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咲坂高校冒険部活動報告書  作者: ホエール
第3章「切歯扼腕しか感じないクソ野郎達」
18/30

第3章 3.


   3.

 アルミサッシの窓に薄い壁、当たり前の様についている防犯用の窓の柵(意味があるのか?)に一軒家の庭の倉庫の屋根そのものな屋根の建物。

2階建てプレハブ建設だった。それは1キログラム100万円かかると言われるロケット発射よりは安いと言われるダンジョン投入コストを考えると真面目に金のかかった建設物だった。




「証拠品として押収させていただきます」  「……どうぞ」

プレハブの中とは言え、仮にも場所はダンジョンと呼ばれている場所で、いかにもなオフィス机に椅子が並ぶ空間はある種異質であった。

書類棚に並べられた紙媒体のファイルを次々と段ボールに入れて、PC端末なども押収していく。

そうしている間に、麻取の人はなにやら奇妙な棒のような装置を使って地面を叩いている。


『長谷川』は目の前の出退勤記録を見る。ダンジョンに事業所を設置して、長期出張の名目で住み込みさせる行為は結構多い。

尤も本当に長期出張扱いで良いのかどうかについては、税務処理の観点から色々な議論が発生しているが、

それはわきに置いて、記録上労働基準法を守っているように見える。

だが、いかにアバターと言っても見える従業員達は明らかに疲弊した顔を見せているし、そもそも長期出張と称して住み込みさせているのだから、何処までこの記録を信じて良いかは『長谷川』達の報告待ちで、ふんぞり返ってるはげ頭の上司達でさえ疑ってかかる。

だとすれば、必要なのは従業員からの聞き取り。可能ならば健康診断などのデータの取得。他にも様々な資料を集めて証拠固め。


「「「――っ!」」」  「えっ? えっ?」

新人が戸惑う。現場になれた労基、国税の役人達や嘱託職員達が一斉に手を止めて武器を構え始める。空気が変わったのを感知したのだ。


「見つけた」

麻取が、地下探査センサーでついに目的の地下空間を探知したのと、武器を構えた嘱託職員の一人が窓際に走ったのはほぼ同時であった。

勢いよく窓を割って飛び込んでくるのは手榴弾。甲子園球児のようなフルスイングで窓際を走る嘱託職員が撃ち返す。

プレハブの外で起爆する手榴弾!


「ご、強盗だ! きっと強盗です! 逃げましょうよ! 皆さん!!」

へらへらした顔で叫ぶのはこの事業所の自称代表。

だが、誰もが知っている。用心棒の傭兵が事前の手はず通りに証拠隠滅をしに来ただけだと。

ブラック企業サイドも撃たれるので、自分たちは被害者ですと、本気で訴えるその手を。


「っち、火を付けたか」

プレハブの一角が燃え始める。所詮はプレハブだ。放火してしまえば色々な物が燃え落ちる。

そもそも人間とは、火のなかで生きられる様な生き物では無い。アバター機能で守られていると言っても脳や心臓にあたる破壊されるか、

出血多量に相当する蓄積ダメージで破壊される代物だ。

つまり、限度がある。だから、1人の嘱託職員がドアや扉では無く、壁を破った時、他の嘱託職員もまた、屋根や壁を破って脱出するのだ。


「えっ、えっ!?」  「新人こっちにこい!」

『長谷川』は新人こと『川上』の首根っこをつかんで、破られた壁の一枚を飛び出す。

本来の出入り口、その方面には明らかに重火器が控えていた。いつの間にか、重機関銃がわかりやすく狙っていた。

その重機関銃構えた奴と嘱託職員として招集された冒険者が抜いた日本刀や鉈で双方つばぜり合いをしている。

そして、そのすぐ横で敵が槍を振り回し、それに銃剣を取り付けた旧日本軍復刻ライフル(ただしセミオート)で立ち向かうこちら側の人物の姿が見える。


「敵の傭兵はたぶん10人近くいる! じゃなきゃ、重機関銃なんて持ち出さねえ! くそっ、想像以上にどす黒いことでもやってんのか、こいつら」

たかが、中小企業にしては雇えた戦力が大きすぎる。経済力的な意味で何か裏があるとでも考えた方がいいだろう。

それとも純粋な『何かの都合』か? どちらにせよ、長谷川は証拠を隠滅されないようにしなければならない。

新人と証拠を詰めた段ボール箱を同時に守るために彼自身も腰に差したレイピアを抜く。

『現代化刀剣類』。元をたどっていくとダンジョンとは別の起源なのだが、ダンジョンのあるこの時代に尤も需要の高い武器の一つだ。

最新の科学技術で特殊加工やギミックが装着された刀剣類は、例えば高振動によって物体を切り裂く機能がついていたり、

瞬間的なブースター加速によって超高速で相手に振り下ろす補助をするなんて機能がついていたりしている。

ちなみにバッテリーが切れると重たい。


「新人、いや、『川上』、ぼさっと突っ立ってないで、おまえも武器……いや、走れるようにしておけ!!」

長谷川のレイピアの機能は、刀身からプラズマの炎が吹き出すこと。稼働時間は短いが、最大で10メートルまで伸ばすことが出来るので、遠距離攻撃も可能。

スイッチをオン。オレンジ色の光が刀身から吹き出し、レイピアからプラズマのブレードが形成されていく。熱プラズマの廃熱が空気を揺らす。


「段ボールを持ってろ。俺がいけって言ったら走ってこの場を離れろ。とりあえず村入口で合流だ」

「ええっ!? む、無理ですよ! 『長谷川』さん!」

「撃たれてもしなねーけど、普通に痛いから、痛い思いしたくなけりゃ、頑張って逃げろ」

「うぇっ!?」

『川上』は無茶言うなと思うが、『長谷川』はプラズマブレードを伸ばしたレイピアで切り込みをかける。

労基の職員がレイピアもって突撃すると言う謎の現場。麻痺しそうだが、そもそも襲われる事自体がおかしいのだ。

労働環境の確認に来ただけで、銃撃戦や本物のチャンバラに巻き込まれるって明らかにおかしい事だろ。覚悟を決めて段ボールを抱え込む。

絶対帰ったら辞表を書くのだという堅い決意とともに、走り出す。


「あの、馬鹿っ!」

『長谷川』はまだ合図を出していない! 「いけ」と指示を出していない!

すかさず、レイピアを振り回して、一番近くの敵に向かって走って、すぐにその場を跳んで方向転換。直後、『ドイツ製:7.62ミリ狙撃銃』の一撃が先ほどまで自分がいた場所に。


「クソが」

姿の見える敵だけじゃ無い。狙撃手(スナイパー)までいるこの環境。しかし、『長谷川』は悪態を一つだけ。そのままレイピアのプラズマの刀身を飛ばす。

スナイパーの方向へ! オレンジの光が鍾乳洞染みた天井を焼きながら、スナイパーが隠れ潜んでいた、小さな岩陰に迫る。


「クソがっ!」

だが、その試みは失敗したと、『長谷川』は確信せざる得なかった。自分の頬を走る鈍い痛み。銃弾が走った。

敵スナイパーは意にも介さず、こちらを標的に見続けている。だから、プランBを発動させた。

すなわち、『閃光音響手榴弾(スタングレネード)』を味方にも伝えず使用するというある種迷惑な事を。

閃光と高周波の大音響が多数の人間の脳みそを揺らす。


(なんなんだよ! ここはせんそうかよ!)

内心の絶叫。『川上』渾身の心の叫び。

そんな彼に迫る一撃――ロケット弾――プラズマのビーム刀身が焼き切る!! そして爆発。

『長谷川』のレイピアから放出されたプラズマは遠心力で伸びて、刀身というより鞭のようにしなり、改めて1人の敵を両断する。

けれど、両断された敵は慌てない。即死ではない。ゆえに分かれた下半身と上半身という状態なのに、銃口を『長谷川』に向けて反撃。

9ミリの弾丸が『長谷川』のレイピアを構える右腕に吸い込まれるように命中する。そして、上半身の敵は横から援護射撃してきた麻取の女性の射撃で完全に沈黙させられる。


(いかん、撃たれた、次、防ぐのは、むずい)

『長谷川』は焦る。9ミリの銃弾を右腕に打ち込まれたことで、この状況をほくそ笑んでいる『狙撃手スナイパー』に干渉できない! そんな暇がない!!

長谷川の後方から足音。新社会人向けに売られているような春のスーツを身に着けた青年。

ただし、その青年の両手はスーツと比べて絶対大金がかかっていると確信できる革のグローブと日本刀と脇差の二刀流。

『国税庁』の嘱託職員。腕の腕章が彼の所属を示していた。そんな彼が脇差を軽く投げる。投げられた脇差は『ドイツ製:7.62ミリ狙撃銃』のスナイパーの首筋に落下した。


「大丈夫ですか?」

脇差を握っていたはずの左手に今度は『アメリカ製:9ミリ拳銃』を持った二刀流スタイルの国税の職員に助けられた。


「が、」

スナイパーは自分が投げた脇差程度に攻撃されたことに気づいて、一瞬の驚愕。落下した脇差は見事に首に突き立てられて、スナイパーの首を地面に縫い合わせている。

状況に気づいたスナイパーはすぐに反撃に出た。『ドイツ製:7.62ミリ狙撃銃』を手放し、周囲に張り巡らせていたクレイモア地雷の一斉起爆スイッチ。

接近拒否の攻撃。そして出来上がった隙で首を地面につなぎとめている脇差を引き抜こうとして9ミリの銃弾を脳天に撃ち抜かれる。

国税職員の拳銃だった。自分の脇差を取りに来たのだ。


「あらかた鎮圧しましたけど、資料の一部が失われましたね」  「こいつら……自分のところの新人を迎えに行ってきますので、ここお願いします」

「わかりました」

『国税庁監察官執行補佐嘱託職員』と書かれた身分証を首から提げ、『国税』の腕章を持つ青年にこの場所を任せる。

『長谷川』はここから離れた『川上』のもとへ。盗賊と称する傭兵どもを捕縛していく他の職員たちを見ながら、『川上』を探す。


一斉にスマホやその他情報端末がけたたましく鳴り響く。

モンスター発生警報。


「くそっ、こんな時に!」

空気がよどむ。人がいつの間にか増えている。よくよく見るとそれは、自分にそっくり。

ドッペルゲンガー

笑う自分。いや、自分の顔。ドッペルゲンガーが笑うと自分の顔も笑う。表情を奪われる。


「さいあ『くだ、川上! こい!』」

声を奪われた。まだ、身体の自由が効くウチにさっさと撃破しなければならない。

レイピアでは無く、腰から下げてた『アメリカ製:アンダーバレル式散弾銃』。とにかく速度を重視。


「はせがわさぁああんっ!!」

川上。川上が、『長谷川』に呼ばれた声を聞いて、やってくる。奪われた声で呼ばれて。


(巻き込む――!)

――引き金を引く。

発砲。発砲。発砲。発砲。


「はせがわサァァン!」

川上が、叫びながら、倒れていく。撃たれたからだ。『長谷川』のドッペルゲンガーと川上、ともに撃たれた。遠慮無く4発も撃ち込まれて。


「鳴き声かよ、新人とはいえ、さほど時間がたってねえ、あいつが大事な資料の段ボールを持って移動しないはずが無いだろ!!」

『長谷川』と『川上』のドッペルゲンガーが崩れていく。天井に向かって砂が落ちる。地面に落ちていく場面の逆再生のようだ。

レイピアだと破壊時間がかかったかも知れない。だから、大慌てで、散弾銃を使用して潰した。5発マガジンのうち4発も使ってしまった。



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