。

体勢が崩れて、目の前には『いちちゃん』が乗るマウンテンバイクのタイヤが。

キュキュギュギュギュと、ゴム製品がが文字通り肉を引き裂く音がする。


『 手榴弾!』

顔をガリガリと削られて痛みに悶絶し、動けなくなっている味方ごと、4人組を爆破することに決めた敵分隊が手榴弾を3~4発連結された状態で投げる。


「「「やっべ」」」

冒険部4人組はそんな言葉をつぶやきながら、部長が薙刀を振り下ろす。切断されるのは手榴弾を連結していた帯。次の瞬間、鞘に収まった状態の日本刀を

野球バットの様にフルスイングする『関西』と同様に野球バットの様に突撃槍ランスをフルスイングする『いちちゃん』の2人組。

返されるのは手榴弾。投げた奴らの所に戻ってきたそれに1人の兵士が突撃する。手榴弾を抱え込むように地面にダイブして、起爆。

どうせ、壊れるのはアバターだ。壊れて死んでもゲームのように近くのダイビングスポットで次のアバターで蘇生する。

手榴弾は肉壁で止められる程度の破壊力。故に、進んで命を捨てた1人の兵士によって無力化される。

だが、冒険部4人組と兵士たちは1人の献身的な犠牲を誰も見ていない。そんな暇なんぞ無い。

『部長』が『関西』を踏み台に宙を舞う。彼女の薙刀の刀身が兵士たちに迫る。


『 中尉!』

顔にわざわざ傷跡のあるアバターを作った男の兵士が叫ぶ。その兵士はやたら長い銃剣を取り付け、さらにはストックを改造することで、ライフルと言うより

銃弾を発射できる長槍と化したそれを片手に叫ぶ。曰く「出し惜しみはなしだ」と。

その兵士はわざわざ傷跡を作ったようにアバターを作り込んでいる。例えば、足をサイボーグに改造している。ローラーブレードのような特殊な軍靴を操れる様に。


『 ターインっ!』

中尉は傷跡の男の呼び名を叫ぶ。

すでに、傷跡の男はそのローラーブレードのような特殊な軍靴を以て、たった1歩で10メートル以上の距離を進めその特殊ライフルで目の前の少女――『部長』――を殴る。

いや、殴ろうとした。その特殊ライフルの銃剣は突撃槍(ランス)を構えたダンジョン用電動マウンテンバイクに乗る少女によって止められる。

ローラーブレード軍靴の小型ターボシャフトが完全に駆動状態に入る。

自転車少女とローラーブレード軍靴の男、双方の刀身が走りながらぶつかり合う。距離をとればライフル弾が双方で飛び交い、距離を縮めればランスチャージと

長槍と化した銃剣の穂先がそれを捌いていく。

傷跡の男の部下達が2人を取り囲めるように動く。それに対して、割り込みを書けるのは『日本刀』と『アメリカ製:P.F.式45口径拳銃』の二刀流、『関西』が妨害に入る。


『 ターイン、引きつけろッ!!』

中尉が自らの薙刀型青龍刀のスイッチを入れる。『現代化刀剣類』。すなわち最新技術で武装した特殊な刀剣類。

刀身よりプラズマが吹き出し、ジェットエンジンのような稼働音が周囲に鳴り響く。

プラズマの光が周囲を照らし、その熱量が空気を揺らめかす。そして、次の瞬間、プラズマの光が延びた。

もはや、刀身では無い。砲撃だ。


「『オキタ』ァ!!」  「わかってますよ、『部長』!」

跳躍、回避、解き放たれる4本の投げナイフ。

プラズマの砲撃主に対して、放たれるナイフは回転しながらまるでブーメランをイメージしてしまうような曲射軌道を描く。

上下左右から迫る投げナイフに対して、プラズマの砲撃では無くプラズマ化した輝く熱量の刀身で迎撃する。

そして、籠手でもって顔面をガード。『部長』の薙刀が籠手に突き刺さる。

ナイフを迎撃した時の大ぶりで視界が狭まってしまう瞬間を狙ったのだろう。投げ槍のように投げられた薙刀だが、籠手を盾にした左手を犠牲に顔面を守れた。

左手はもう使い物にならないが、所詮アバターなのだから、無視できる。


「でも残念」  『 ば、ばかna――』

――部長の2本目の薙刀が中尉の首に迫っていた。


『 うぉらぁぁあああッ!!』

部隊仲間から、『赤髪』と呼ばれている傭兵が『部長』の薙刀に12.7ミリのライフル弾を当てて迎撃する。そして、呉鉤を投げる。

『アメリカ製:12.7ミリ対物ライフル』を片手に投げる呉鉤の矛先は、だが『部長』の薙刀の塚が横から当たって迎撃される。そのまま部長の薙刀の塚が12.7ミリ対物ライフルの銃身とぶつかり、そのままライフルが はじかれて『赤髪』は正面ががら空きとなる。

振り下ろされる薙刀。しかし、赤髪の胸元より、鋼鉄の肋骨状のそれが無数に飛び出して、薙刀を迎撃する!


「サイボーグアバター!?」 『 モード前方攻撃者っ!』

肋骨状のそれの一つが爆発し、散弾を『部長』に対してまき散らす。が、散弾に対して、自分に向かって投げられたハズの呉鉤を薙刀で捌いて投げ返す。

ろくな銃身も無く、放たれた散弾なんて、もっと至近距離かつ連発しなきゃ、目くらましも良い所だ。呉鉤という盾で顔へ殺到する散弾を防ぎ、手足、胴体への被弾を前提に彼女は 前へと足を踏み出す。

右手で構えた薙刀を一瞬の時間で左手に持ち替えて右手に、中尉に投げ、未だに彼の左腕に突き刺さっている薙刀つかんでを引き抜く。

いや、引き抜けてはいない。彼を引き釣り倒す。


『 中尉を離せぇっ!!』  「何言ってるかわかんない!」

まるで見せつけるように中尉を引き釣り倒す『部長』に対して『赤髪』は彼を救出出来るように動き出す。


『 馬鹿野郎! 釣りだ!』  『 知ってる!』

肋骨2発目の散弾を解き放つ。

だが、台詞を交わしている暇は無駄な時間だった事を悟った。

袈裟斬り


『 クソがぁぁあああ!』

右肩より左脇腹にかけての両断。根本的に、違う。何かが。


『 こいつら、魔境の連中か! どうしてこんな所にいる!!』  「な、ぜ、こんな、ところ、いる。『第4階層(レベル4)』ではない!!」

即死しない利点を生かして、『赤髪』は、袈裟斬りによって、両断された自分の肩を自らの意思でさらに引き裂く。

鋼鉄の露出した肋骨で自ら両断を進めた。かくして、自らのアバターの心臓部位を包み込むように仕込んだポーションの容器が炸裂する。

『部長』の側も何時投げたのか、空からポーションの瓶が落ちてきて、彼女の肩に当たって割れて、散弾で受けたダメージからアバターを修復する

多少の被弾を前提に肉薄し、撃破すると言うのが目の前の女の戦闘スタイル。

『指標』に乗っ取れば『近接反撃99スコア』と評価される化け物少女を目の前に、『赤髪』はサイボーグとして、『近接防御型39スコア』のアバターの全機能を解放する事に決めた。


「なんだ、ちゃんと日本語しゃべれるのって、指揮官以外にもいたのね」

「かえれ、おまえたちのいばしょに。ここは稼ぎが悪いだろ。『第4階層(レベル4)』より、さき、もどれ!」

「悪いんだけど、私たちはまだ、ガチ勢じゃないの」


Tips:『ガチ勢』……世間一般で言わせて貰えれば、咲坂高校冒険部はガチ勢である。本人達にその自覚は無い。何故なら彼らの師匠や先輩達の方がヤバイから。


「それに、まだ学生だしね。ちゃんと日帰りの範囲でやらないと。それに、先輩達がいた頃も私たちの居場所は『第2階層(レベル2)』の太平洋だったよ。 あなたが考えているほど、私らは上位陣じゃないの。ごめんね」

『部長』の言葉に対する返答は、弾幕であった。『赤髪』の部下に当たる兵員が構える彼らの『中国製:5.8ミリアサルトライフル』の銃口より放たれた 5.8ミリの銃弾は、だが、しかし、彼女に届くことは無い。

彼女の装備品であった、ロングコートがはためく。いつの間にか、いや、このためにスリットが入っていたのか、防刃繊維のコートは脱がれ、彼女の盾となってはためいている。

所詮は防刃装備、防弾では無い。が、それでも、ほんの一瞬だけ1発程度、衝撃を受け止める程度なら出来る。それだけで十分、目くらましとしては十分。

兵士たちは引き金を引いて、ライフルの反動を腕と姿勢で制御して、気がつく。目の前のはためく布きれに気をとられて、最初の1発目以外は狙いを付けていない事に――――


――――もう遅い。それで、十分。


1人の首にねじ込まれる、刀身、そのまま、ひねり上げられ、姿勢が崩れ、引き金を引いたまま、ライフルを持つ腕が、


『 クソったれがぁぁああ!』

鋼鉄化した、右腕より、高振動ブレードを生やした『赤髪』が飛び込む。

そのまま、同じく鋼鉄化した左足の膝より、スラッグ弾をぶちかます。

すかさず、部長は首がねじ切れた兵士の死体――消えかけのオブジェクト――を盾にする。

彼の部下だった人達が自分たちの5.8ミリライフル弾で撃破される、もしくは負傷を負い、戦闘続行に支障をきたしている。


『赤髪』は、そんな部下達の輪から、目の前の化け物を引きはがすべく接近して――――

――――死体。と言う、消えかけのオブジェクトの消滅とともに、そのオブジェにより隠れていた『部長』の手が見えるように

       ――――手榴弾?


どこから?                部下を守らなければ

     消えゆくオブジェ、空っぽのホルスター       一番近くのリスポーンポイントは、日本側

                     拳銃が入っていない         そこから祖国に帰れる部下はどれだけいる――――?


――祖国製の手榴弾。


ピンは当然のように入っていない。     投げられる。自分に向けて

防御しないと

        いや、下手に守ったら部下が

                         目の前の、化け物、こいつ、だけ、でも、連れて行くッ!!


まるで大の字を描くように両腕を開いて、手榴弾に抱きつくように、それとは別に鋼鉄の肋骨状の装置が開いて散弾をぶちかませるよう――

――手榴弾に気をとられすぎだ。祖国製の拳銃の銃口から弾丸が飛び出す。

1発の銃声と炸裂音。


「まぁ、頑張ったんじゃ無い?」

『指標』曰く、『近接防御型39スコア』の『赤髪』とその部下の分隊員、合計8名、撃破。

部長は、赤髪が持っていた武器、『アメリカ製:12.7ミリ対物ライフル』を鹵獲した!


「「「げっ」」」

顛末を見ていた、冒険部員達の声。


『 何処を見ている!』

『いちちゃん』相手に戦う傷跡の男は、そう叫びながら銃剣のついたライフルのストックを振り回して、彼女のサーベルを打ち払う。が、そんな彼の顔面に――

――満身創痍の傷跡の男のぶちかまされた破甲爆雷装備のナックルガードを電動マウンテンバイクにまたがったまま、少女は回避して、『関西』の日本刀がついに袈裟斬りで傷跡の男を切り捨てる。


「かんにん、『いちちゃん』、切り捨ててしもた」  「いや、別に気にしないでです。むしろ、ランスチャージを1回だけとはいえ、凌がれて自信が……」

「マジで!? このおっさんそんなに凄かったの!?」

後ろで聞こえる『ヒーハー!』という甲高い声と無数の銃声を無視して、2人は目の前の兵士たちと対峙する。

後ろから『弾を、弾丸をよこせぇええ!』とか騒いでいる女性の声が聞こえても無視する。

ぜってぇ、自分たちが持ち込んだ分を上回る銃声がしているが、まぁ、奪った分なら文句無しと思って無視する。

なんか、『皆も手伝ってよ! 取り放題だよ!』って声もしているが、無視無視である。


衝撃。


着弾。


散開して回避済み。


戦車砲の一撃だ。

『中国製:第3世代軽戦車』の持つ105ミリライフル砲が、同軸機銃でもある『擲弾機銃(グレネードマシンガン)』が、ともに火を噴いている。

戦車砲の一撃は、かすめるだけで人体をバラバラにする。と言うか、現在進行形で、戦車前方にたまたまいた彼らの味方兵士が射撃の衝撃波だけでひしゃげた無数の肉の塊に変貌する。

グレネードマシンガンが解き放つ35ミリ擲弾もまた、人間を単なる肉塊に変貌させるに十分な威力をまき散らす代物で、それが次々と連発する

その猛攻は、洞窟状の空間を一部とは言え、崩落させたり、逆に壁を破壊して広い空間に変貌させるのに十分な威力がある。


戦車砲が10発ほどぶちかまして、一度止まる。


「中尉!」  「分隊前へ! ありったけの火力を解禁する。必ず撃破を確認しろ!」

随伴歩兵たちが前に出る。彼らは刀剣類の類いを片付けるか、地面に置いて、ライフルを構えて前へと進む。典型的な4人組での縦列歩兵隊形をその場で即席編成して周囲への警戒をしながら2隊突き進む。

砂埃。

砲撃の余波で空気が濁っている。前方の視界が悪い。

故に、耳で、或いは四方八方に向ける目線で警戒する。

小さな音。すかさず1列のうち1人を除き全員が音のする方向に射撃する。


その音のする方向の反対側から、1人の男が飛び出してきた。土煙にまみれた『関西』は左手で『日本製最新:5.56ミリアサルトライフル』を構えている。

別方向警戒要員として、射撃に参加していない奴が『関西』に向けて引き金を引く。

だが、銃弾は間違いなく『関西』に向かって飛んでいったにもかかわらず、『関西』には一切被弾していない!! どうなって――――


――直後、後方より爆発音。『関西』の虚像もまたライフルの引き金を引く。


『中国製:第3世代軽戦車』の1両が砲塔から吹き飛んだ。


『 馬鹿な! 何がおきた!?』  『 班長、煙の量が多すぎます! いくら砂埃でも舞いすぎだ!! 煙幕が紛れています!』

『 ライフルグレネード……小日本の自衛隊が大好きな擲弾の攻撃だ!』  『 馬鹿な、戦車装甲が擲弾程度でやられるわけが!』

「側面装甲で4発同じ場所にホールインワンすりゃ、軽戦車程度はぶち破れるやろ。ライフルグレネードの特徴は擲弾最強の火力なんやで」

『関西』はそう言い切るやいなや、煙にまみれて姿を消す。違う。これは最初から虚像だ。ライフルグレネードで破れる戦車装甲なんて都合のいい話もあるはずが無い!


『 ライフルを左で構える奴なんて少数派だ! これは虚像。後ろかぁ!』  「気がつくのが遅いです!!」

二重の陽動。ましてや戦車撃破のインパクトに踊らされてダンジョン用電動マウンテンバイクを全速力でこいだ人間を一瞬、見逃した。ランスチャージが1列に炸裂。胴体を真っ二つが4つ出来上がる。

砂埃、土煙。果たしてこれらは、何処までが本物か。煙幕にすり替わっていないか? 或いは本当にタダの、普通の煙幕か?

残る1列、円陣防御へ移行。

それとは別に残る1両の戦車が後退を始める。後退しながら、巻き込む事も前提に『いちちゃん』に砲門を向ける。

と、そこに、トンと、音がする。それは戦車の車体、その砲塔の上。いわゆる天板に降り立つ2本足。


「ヒーハー!!」

誰かから奪い取った、12.7ミリ対物ライフルを構えた1人の少女が引き金を引く。いわゆるコマンダー・キューポラハッチに向けて何度も何度も何回でも!

いかに戦車の装甲と言っても人の手で開閉するハッチめがけてぶち込まれる12.7ミリの波に何時までも耐えられるほど強くは無い。


『 振り落とせぇぇえええ!』

戦車長の絶叫。直後のアクセル。前方へ急発進。

ところで思い出していただきたい。ここは通称ダンジョンの『第1階層(レベル1)』。鍾乳洞を思わせる狭くアップテンポな地形で、時折水のような物が流れている。

そんな場所でちゃんと前を見ず強引に前に出る。それは戦車の車体が激しく上下する事で示された。


「駄目じゃ無い。敵を見て焦ったら」

銃撃を続けながら跳躍。上下に揺れる戦車を眼下に見下ろしながら、引き金を引き続ける。ついでに『スキル:HEATブースター』を発動して三角形の形状をした対装甲手榴弾を投げ落とす。

元を正せば旧日本軍が本土決戦に向けて開発していた陶器製の対戦車手榴弾だが、このダンジョン時代、強固な生体装甲を持つ奴を接近戦で倒す武器として実現した代物と12.7ミリの銃弾はついにその時も迎える。


「さて、次は誰をぶん殴れば、弾丸落としてくれるかな?」

追いはぎの思考回路をしている『部長』の後ろで、燃え上がる『中国製:第3世代軽戦車』の2両目。

当然の様に飛んでくる投げ槍を逆にハワイの戦士の様に逆につかみ取り投げ返す、銃弾にはぶっ壊した戦車を盾にする。

仕方なく、手に入れた対物ライフルでは無く『アメリカ製改造:D.B.式7.62ミリアサルトライフル』で応射。

20発マガジンを早々に使い切り、ため息とともに予備マガジンに切り替える。

このまま打ち合いしていたらすぐに使い切る。あっ……そうだと言わんばかりに薙刀を取り出して戦車後方のラックを破壊する。

そこは、戦車兵が荷物を詰める空間。予備の砲弾や水、食料などを積み込む露天スペース。


「ここで、とっとと決めるよぉ!!」

『アーツ:3セコンドアクション』。バカみたいな馬鹿力で戦車砲の砲弾を腕の力で宙にぶん投げ、野球バットをフルスイングするように薙刀で全力スイング。

見事に、敵中、その頭上で、戦車砲弾が爆発し、周囲に爆風と衝撃波をまき散らす。


『 いい加減、おまえが、しねやぁぁああ!』

『中尉』の声だった。

爆轟の衝撃波から、部下達を守るのはきらめく粒子のような何か。

『インファイト・フレーム(重装歩兵)』。元は、ボディーアーマー、つまり軍用の防弾戦闘服だったと言われている。素材工学やその他諸々、科学の発展は何時しか12.7ミリの直撃さえ2~3発は耐えきる 化け物染みたそれを作り出した。

ただし、困った事に、そうしたボディ・アーマーを撃破する手っ取り早い手段はさらなる大口径重火器の投入となる。例えばロケット砲。ところで歩兵1人撃破にロケット砲をぶち込むコストを計算して欲しい。

ついでにその重量も。人間が皆で当たり前の様に持ち運ぶ物としては必要数も重量もやばかった。こうして、ボディーアーマーはパワーアシスト機能がつき、今度はアシスト機能があるから良いだろうとさらに装甲化、 大火力の搭載がされていき気がついたら、2~5メートルほどの人型ロボット兵器みたいな見た目になっていた。

それが『インファイト・フレーム』だ。元をたどれば『現代化刀剣類』と呼ばれる兵器類も安く軽くボディー・アーマーを突破する兵器開発の結果であったりする。装甲の薄い場所を大昔の甲冑組み手の様にぶっ刺して 対処すると言う発想だ。


「戦車に、第3世代インフレスーツ、サラミスライスするには戦力が大きすぎでしょ。どんだけダンジョンに質量投入してんの。金持ちなんだね、『百億万』って」

『 個人単位で圧倒してくる魔境の化け物どもめ、これ以上部下はやらせん』

カーボングラスファイバーが編み込まれた52本のロープのように太いワイヤーがまるで髪の毛のように頭部より伸びて、風になびくように360度広がる。カーボングラスファイバーのそれが 光を反射し、きらめく粒子のようにも見えた。


「ダンジョン用のインフレスーツじゃないから、こっちとしては助かるかも――――」

――轟音。砲撃音。衝撃音。


「ねっ!!」

待避。撃破したはずの1両目の戦車が戦線復帰。無力化したと思ったが思ったほどの損傷にはなっていないようだ。……ライフルグレネードのはったり程度ではこんな物か。


「部長! インフレスーツはお願いしますです!」

『いちちゃん』が戦車に向かってマウンテンバイクを走らせる。

一度は無力化寸前にまで追い込んだ車両だ。本当なら、一度整備場に突っ込んだ方がいい。そんな代物が動いているのだから速攻で決めれば、勝機はある。

とはいえ、戦車側も同じ事を繰り返すつもりは無い。滑腔砲を『いちちゃん』に向けて――――

――――再びのライフルグレネード3発。『部長』、『関西』、『オキタ』の3人組が戦車に向かって『日本製最新:5.56ミリアサルトライフル』の銃口より『小銃擲弾(ライフル・グレネード)』が 戦車頭上に落ちてきた。

それに対し、『いちちゃん』が構える『日本製最新:5.56ミリアサルトライフル』の銃口の向きはただの歩兵。


『 このクソガキどもがぁぁああ!』

中尉のインファイト・フレームの頭髪装甲が歩兵隊を守る。所詮アバターだ。死にはしない。一番近くの『ダイビングスポット』でゲームのようにリ・スボーンするだけだ。

その一番近くのリ・スボーン先が日本側の合法施設であることを考えなければ。

そのうち政治取引が成立して、本国に帰ってくるとしてもそれまでは、不法入国者として、収監される。

けど――

      かえってくるまでに、彼らに立場はあるか?

――――そして、日本側も祖国も正直ダンジョン関係は管理する労力が不足している。


かえってくるまで、まともな、扱いをうける、保障は、何処の、国にも、ない。


『 撤収する! 火力集中! この辺一帯ごと全部吹き飛ばせ!!』

頭髪装甲をきらめかせながら、中尉のインファイト・フレームが、取り出すのは『中国製:25ミリ対空機関砲短銃身携行型』。

ボディーアーマーの進化、アクティブディフェンスの進化、センサー系統の進化、ドローンの進化。もたらしたのは12.7ミリの直撃でさえ2~3発は防ぐ歩兵隊。

それを確実に貫く物として、インファイトフレーム専用兵装の25ミリ機関砲とその専用『粘着榴弾(H.E.S.H.)』。


「そいつは、普通にやばいのよぉ!!」

『部長』は鹵獲した対物ライフルの引き金を引いて、インファイト・フレームの顔面に12.7ミリをたたき込む。が、のけぞるだけで、倒れない。


(これだから、インフレスーツは!!)

悪態。でも、そののけぞる時間だけで良かった。

『関西』が、1人の歩兵の四肢を切断し、達磨状態にしている。そして、達磨を蹴飛ばして宙に打ち上げる。

たった、それだけの動作。たったそれだけの動作なのに、『中尉』の引き金がロックされた。

――――何故?

――――答え:『敵味方識別装置(I.F.F.ロック)


(部下を盾にされたッ!!)

自慢の35ミリの引き金は堅く、閉ざされ次の瞬間、プラズマ化した刀身が装甲の薄い脇腹めがけて高速でねじ込まれる。ダンジョン用の電動マウンテンバイクの少女のランスチャージ。

……アバターだ。即死にはならない。35ミリ機関砲をタダの棍棒として振り回す。目の前のマウンテンバイクの少女に向かって振り落とす。

彼女は『突撃槍(ランス)』をそのままにペダルを押し込みマウンテンバイクを走らせて回避する。その両手に武器はもう無い。達磨にされた部下が落ちる。部下を盾にされた事で発動したロックは解除。

引き金を引く。

『オキタ』と『中尉』が同時に。『オキタ』の手に握られているのは『トルコ製:D.B.P.A.式散弾銃』。35ミリを支えていた腕に当たるのは12ゲージのスラッグ弾。

横方向からの衝撃。35ミリの銃口は彼女から大きくずれて、『中尉』の眼前に広がるのは頭部カメラに今まさに突き刺さらんとする薙刀の刀身。

ブラックアウト。頭部カメラおよびセンサー系統の破損。だが、今時『インファイト・フレーム』の頭部に人間の頭部など入っていない!! 別のセンサーに切り替えれば!


「ここだね」

1人の少女――『部長』の声。

こつんと、小さな音。それはライフルアクセサリーに出来る『アメリカ製:リボルバー式散弾銃』の銃口が装甲板に当たった音。

ライフルアクセサリーなのに、付けると重たいから、つけずに殆ど拳銃もどきとして使われている散弾銃の銃口が装甲板に当たった音。そして引き金が引かれる。

頭部センサー系統とは別。腹部センサー系統の停止。

そして、何かが押し込まれる。脇腹に刺さったままのランスを『関西』が、平手で押し込んでいく。


貫通。


『 畜生。なんだって、魔境の連中がこんなとこで』

「戦車にインフレスーツ。『百億万』って金持ちすぎるでしょ。こんなに武器弾薬だの車両だの戦車だのを持ち込んで……折角だから、いくつか、おいていってよ!!」

それが、中尉がインファイト・フレームごしに見た最後の風景。

呼び込んだ救援部隊。そいつらが、こちらの部下ごと撃ち込む大量のグレネードマシンガンで、戦況は一度リセットされた。

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