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咲坂高校冒険部活動報告書  作者: ホエール
最終章『一挙両得、正義の行いと言っとけばそれっぽい』
44/44

最終章 7.

   7.

 で、装甲化トロールを1体倒したことは本来快挙なんだが、すぐさまわんさか大量のゴブリンだの河童だのスライムだのがあふれてくる。


『――3、2、』

聞こえてくるのは『マスドロ』のカウントダウン

反応する警察と女子寮の一団は隠れることが出来そうなくぼみに身を伏せる。直後始まるのは迫撃砲の砲撃。

モンスターたちが次々と吹き飛ばされ、砂となって掻き消えていく。


『――離脱するなら今しかないですよ』

「10秒と立たずに砲撃してきやがって」

と言いたいが、万単位のモンスターに包囲されるよりはまだましかもしれないので、『村井』は愚痴って終わる。

迫撃砲と40ミリ擲弾機銃らしき銃声が万単位のモンスターを処理している音がする。

これが途切れた時、『代々木ダンジョン村』の防衛線が完全に破綻したことを意味する。

それを強制的に無力化する大型装甲化トロールみたいな銃弾をダメにする奴はこうして接近戦で仕留めなきゃいけない。


『――あっ、離脱やめ! 離脱やめ!!』

『マスドロ』の焦った声。鳴り響く地響き。


「あーこれって、私今すぐ逃げたいんんだけど、警察はそれでも追ってきたりする?」

大型装甲化トロールの追加がエントリー。その数2体。

砲撃がやんだことで、再び山ほどのモンスターたちの群れも近づいてくる。

絶体絶命の文字が女性刑事2人組と女子寮3人衆の脳裏に浮かぶ。


『――道を切り開きます。お覚悟を!』  「「「はぁ!?」」」

意味が分からない『マスドロ』の言葉は砲撃によって答えが出た。

大型装甲化トロールのSEEを避けるように行われた砲撃は接近してくるハズのモンスターの群れを一度は蹴散らした。

そうやって出来上がった一筋の道のような空間を大勢の人間たちが走ってくる。

嘱託職員含む警察官、『女子寮』の戦闘員に日本側傭兵に代々木で活動している冒険者たちの一団。

『赤井』が得意としているボールベアリングの乱舞が接近してくるゴブリンの頭蓋を次々と砕く。

『春日の警備隊長』がそのライフルで次々と接近してくるモンスターを打ち抜いていく。

『Tフラッシュ』がカメラ片手に面白おかしく叫んでいる。全員でモンスターに対処しつつ、トロール退治の援護を……あいつだけなんかやってる事違うな。


「撃って出てきたのか?」  「SEEが使える個体なんて放置できないからでしょうね」

『寮長』の半分呆れたような声。


「『村井先輩』。ここはもうあの人たちに任せて、私たちは後ろにさが――」  「――れるわけないでしょ。警察官が市民とカメラの前で堂々と逃げ出せるかっての」

目の前にいるのは2体目の大型装甲化トロール。

補充したバッテリーのおかげで、問題なく稼働する日本刀の高振動ブレード。

問題は、こいつをもってしても、下手なチタン合金より硬くて、下手なカーボンファイバーより柔軟な表皮を切るのは並大抵じゃないって事だ。

いっそ『女子寮』3人衆に任せるか? とも思うがこのまま本来なら手錠をはめてるはずの連中に活躍させるのもまずいだろう。


「いくわよ、『加西』」  「こんなの逮捕術の訓練が役に立つように見えない!!」

弱音を吐いてる『加西』を無視して突っ込む。

『村井』の武器は、拳銃、スタンバトン、日本刀に短機関銃。だいたいこんなもの。ここにきてからまともに使っているのは日本刀くらいだ。

他は使う暇が無かったというか、武器を選ぶ余裕がなかった。そして、今の状況では拳銃も短機関銃も使い物にならない。

『現代化刀剣類』としての日本刀の振動出力を限界まで引き上げる。馬鹿正直に切りかかったら間違いなく刃は通らず跳ね返されるだろう。


「『村井先輩』っ!!」

『加西』の悲鳴のような声。振り下ろされるトロールの棍棒。その先にいるのは『村井』。

一歩分前へ。

紙一重の回避、そのまま日本刀を大型トロールの足指に振り下ろす。中指でも切り落とせば、動きは制限されるだろ!! 表皮に弾かれるが、力でねじ伏せ押し込む。

こんなの刀の使い方じゃないことはわかっている。でも今しかない!

迫りくるトロールの左腕。棍棒を振り下ろした右手じゃなくてそれが『村井』に近づく。自衛隊も使ってる9ミリ拳銃を発砲。

SEEは拳銃弾の運動エネルギーを無力化してすさまじい閃光となる。すなわち、目くらまし。尤も銃弾を無力化するようなトロールにどの程度意味があるか。わからない。

それでも一瞬の閃光は迫りくる左腕から逃げ回る時間くらいは稼いでくれた。


「今、助けます!」

『加西』がその刺股の電撃を最高出力に突撃してくる。所詮対人制圧用だ。江戸時代式の殺意の高い刺股とはいえ、トロールへの致命打には程遠い!!


「バカ! 下がれ!」

ところで、刺股の確実な使い方として、どのようなものが考えられるか。実のところ刺股で相手を制圧するには訓練が必要だ。

ろくに訓練していない教師や店員さんが使うことを前提に施設に常備するような武器ではない。本当は取り扱いが難しい武器なのだ。

それでも訓練せず有効性を持ちたいのなら、刺股を単なる鈍器として、相手の頭めがけて振り回せ!!


「ああ、もう!!」

『村井』は日本刀を構えなおして再び突貫。『加西』のスパークする刺股はトロールの顔面に突き刺さり、電撃を伴った一撃は確かに有効打を与えたようだ。が、それだけだ。

一応狙いが『加西』にずれたようでトロールがその巨体動かして暴れまわる。

重火器が使えない相手が8メートルの巨体を暴れさせるのは純粋に圧倒的な暴力だ。

一つだけ良いことがある。足指を切ったのは正解だ。暴れれば暴れるほど8メートルの巨体を持つトロールが踏ん張れなくなってる。


「『加西』あわせろ!」

刺股と日本刀が連携を取って、暴れまわるトロールのふくらはぎを殴打し削り取った。

目に見えるくらい日本刀が刃こぼれしている。けれど、それで削り取ったふくらはぎは大きな板のように落ちる。

咆哮。トロールの叫び。空気を震わせ、人間たちの踏ん張りを妨害する。削り取ったふくらはぎという傷口にスタンバトンを最高出力にしたうえで突き刺す。


蹴られた。


「『村井先輩』っ!!」

HPのバーが一気に減る。生きてるのが不思議なくらいだ。『加西』の焦ったような声に意識がはっきりする。

重火器がろくに効かない表皮とは、多少強化されようが人間の出せる威力の刀剣でどうにかできるようなものなのだろうか? そんな疑問。

人間はオリンピック選手だろうと、日本刀でコンクリートの塊をぶっ壊せたりはしない。頑張ればいくらか壊すことは出来るかもしれないが、重火器を使えば一瞬だ。

人間の強みとは、身体じゃない。『重火器』を作る知恵だ。使い方を色々と生み出す叡智だ。だから――――


「――――化け物を殺す方法を考えるのが人間の強みだ。ざまぁみろ」

もはや銃弾は使い物にならない。でも別にそれだけが武器じゃない。『村井』の手の中に日本刀は無い。

蹴られる瞬間、それを垂直に突き立てた。トロールは自らの強靭な力で自らの足に高振動ブレード機能の日本刀を突き刺した。

空気が震え響き渡る。トロールの苦痛の叫びだ。そのまま背中から倒れる。暴れる。


「『加西』ッ!! そいつをかせぇええ!!」

刺又がトロールの眼球めがけて振り落とされた。電撃と打撃のダメージが数度となく加わり、やっとトロールが死に絶える。

少しずつ砂となって崩れていくトロールに刺又を突っ込んで、自分の『日本刀』を探す。


「せ、『先輩』!」  「今なら銃が使えるから、寄ってくるものを倒して!!」

「あっ、そっか」

やっと気づいたらしい『加西』が射撃を開始する。近寄ってきた河童の皿頭を9ミリ拳銃弾が叩き割り、寄ってきたモンスターを複数撃破していると、盛大に刃こぼれした日本刀をやっと

取り出したらしい『村井』も拳銃をもってきた。

ピストルカービンキットと呼ばれるもの――ストックとフォアグリップ、スコープ等を増やす――を取り付けて、ちょっとしたライフルっぽい見た目になってる。


「まもなく砲撃が再開します!! 10数えたらみんな逃げますよ!」

誰かの警告の声。『村井』と『加西』は『女子寮』3人衆へと目を向ける。どさくさに紛れて逃走されたら困る。

しかし、3人衆は遠くを見つめ、次の戦いに備えている風に見えた。彼女たちの目線の先を追って、『村井』と『加西』は引きつった。

追加の装甲化トロールが2体。その後ろには、大陸製と思わしき、多脚兵器の姿が見える。


「滅茶苦茶だ」

もはや誰もが、状況の圧倒的不利を悟った。


『 小日本の役人どのに次ぐ。ここは陥落する。さっさと逃げ出せば、「妨害装置」の危険性から逃げられるんじゃないかな?」

拡声器だ。なんといっているかわからないが、外国語だった。翻訳アプリを起動しなければ対話は出来ないだろう。

多脚兵器のさらに後ろに見えるのは、人の形をした人ではないもの。すなわち軍用大型のパワードスーツであり、50口径の直撃にだって無事ですむ歩兵。

大陸製のインファイト・フレーム。


「浮かんでやがる。どういう方法?」

思わず『村井』が口にしたように、大陸製のインファイトフレームは空中に浮かんでいた。だからこそ後方にあっても見えたのだ。

絶体絶命。誰もがその四字熟語を頭に思い浮かべる。

そんな状況下、唐突にまばゆい光が連続で近くから放たれる。誰かが発砲している。


「あのガキども!!」

『加西』は『村井』の視線の先を見て、なぜ『村井』の表情が凍ったか理解した。

例の4人組の学生たちが、大陸の兵隊らしき連中を縛ってソリみたいなものに乗せてやってきてた。




「いやー大量大量!!」

ホクホク顔の『部長』は5.45ミリのライフル片手に鼻歌を歌っていた。

そんな状況に水を差す大陸の傭兵の銃撃。それは当たらない。


「――!?」

当たらないことに驚く大陸の傭兵は、だが、次の瞬間何故当たらないのか理解する。腹部にいつの間にか突き刺さる投げナイフ。狙いがぶれた。

そして、引き倒される。後ろから蹴られたから。


「さぁ! いっぱい補給したから、最前線に復帰しましょうよ!!」

『部長』の元気いっぱいな声に残りの3人はため息をつきながら兵隊たちを拘束する。『妨害装置』が動いている今、ぶっ殺したら厄介なところでリ・スポーンする。

それが良いことか悪い場所なのかは所属する組織や国籍による。

だから拘束する。でもこのまま放置しておくのもダメ、となれば適当な資材を組み合わせてロープでつなぎ、そりっぽいものを作ってそれに乗せて引っ張る。


「みんなー! 遅い!」  「「「ぶっ飛ばすぞ」」」

思わず全員青筋立てるほどに元気いっぱいの『部長』は安全確認も兼ねて先行し、3人が必死にソリを引っ張る。

近づいてくるゴブリンを射殺し、勝手に肩を叩いてくるドッペルゲンガーをその顔を見ることなく首を切り落とし、4人は進んでたどり着いたのが、装甲化トロールを引き連れた大陸武装勢力たちと

にらみ合う日本勢の構図。


『 逃げ出した奴が今更やってきたか』  「うーんそう見えるのは仕方ないけど、ばっちり補給してきたんだよね」

『 つくづく救いようがない小日本だ。その能天気さで国を守れると思っているのか?』  「あなたは国を守るために他国を攻めてるの?」

『 お前たちの国にも内政派と外征派で分かれているように我々もその2つで分かれている。内政派は馬鹿だ。引きこもって、我々の核心的利益を奪われている事実から目を離す』

翻訳アプリ越しとはいえ、『部長』と大陸の武装勢力の指揮官の一人、『大尉』の会話。


『 私の故郷は海南島にある。そこは美しい海が広がる祖国における常夏の楽園だ。だが、レベル1に行けば状況は変わる。私の実家のある座標はとっくにベトナムだのフィリピンだのの

企業の巣窟となってしまっている。紛争地帯だよ。おぞましい。守るべき範囲が広すぎる。だから、一度侵入を許せば排除は困難となる。必要なのは侵入されても本土は無事で済む

防衛のための土地だ! お前たちの国だって似たような事は考えて黄海でドンパチしているだろ!! 何故我々がそれをしてはダメなんだ?』

「言いたいことは理解するけどさ、それって反撃で殴られることは織り込み済み?」

『部長』と『大尉』の会話はそこで終わりを迎えた。

装甲化トロールが叫びをあげた。それが最後の戦いの始まりを告げた。




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