第1章 1.
咲坂高校冒険部活動報告書
第1章「残念無念で当然の結果です」
1.
「部長諦めましょうよ」 「いいえ、諦めないわ」
「もう最悪、同好会に降格しても……」 「それだと内申点にもならないじゃ無い!」
「おう……思ってたよりガチな理由だった」
不老不死、スペースコロニー、FTL技術に完全人造宇宙の創設やその他諸々、Etc...etc...
もはや100年後の銀河帝国建国さえ夢では無いと浮かれていいる人々が出てくる昨今、歴史ある咲坂高校冒険部は廃部の危機に遭った。
「我が校のダンジョン系部活は、弱小野球部風情では無く、歴史と伝統溢れる我が『冒険部』なんです!」
「歴史と伝統っていってもここ5~6年ろくな実績が……」
「実績と確定申告のノウハウがあるのも我が冒険部なんです!」
「先輩達から習って、おすすめの税理士さんの名刺をもらいましたけど、結局私ら親の扶助から離れてませんよね。収支が赤字で」
「 この裏切り者達がッ!! 誇りと内申点が欲しく無いの!? 表彰状が欲しく無いの!?」
「「「ヒスらないでください。部長」」」
一見すると黒髪のお嬢様系優等生と言った外見の少女が叫び、それに3人の男女がため息をつきながら反論する。
4人がいる部屋の壁には色あせた古い物から新しい物までたくさんの写真や表彰状が飾られ、古い写真ほど雪山や洞窟の写真が多く、新しい写真ほど徐々に武器を持ってはしゃぐ人間達の姿が増えていく。
名門冒険部。始まりは登山や洞窟探検といったアグレッシヴな活動から、今ではダンジョン探索をメインに活動する部活動である。
「私たちの代で先輩達から代々受け継いだこの部室を失って見なさい!! OBやOG会が来た時どうするの!?」
「部長が土下座すれば良いのでは?」 「いちちゃん!?」
部員の女子――いちちゃんと呼ばれている――がOBやOGの姿を頭に思い浮かべながらそう答える。正直顔が青いが、それでも彼女は部長が土下座して謝ろうと言うばかり。
部活人数、4人。1年生は1人もおらず、存続の危機に立たされたかつての名門部活。それが『咲坂高校冒険部』であった。
「私は! 冒険と! 金と! 栄誉と! 内申点がァ! 欲しくて! 県内で! 実績ある我が校に! 入ったのぉ!」
きれいな黒髪を振り乱し、部長と呼ばれた少女が己の欲望を叫ぶ。
「なーのに、私が! 入学した頃には! 衰退が始まって、あげくの、挙げ句の果てに!」
残りの3人の部員達、男子2名、女子1名は校内新聞の記事から目をそらす。
そこには
『我が校野球部! ダンジョン探索で1千万円を稼ぐ!』
『全額我が校に寄付! 野球設備に!』
『ダンジョン探索において、多大な功績を挙げた我が校に県より表彰がくると』
「ウチの弱小野球部が部費稼ぎにダンジョンいって、ビギナーズラックの果てに何で有名になってんですかぁぁああああ!?」
「結果を出したからですよ、部長……」 「ぁ?」
「先輩と私たちが大先輩達の遺産を食いつぶしているから……」
「なんでよぉぉぉおおお!!」 「「「部長、この間使った12.7ミリをそろそろ補充してください。自費で」」」
ダンジョン探索はとんでもなくお金がかかる。下手すれば、装備を付けて入場するだけで1人当たり百万円くらいぶっ飛ぶ事になる。
十分な準備と計画をしたうえで2~3回探索をすれば黒字になれるとは言われているが、逆に言えば十分な準備も計画もそして、何回か入る資金力が無ければ大赤字で破滅するだけだ。
「正直、部長も含めて歴代の部長達が金遣い荒いのが、衰退の原因ですよね?」
「そ、そんなことないよぉー?」 「目を見て言ってください。部長」
「とにかく、部長がマネーを使いすぎなんです。Rapidlyで12.7ミリを補充してください。と言うか、薙刀使いましょうよ」
Tips:『ディープ・フロンティア』……いわゆる『ダンジョン』とその技術名称。小難しいSF見たいな理屈の果てに人類が作り出した新世界。
実際には、余剰次元や別位相に3次元の質量を維持したまま、投入すると言う技術なので、世界自体はそこにあったので異世界に行くテクノロジー的な物である。
3次元の質量情報を投入するコストは、莫大であり、黎明期だと『ロケット打ち上げより安い』と言われた。世界に現れてから14年、今もなお状況次第では1人百万円単位の投入コスト、つまり入場料を必要とする。
この入場料がネックであり、重火器は極めて有効だが、弾薬費が凄まじい事になって、弾薬費で破産する人が現れるのは日常。民間でのダンジョン探索の基本は念のためのライフルを背負って『現代化刀剣類』で戦うスタイルが基本である。
「いやじゃ。貧乏くさいマネはしたくない。弾幕でヒャッハーしたいんだよ!!」 「「「だから大赤字なんだよ!!」」」
Tips:『トリガーハッピー』……咲坂高校冒険部はトリガーハッピーほど強いと言うジンクスがある。先代、先々代の部長たちもトリガーハッピーで赤字を出しまくり、冒険部衰退の原因である。
ただし、とてもつよい。
部長を同じく女子であるいちちゃんが取り押さえている隙にガンロッカーに50口径ベオウルフ銃弾や同じく50口径12.7ミリライフル銃弾を全部投げ入れ、パスロックを幾重にもわたってかけていく。
最後は男子2人が即興で考えたパスキーを設定し、部長が簡単に取り出せないようにした。
「と言うか部長、せめて7.62ミリ60発前後にしてくだはい。ベオウルフも12.7ミリも高いんよ!! なんぼやと思うか!? 12.7ミリは時と場合によるけど1発500円近うするんよ!! つまり20発パック1万円! ダンジョン投入コストもグラム単価的にこれまた1万円! たった20発で2万円の弾丸でっせ!?」
幼い頃関西で育った事で、関西弁が身についたらしいが、本場の人間からはエセ関西弁と言われたことが今ではすっかり持ちネタとなった、男子の『関西』が部長の金遣いの荒さを問題視する。
そして、冒険部全員が標準的に持っている薙刀、それも部長が使っている奴を取り出して「薙刀を使うんだ!」と部長に迫る。
部長は使っていると反論した上で、50口径の方が簡単確実で最高に気分が良いと言い切る。
「そして、なにより!! 50口径を山ほどぶちかまして倒せないモンスターなんて『第1階層』には存在しない! つまりは安全確実!! みんなの安全確保を考えなければいけない部長としては最良の選択肢! そして、私が最高に! ハイになる!!」
「「「弾薬費で破産する馬鹿にはなりたくないんだけど!?」」」
毎年数百人単位で現れる、重火器でTUEEEEEEEしたあげく破産宣告を受けなきゃ死ぬ馬鹿の群れはもはやTVカメラも見向きもしない。
「気持ちはわかるけど、このままだといけないよね」 「いちちゃん!」
「やめろ、いちちゃん。部長に変なことを吹き込むな」 「ちょっと、私の扱いひどくない!? 私一応部長なんだけど!?」
「でも、先代の部長だって、似たようなものだったし……」
「「「…………」」」
女子部員のいちちゃんと皆から呼ばれている女の子は一つの提案をする。
「新入生が少しでも興味を持ってくれるように、配信したらどうでしょう?」 「今更配信者になれって? すぐに埋もれると思うけど」
「でも、『第2階層』の公海で活動する配信者ってほとんどいないじゃないですか! 私ら先輩たちがいたころはやってましたよね!」
「先輩たちが抜けた今、俺ら『第1階層』の近場EEZでしか活動してないけど……」
いちちゃんの提案を考えながら、部員たちは頭を悩ませる。
この場にいるのは『部長』『いちちゃん』『関西』『オキタ』の4人。先輩達、3年が抜けて1年生がいない以上これが全員。
「いや、部長はまずこの間使った12.7ミリの補填を考えてください」 「そうですよ。リースした無反動砲も1発使っちゃって……」
「ねちねちと延々と……お、オキタだって! 拳銃撃ちまくってたじゃん!! 大体、緊急時用の無反動砲なんだから使っていいでしょ!」
「「「いや部長、普通にあれ、倒せてましたよね。使いたかっただけですよね」」」
「あと部長。ミーが使った拳銃のbulletはもう補充してます。まだなの部長ですよ」
この後も弾薬費についてお説教が続きながらも1年生や外部アピールもかねてとりあえず動画配信をしてみる事だけが決まることになる。
「あっ、部長、撮影用のカメラドローンとか、編集用A.I.の『自主規制くん』の購入費、部長が出してくださいよ」
「えっ!?」 「だって、部長の弾薬費で部費なんてゼロなんですよ? そして」
そういって3人組は全員自分たちの財布を取り出し、中身が空っぽである事を見せつける。
部長もまた対抗して、自分の財布の中身を取り出す。当然中身は空っぽだ。赤字の部費を補填しようと自腹を切ること、数えきれず。
そして、改めて校内新聞の記事を見る。
『ダンジョン探索で、1千万円を稼ぐ!』
4人組は改めて自分たちの財布を見て、一斉にため息をつく。千円札はおろか百円玉にも困る財布。マネーカードがいくらか入っているが、それらの殆どが残高のなさを表記している。
カメラドローンはとりあえず、先輩に泣き付いて冒険部名義でリースしてもらい、今時のダンジョン配信必須の『自主規制くん』をサブスク利用に登録する。ちょうどキャンペーン中で1ヶ月無料だった。
ダンジョン入場料用のマネーカードだけ死守している彼らとしてはもはやダンジョン1回入場で稼げるだけ稼がねばならない。