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咲坂高校冒険部活動報告書  作者: ホエール
第3章「切歯扼腕しか感じないクソ野郎達」
17/30

第3章 2.


   2.

 ダンジョンとは、通称だ。小難しいSF見たいな理屈が並ぶが、結局は異世界にいって資源を採掘する技術で説明がついてしまう。

なのに、ダンジョンという単語が使われるのは『第1階層(レベル1)』がいかにもな地下迷宮、地下洞窟だからだ。そして、現れる無数のモンスター。

まさに、フィクションで描かれてきた『ダンジョン』という存在そのものだ。


所定の場所に到着し、集団で取り囲む。が、そこで行政連合は動かない。


「『長谷川』さん……どうして、今すぐ行かないんですか? 見てるだけでこうしてても仕事は終わりませんよ」

「そうやって、用心棒に撃たれても俺は助ける暇ないぞ」  「はっ!?」

用心棒という単語にはてなマークが出て売る『川上』を自分の若い時のようだと勝手に生暖かい目で見ている『長谷川』は説明を続ける、曰く


「ブラック企業だって、自分たちがやらかしている側だって、わかっているんだよ。だから、こういう所に入ったら、何故か都合良く、謎の傭兵部隊が攻撃を仕掛けてきて、ブラック企業の従業員も証拠も全部吹っ飛ばしていくんだ。

企業側の偉い人は、強盗にあったから自分たちは被害者だ。ところで、自分たちが違法行為を行っている証拠はあるんですか? ってよ」

新人――『川上』のこと――はダンジョンが予想以上の無法地帯であることを改めて実感して、震え出す。

日本国内にこんな危険な場所があって、なのに皆気にせず、一攫千金を夢見て飛び込んでいく。命の危険は無い。

だが、命の危険が無いだけと言うのをやっと理解する。どれだけ恐ろしいモンスターがうろついていても人の欲望の方が恐ろしく感じる。


「だから、協力者とこういうときに用に雇った嘱託職員が必要になる。嘱託職員って言っても『傭兵企業』から派遣されたダンジョン傭兵だけどな」

『長谷川』曰く、協力者は自分たちと同じ公僕だと言う。尤も警察では無い。警察は忙しくてこういう現場に人を派遣している暇は無い。

必要になったら呼ぶと言う対処がいつの間にか出来ていると。ただし、警察だって、人手不足だ。実際に駆けつけるのは警察の嘱託職員か警察と契約を交わしている『傭兵企業』の部隊が駆けつけるのが一般的だ。


「場合によっては、どこぞの企業の無人兵器部隊が駆けつけてくるってパターンもあるぞ!」

「無人兵器部隊?」  「つっても武装したドローンや武装した大型ラジコンカー的な物だけどな。本格的なものは自衛隊とかそういうとこしか使わないよ」

「でもここでいう武装っていうと……」  「セミオート散弾銃と手榴弾が2~3発載せられてる奴だ。お蔭でこいつらの物量戦されると大赤字」

「うわぁ……素直に刀とか弓矢でどうにか出来るならやりたいっすね」  「『現代化刀剣類』って便利な武器があるんだから、みんなそっちを使うよな」


Tips:『大赤字』……銃弾は消耗品。物にもよるが1発100円する。これに投入コストが加算されて、例えば12.7ミリ(50口径)の場合20発で2万円以上かかる。

これを大盤振る舞いすれば……という奴だ。

Tips:『現代化刀剣類』……元をたどれば、軍事用パワードスーツ、インファイトフレームの装甲を安い手段で突破する方法の一つとして考えられた。

まぁ、普通に考えれば珍兵器に分類されるだろうが、ダンジョンという存在にとって、最良の武器となった。銃弾と比べると消耗しない!! 費用が掛からない!


「といっても『現代化刀剣類』だって、維持費やバッテリーの充電は必要だから、ちゃんとメンテナンスチェックは必要だし、そもそもちゃんと使えなきゃ意味がない。

結局刀は、人間が振り回さないと何の役にも立たない。引き金を引けばとりあえず弾が出る銃よりその意味では大変手間がかかる武器さ。

だから研修は大事だ。『川上』、いざって時は自衛しろよ、フォローはしてやるから」

「は、はぁ……」

『長谷川』から見て、新人の『川上』はいまいち容量を得ない男だ。まぁ、公務員試験に落ちて非正規職員としてうちに滑り込んだという経歴から少しネガティブモードなのだろう。

とはいえ、いつまでも面倒は見られない。というか非正規職員である以上、1~2年で彼はいなくなる。

どこぞの公務員試験に受かるか、或いはあきらめて民間に行くか、それとも、改めて正規任用されて別部署に行くかである。


「まっ、ルールを守ってお前さんのしたいことをするといい。ただし、最低限の努力はしなきゃ、したいことも満足に出来ない世の中だからな。そこは何処も変わらないって」

かくして、移動するだけでも苦労しながら彼らはたどり着く。『代々木ダンジョン村』に。目的地はさらにその『東部地区』。




「危険なモンスターとの戦いとかは配信者とかが配信してくれますから、なんとなくわかってましたけど、ここって怪物より人間の方が恐ろしい場所では?」

右見ても左見ても武器を持った人間だらけ。日本で普通に暮らしていたら絶対にない非日常空間。

そこらじゅうの人間がライフルを背負い、日本刀を腰に差し、中には無反動砲だの槍だのそんなものを持っていたりする。

一見侍っぽい恰好をしたポニーテール美少女が、その背中に無反動砲を持っているのを見ると人が一番恐ろしく感じるものだ。


「『第1階層(レベル1)』の『国内』だからな。モンスターよりまだ人間の悪意の方が怖い。その代わり公海の座標レイヤーだとわかりやすい人間と怪物の暴力の世界だよ。

言うほど悪意は無い。暴力が山ほどあるだけだ」

「いや、普通の人は暴力が山ほどの時点で引くと思います」  「死なないから、仕方ないんじゃ無い? ゲーム気分だ」

『長谷川』の言葉に新人の『川上』は首を横に振る。とてもそうは思わない。だが、それは自分が初めてここに来るからだろうか? とも感じる。

『長谷川』はスマホで、何かの動画を見ている。ダンジョン系の配信者の動画らしい。まだ時間があるからと暇つぶしを勝手に始めたらしい。


「マジかよ、こいつら~」

笑いながら、その動画を見ている『長谷川』。川上は慣れからの余裕の態度か、それとも何かの現実逃避なのか判別がつかず、だが、仮にも現場のベテランの態度に彼のそばに近寄る。

その動画は、なにやら4人組の学生らしい人たちがモンスターと戦う瞬間を映した物だった。

以前だと面白半分に笑って見れた動画だが、今見ると、こんな悪意と暴力だらけの空間で好きに動ける彼らはねじの外れたアウトローに見える。


「『長谷川』さんは怖くないんですか、こんな場所。人がいて良い所には思えないんですが」

「……ぁ? 知るかよ。ダンジョンからとれる資源で、もうじき重力操作だの末期ガンを1日で直す最新技術だのを実用化してくれそうって時代だぜ。

そもそもレアメタルやレアアースを掘り出すためにコストのかかる汚染防止、汚染除去なんてこっちじゃ、必要最低限で良いってノリで皆やってんだ。まともな人が住んでないんだから」

『長谷川』の論理は企業の暴論だ。そして、この場所に興味を示さない一般消費者の論理だ。困ったことに『川上』も言われるまで気づいていなかった。


「というわけで、今更ここを手放すことなんて無理って物だぜ。今じゃ、大手企業が自分たち用のダイビングスポットを作ろうと躍起になってるし、そのうち投入コストも下がっていくんじゃね? 

今だと、服も含めて体重40キロあれば、20万はかかるし。そうなりゃ、こっちに来る人間はもっと増えるだろうよ」

(イカれてる……)

ダンジョン初心者『川上』はそう思わずにはいられない。ディープ・フロンティアという技術の恩恵を世界は受けている。

ダンジョンという名の『ディープ・フロンティアスペース』がもたらす利益利権技術に世界は首ったけだ。そんな2人の前に徐々に人が集まり始める。

一見すると典型的な普通の冒険者の格好。すなわち、ホームセンターで売られている防具を身につけ、ライフルを背負ってそれとは別に日本刀だの槍だのを持っている人々だ。


「ちなみに、緊急用にライフルを背負って、刀で戦うスタイルが現代ダンジョンのスタンダード。と言っても弾薬費が高いからライフルを使う奴は結局少ない。

だから、ここみたいに人の目が多い場所で、銃火器を背負った連中なんて基本的に無視しろ。実際に人に向けて撃つ奴はこんなところにほぼいないよ」

逆に言えば人の目が少ない場所では銃口を人に向ける奴がいると示唆する発言に、やっぱりここはまともな人間が来るべき場所ではなかったと『川上』は確信した。

麻薬取締官の腕章を持つ厚生労働省傘下組織の役人の美女が対物ライフルだの対戦車ミサイルだのを取り出しているのを見て、余計にその念を強くする。


「……そういえば、大麻って、凄いにおいがするし、栽培には電気代がすごくかかるのでバレるって聞くんですけど、ダンジョン内部でその辺大丈夫なんですか?」

『長谷川』に対して聞いた言葉は、


「ダンジョン素材をそのまま運用すればいいんです。適当な従業員に頑張らせれば原価ゼロですし、本当は精製や加工が必須ですが、

とりあえずその性質を利用するだけなら比較的簡単なんです」

麻薬取締官の美女のセリフとして帰ってきた。


「実際、スライムを生きたまま冷媒として活用する方法が編み出されているから、エアコンを使わずに低温を維持させる事は十分可能ですよ。

スライムの捕獲や管理に従業員を無理させても、どうせ死なないので。アバターですから」

職場のベテラン、『長谷川』からダンジョンの悪意を教えられたと思ったら、あくまでも協力者にすぎない麻取の人にさらなる邪悪を教えられた。

麻薬はダンジョン内部で作って消費するから、製造者は持ち出しコストを考えずにすむ。そして、従業員と言う普通の人間達を法律の庇護から……解放してしまう。

こうして、後に残るのはタダの奴隷が1人と黒幕の懐の膨らみ。ある種完璧かもしれない。構図。協力者はまだ増える。次の協力者は国税庁を名乗った。


「ダンジョン内部で現金のやり取りをすると、追跡が難しくなるんですよ。おかげで脱税の方法としてダンジョンを活用する輩が昨今の多いこと。

暗号資産のデータメモリをやり取りするパターンも多く、どれだけのダークマネーが処理されているでしょうね。ここは天然のタックスヘイブンですよ。それも極めて悪質な」


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