最終章 6.
6.
『村井』は県警の面々と合流する。嘱託職員も正規職員もボロボロでポーションをがぶ飲みしている。
もはや警察にこの紛争をどうにかするだけの力は残されていない。というか、この大規模MPKに対処する能力が無いというべきか。
それでも、この『代々木ダンジョン村』には多くの市民がいる。何もできずに逃げることは出来ない。故に
「本土から船が出港したと連絡が来ました。ダイビングスポットを搭載した奴で、直接ここに投入するそうです」
「……大丈夫なの? 大量に搭載した武器弾薬で県警の予算すっからかんになりそうだけど」
「……そこは上層部に考えてもろて」
何にせよ、船は時間がかかる。陸路でダンジョン内部を走る人々とどちらが早いかは難しいところだろう。
「五島列島にダイビングスポットを公的に配備するべきですな」 「それは帰ったら提言してください」
防衛区画の無人兵器たちが弾切れを警告しながらチェーンソーを振り回す。バッテリーが続く限りそれを振り回すだけでも防衛に効力がある。
そんな無人兵器たちの様子を見ながら、県警の面々は考える。武器を振り回して戦うより確実に市民を守る方法。それは、無人兵器たちを支援することだと
つまり、無人兵器や『春日運輸警備』のオペレーターたちに残った物資を運んだり、非戦闘員を安全そうな場所に避難誘導させ、少しでも被害を最小に収める努力を払うのである。
「半装填!」 「撃てっ!」
軽迫撃砲が火を噴き、そこにバックパックを背負った女性刑事2人組がやってくる。
「追加の砲弾です!」 「おう! ありがとう!」
16口径の陸自放出品であるその軽迫撃砲は神だ。少なくとも数百数千に及ぼうとする数のモンスターを蹴散らす最高にして唯一の手段である。
しかし、恐ろしいことが起きた。着弾したはずの場所で激しい閃光が瞬き、そして何も起きない。
「SEE! クソが!!!」 「『村井先輩』、SEEってのは?」
「……一部の大型モンスターは妙なバリアみたいなものを持っててね。銃火器が効かないの。それどころか、銃火器で攻撃を繰り返せば繰り返すほど……」
「反撃きます!!」 「退避!」
女性刑事2人組は走りながら
「なんかすごいビームみたいな反撃してくる!!」 「はい!?」
特に息を切らさず会話してて、可憐な女性のイメージを勝手に抱いていた迫撃砲のオペレーターたちの心をメスゴリラのイメージで砕いているが気づかない。
「対処法はバリアの有効範囲を超える飽和攻撃! バリアの内部に入って攻撃! 低速の質量攻撃!! どうも高速攻撃に対して反応してるから銃火器が無力化されてるみたい!
でもって、銃火器の高速攻撃を逆にエネルギーとして回収してぶちかます! それが反撃のビーム!! 多分『速度』に反応してその運動エネルギーを吸収してる!」
「でも今までそんなやべーモンスター見ませんでしたよね!?」 「MPK連中が引っ張ってきたんでしょ!! 特別やべーものを探して!!」
反撃のビーム攻撃が炸裂し、砲兵陣地が一つプラズマ化して文字通り吹き飛ぶ。
「今、ビームが曲がってませんでした?」 「そういう物理法則でもあるんでしょ!」
「クソが、迫撃砲がダメになった」 「爆撃ドローンの数はどの程度残ってる!?」
刑事たち2人とオペレーターたちの言葉が重なり、また、地響きがあまり猶予が残されていない事を表している。
20ミリや35ミリ機関砲の砲戦が始まったようで押し寄せてくるゴブリンだのなんだのを次々と砂に変えているが、見事にSEE現象とやらが起きてる場所にはぶち当てていない。
「有志を募って突貫! SEE対象排除を近接戦闘にて最優先!」
オペレーターの叫び声。そして再び砲声がとどろく。まずはSEE現象を発生させているモンスターまでの梅雨払いだ。
曲射弾道機動を描いて落ちていく無数の砲弾が炸裂し、ゴブリンや黒小人がばらばらになって吹き飛んだり、文字通り焼き尽くされたり、衝撃でネジくれそこに熱風で体内から焼却が進んだりして
撃破されていく。
「虎の子のインフレスーツを持ってこい!」 「今南西の防衛区画で使ってるんだぞ! 無理だ!」
春日のオペレーターたちの動きを見ながら警察がするべきことを改めて『村井』は考える。
もはや自分たちの戦力は彼らより下だ。
しかし、だからと言って警察官が目と鼻の先で戦う民間人を見捨てて逃げることが許されるだろうか?
「私たちがいく」 「「「!?」」」
オペレーターたちと『加西』が驚愕の表情に染まる。けれど、すぐに彼らはいつもの表情へ。感情をいつまでも表に出している暇はない。
実際は新任の『加西』くらいで、正規職員としての警察官の多くが『村井』と同じような表情になり、戦場を見ている。
「お願いできますか?」 「当然です。逝くよ、『加西』!」
「せめて文字を変えてくれませんかね! 『村井先輩』!」
「それ、私たちも連れて行ってくれない?」
『寮長』だ。手錠を後ろ手にはめて、簡単には逃走を企てる事が出来ない様に目隠しをされ、常に警察関係者が見張っているが
「これ、今の状況だと無駄じゃ無い?」 「そもそもここまで盤面をグチャグチャにした張本人がそれを言っていいわけじゃ無いよ」
「だとしても私たちを見張る人員って、今の状況だと無駄じゃない? むしろ私たちを戦力にした方が有益じゃないかな?」
忌々しいが、その提案は通ってしまった。
そして、5人は走る。そして『女子寮』3人衆、つまり『寮長』『かに』『ゆめ』の5人。
軽迫撃砲の砲撃によって出来上がった細い小道のようなモンスター空白地帯を。
万単位で『代々木ダンジョン村』に押し寄せるモンスターだが、まだダンジョン村が耐えているのは防衛区画が頑張っているのとそこに配置されているのが『軽迫撃砲』だからだ。
ベトナム戦争で、敵中に孤立した圧倒的少数の米軍部隊がベトコン1個大隊と一晩にわたり戦い抜けたのはたった1門の軽迫撃砲があったからという逸話があるように。
けど、それを無力化するものが出てきた。このままでは崩れる。
Tips:『SEE』……スピードイーター効果、閾値を超えた高速移動質量に対して、反応するエキゾチックニュートリノを周囲にばらまくことで、高速移動物体の運動エネルギーを
熱や光に変換し、減衰させると考えられている。
詳細なメカニズムはいまだ不明で、時折この能力を持つ個体が現れる。
尤も『第1階層(レベル1)』で現れるのは極めて稀である。
距離にもよるが20口径が22口径拳銃弾程度に威力減衰することは確認済みである。
Tips:『装甲化』……これまた一部のモンスターは鎧のようなものを被っていたり、極めて頑丈な表皮を持っていることがある。
多くの場合、SEE能力もセットで持っている場合が多い。
「こいつは……トロールか」 「でっか!」
8メートルはあるであろう大型トロールの装甲化個体。つい思い立って、9ミリ短機関銃の引き金を引く『加西』だが、その結果はまばゆい光で視界を奪われたと思ったら
9ミリ拳銃弾を踏みつけ、足を取られて倒れる自分の姿であった。
日本刀でトロールを切りつける『村井』先輩の姿を倒れたまま見る。
だが、モース硬度9ほどの硬度を持つ流体繊維の表皮は高々、女性刑事が握る日本刀風情に切れるはずもない。
キーンと、金属音と共に弾かれ、そんな女刑事に振り下ろされるのは巨大な棍棒。
「コスト15、レーザー!」
『ゆめ』のレーザー誘導によって落ちるのは放電攻撃。光速で後方から飛んでくる雷撃は装甲化トロールに着弾する。
雷撃は質量が無い。物理学、量子力学的に厳密に言えばそうではないが、少なくとも高速で動き回る物体ではない。
雷撃は振り下ろされるはずの棍棒攻撃の軌道を変え、トロールの表皮を遠慮なく焼き上げる。
「ちぇすとぉぉおおおおお!!」
『かに』が、そのナックルグローブで焼きあがった表皮に拳を突き立てる。そのナックルグローブには一枚の板のようなパーツが付いていた。
すなわち、破甲爆雷。かつて対戦車兵器として開発され、今となっては期待されたほどの威力は無いが故に近接兵装として活用されているもの。
H.E.A.T. メタルジェットの一撃はエキゾチックニュートリノによる減衰をもってしてもその熱量と慣性の法則は消せない。むしろ熱量は強化する!
「銃弾がダメなら爆発だぁぁああああああああああ!!」
『かに』の叫びと破甲爆雷の破壊力が表皮をぶち抜いた。
とはいえ、その一撃は装甲化トロールを文字通り一撃必殺するようなものではなく、大穴の空いた体を抱えながらトロールの棍棒が振り下ろされる。
いや、振り下ろすモーションだけが成立した。
「イムスト・ハヴ・ヤリングク」
自分で自分の小指を切断するのは『寮長』。だが、握るという動きに小指は欠かせない。棍棒のようなデカ物をつかむことが出来なくなった装甲化トロールはそれだけで
攻撃を無力化されて
「レーザー! コスト30!」
レーザー誘導による雷撃攻撃が脳天へと落ちた。
「……『女子寮』はなんで素直に強いのに、勝手に暴れだして、警察と同時に疲弊したの?」
『村井』の呆れ声がこいつらへの評価のすべてだった。




