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咲坂高校冒険部活動報告書  作者: ホエール
第2章「露往霜来と増えるな顔のシワ」
13/30

第2章 5.


  5.

 外では轟音が聞こえる。剣戟と銃撃の音が鳴り響き、それとは別に地響きが天井を揺らす。

地下に埋めたコンテナハウスで出来た地下室、セーフハウスにこっそりと隠れているその男は、警察が捜しているマルタイ、いや被疑者であった。

もとより、お行儀の良い人物とはとても言えない男のアバターはダークスーツを羽織る筋肉達磨と言った出で立ちである。

一応、ダンジョンでの活動経験もある。と言うか、秘密の密談やその他諸々に利用するのにダンジョンはお金の問題さえ見なければ都合が良い。

何処の国もダンジョンの内部は自国の領土区画であっても管理出来ていない。日本なら日本列島が3個増えたし、 領海やEEZも含めて考えればどれだけ広くなったか。

日本は、世界第6位の領海がある地味に巨大な国だ。そんな国がある日から4倍になったのだから、管理するマンパワーが完全に足りていない。

が、日本に限った話では無く、アメリカ内陸は西部劇、中国は三国志。 もしも今世界で一番平和な国とやらがあったら、それはシーランド公国とはよく知られたジョークだ。


「何時になったら、出発出来るので?」

いらだちが混じった声。けれども、顔はわずかにほほえんでいる。

お行儀が悪い態度と違って、顔立ちはさわやかイケメンという奴だし、こうしてダークスーツに身を包んだ正面姿だけだと筋肉達磨なのも一つの個性に見えてくる。


「申し訳ゴザいませン。『本社』より、増援とここデ合流するはズでしたガ、遠からズ日本官警にここは暴かれてしまうデしょう。ドローンデ遠慮無く爆撃しているのデ、こちらの行動ガ封ジられています」

男女の傭兵2人組。フリーの産業スパイとして活躍し、ダンジョン利用で情報取引をしてた被疑者にとって、お得意様が用意した護衛部隊はイマイチ気が利かない奴らばかりだ。

だが、いい加減日本警察に目を付けられ、後先が無い彼には切り札となる『機密情報』を元手に海外脱出を図るのは当然のことと言える。おまけに『機密情報』は一つでは無い。

『機密情報』以外の切り札となり得る『脅迫材料』だって豊富に持っている。

海外から体勢を整え、産業スパイ業種を再開することだって十分出来るだろう。


「……やれやれ、ここの女どものせいでこの騒ぎですよ。ここの女どもが騒いでなければ、今頃ここからさっさと進めたのに」

男女に限らず自分のような選ばれた男のために使われるのが、無能な特に女の喜びである。彼は心より、本気で、そう思っていた。

だと、言うのに、ここの無能ども……『女子寮』とか言うカスどもが大暴れしているせいでこそこそしなければならない。全く以て不条理である!!


「たかが、取材行動一つに警察がうるさいですな。おかげでこの有様だ」

彼の名刺には次の単語が並んでいる。『ジャーナリスト』だの『雑誌記者』だの『カメラマン』だの。

実際、彼の鞄の中にはカメラや取材ノートが常備されているし、過去には記者として書いた記事が載ったこともある。


「私は単に取材をしているだけ。少しばかり過激な手を使ったかもしれませんが、権力の監視の為には致し方ないでしょう。権力とは圧倒的に強き存在ですからねぇ」

そうは思わないか? と聞く男に護衛の男性傭兵だけが、「そうかもしれませンね」と答える。

日本語が出来る彼ら、すなわち外国人にとっても正直この男の護衛は何か思う所があるのか、女性は常に口を閉ざしたままだ。


「『本社』の増援ガ近いそうデす。もう少しここに潜伏することをおすすめしますガ、日本官警も反応して、合流ガ大変になるかもしれませン。

今のうちに討って出ると言う選択肢もありそうデすガ、いかガいたします?」

「何? 何故それを早く言わないのです? やれやれ、これだから……暴力しか能の無い人は困る。それで、討って出たメリットとデメリットを答えなさい」

「討って出れバ、日本官警との衝突になります。負けるつもりはありませンガ、こちらにも被害は出ます。

被害ガ出れバ出た分ダけあなたを守る盾ガ減ります。たダし出なくても『本社』の増援と日本官警は衝突することに なり、合流ガ大変な事になります」

「それはダメだ。私を守る肉壁が薄くなるのは論外。……だが、どちらも肉壁が薄くならざる得ないと言うわけですね?」  「はい」

少しばかり考え、結論を出す。即断即決慎重冷静。それが彼のモットーだ。


「多少のリスクは飲み込まなければ、成功しません。多少のリスクは飲み込まなければ役得も味わえない。

撃って出ましょう。ですが、私はこの辺素人なので、最良のタイミングをお願いしますよ」

「で、あれバ……」

傭兵達の雰囲気が変わる。


「10秒後ガいいデす」

外から、剣戟の金属音。そして、銃声。

突如頭上より、轟音が響き渡る。コンテナハウスを地下に埋めた地下室。 コンテナハウスの無骨さを隠すためか、現代アート染みた奇妙な柄が描かれたその天井が揺れる。


「間違っていました。6秒後デした」

地下室の扉が開かれる。だが、開いた無礼な女に撃ち込まれるのはライフル弾。

護衛に派遣された6人の傭兵のうち4人がいるその地下室より、傭兵2人組が射殺した女が光の粒となっていくのを横目に部屋の外へと走り出す。

彼らが持っているのは、『アメリカ製:81年式携帯式地対空ミサイル(携帯SAM)』。地下より地上にでて、まず真っ先にするべき事はただ一つ。

空を、天井近くを飛んでいる県警のドローンをたたき落とす事だ。




『――クソが!! 携帯SAM!! 高級品を振り回す、ヤバイバカがいるぞ! アメリカさんがダンジョンにかこつけてライセンスごとばらまくから!!』

『マスドロ』の怒りの発言は、外部に漏れたら問題になるかもしれない。

だが、『村井』にとっても『加西』にとっても或いは他の刑事達や県警嘱託職員達にとっては状況の悪化を意味していた。

ミリタリーグレード、いわゆる軍用大型ドローンが携帯式SAMによってたたき落とされた。


「警察に敵対的な、冒険者、探検家、もしくは傭兵が存在するとみて間違いないか!?」

インカムに噛みつくように問いただす、『村井』に対して応答はただ一つ。器物損壊と公務執行妨害で確保せよ。


「む、村井先輩つまりこれは――」  「――被疑者、もしくは犯罪組織の傭兵が先走った。或いはここを突破しようとしている!」

警察用のタブレット端末をのぞき込む。軍用大型ドローン(ミリタリーグレード)の撃墜ポイントが表記されている。

また、撃墜直前のカメラ映像が流れている。 『アメリカ製:81年式携帯式SAM』が迫る一瞬が編集用A.I.によりオートで切り抜かれている。


『――傭兵です! 明らかに大陸系の傭兵らしき一団を確認しました! これからは特注品の支援が無いので、注意されたし。 新たなマルタイは大陸系傭兵と思われる!』

マスドロが操るドローンは一つでは無い。 だが、警察が切り札として持ち込んみ運用していたミリタリーグレードが使用不可になった以上、民生品を警察用に改造した奴しかない。


「村井先輩! 結局私たちどうすればいいんです!?」

後輩加西の言葉に、村井は一度その場に立ち止まる。村井とは別に赤井や春日の警備隊長さんたちは自分たちのスマホやタブレット端末片手にあちらこちらと通話している。


「被疑者がここに隠れている恐れが強く、『女子寮』は被疑者がここに潜伏している前提で暴れ始めた。

県警の嘱託職員をメインにする人員は『女子寮』を公妨で対応する事にした。 そして、謎の傭兵ども、恐らく被疑者の護衛に攻撃を受けた。

『女子寮』より先に被疑者を確保しなきゃいけない。けれど、そもそも被疑者がいる確証は無い」

村井が状況を自分の言葉で整理しはじめる。彼女の癖だ。一度立ち止まり、口に出して、言葉にして情報を整理する。


「村井先輩、なら私たちがするべきなのは、いっそ増援や協力者を確保することでは?」

「こんな事にならなければ『女子寮』がその協力者候補の一つだったのよ! 

『春日の隊長さん』や『赤井』さんの手を借りて、少しずつ包囲網を形成して人の流れを制御するはずだった!」

2人組の女性刑事にとって、もはや自分たちで状況を押さえ込むには話が大きくなりすぎた!


「刑事さん達、ちょっといいかしら?」  「『赤井』さん、どうしました?」

「駐留企業達の方だけど、『採掘企業』の『泉屋鉱山』が人を出すって言っているわ。あと、代々木ダンジョン村大学生連絡会の連中がボランティアを申し出ている」

「一般市民の協力ですか? いや、それはちょっと、問題があるんじゃ。『村井先輩』」  

「いいわ、この際、頼りましょう。ただし、ちゃんと県警と連絡を取り合える様にしたうえでお願いしたいです」

「いいんです?」  

「ダンジョンは何でもあり。どのみち警察力じゃ対応不可能。ただし、身分がわかっていない奴らを頼る事は出来ない。『泉屋鉱山』も『大学生連絡会』もその点では安心よ」

仮にも財閥企業に属する『泉屋鉱山』と代々木ダンジョン村に拠点を作った各地の大学生サークルや学生ベンチャーの互助会として、

県警とも繋がりがある『大学生連絡会』はまだ信用できる組織だといえる。

こうして、着々と体勢が整えられていく状況で、4人組がたどりつくのは『代々木ダンジョン村:西部地区』の防衛拠点。

『西部監視塔』。2階建てのプレハブ建築と10メートルの鉄塔からなる文字通り 代々木ダンジョン村の防衛拠点の一つであり、主に西部地区の統括を行っている場所だ。

『代々木ダンジョン村』にて、『防衛区画』の運営担当を受注している『傭兵企業』の『西洋テクニカル』の5号警備員たちが走り回っている。


「赤井さん、おまちしておりました」

西部監視塔の指揮官が鉄塔先端に取り付けられたゴンドラより、飛び降りる。

『加西』は一瞬飛び降りと身構えたが、何の問題なく着地したのをみて、ダンジョンだったと思い出し、ここに慣れたら通常業務に 支障が出ると考え出す。

プレハブ建築の一室に入り、ここでは無数のPCが並び、プロジェクターが現在の状況を示していた。

各所に張り巡らせたセンサーや監視カメラ映像を元にAIが補正を行った物だ。


「代々木ダンジョン村は、東部、西部、そして防衛区画の3つの地区から成り立ち、ちょっとした城塞都市になっています。『通常の現実世界(レベル0)』だと山の古城跡地の座標に建てられた、テント村を出発点とし、 今では山を取り囲むように出来上がっています。

西部はこの大通りから右半分が居住区、左半分が浄水設備や発電機、建築資材置き場の産業区になっています。大雑把ではありますし、必ず居住区に寝泊まりしなければならないと言う道理も無いため、 産業区にも無数のテントが張ってあり、人が寝泊まりしていますけど、少なくとも居住区には、貸しテントや民泊と称するコンテナハウスが並んでいます。

で、問題となっている『女子寮』は居住区の隅の方にあり、 2棟の2階建てプレハブ建築とそれを取り囲むフェンスやブロック塀に守られた空間となっており、ここには常時30名の『戦闘員』が待機しています」

西部監視塔の指揮官まず、基本となる情報を説明する。『加西』以外には新しい情報でもないので、事実上ここに初めて訪れる『加西』への説明会のようなものだ。


「この30名の戦闘員は、必要とあれば、20人が出撃することになっており、10名は『女子寮』の防衛と、非番の戦闘員達を集合させるために残ると。

今回もご多忙に盛れず20名の戦闘員の出撃を確認していまして、県警の嘱託職員の方々は2手に別れ、AポイントとここのDポイントの銅像前で交戦中となります。

それとは別に、Dポイント近隣で恐らくは大陸系の傭兵だと思われる一団が『女子寮』との交戦状態に入っており、はっきりって不利な状況に陥っているようです。

何しろ『女子寮』は県警と傭兵の二正面作戦ですからね。何をやっているのやら」

その表情はあきれているのか、それとも諦観か。『監視塔』の指揮官は小さなため息を一つついて、再び口を開く。


「県警のミリタリーグレードが携帯式SAMで撃ち落とされた。この傭兵の一団が行ったとみて?」   「問題なく。様子を見に行ったウチらも無反動砲を遠慮無く撃ち込まれました」

「『監視塔』の戦力は協力可能で?」  

「問題なくと言いたいですが、厳しいですね。昨今は大陸系『採掘企業』がEEZでの違法操業が相次いでおり、 そっちに人員が執られていて……。

あと、『女子寮』が暴れ回っているので数少ない提携先が一つ敵に回りました」

『女子寮』を戦力の当てにしている所は想像以上に多かったという事だ。常時20人の戦力を出撃可能という組織力は侮れなかったという事でもある。


「警察が把握している『女子寮』の戦闘要員は何人です? 言えなかったら別に良いですが――」  

「――60人よ。それ以上にいることもつかんでいるけど、身元が割れてない」

「……我々が確認している数は100人ほどいます。確定情報ではありませんが……」

と、状況の整理とお互いの情報交換が進む状況下、センサーの一つからの反応が消える。そして、警報。

スマホから、或いは目の前の監視塔の設備から。皆の端末から、PCから。ダンジョン関係の警告アプリから何まで全てが警報を放っている。


「村井先輩、なんです? この警報。『妨害警報』って。モンスター発生警報じゃなくて?」  

「くそったれ!! 何処の反社よ!! 警察庁、いえ、公安と境保、内調に自衛隊が出っ張ってくるじゃない!」

「最悪ね。初心者を保護しなくちゃ」  「春日のマニュアルでは、最悪撤収も視野に入れなければなりません」


Tips:『妨害装置』……リ・スポーンの為に、アバターの構成情報を最寄りのダイビングスポットに『強制送還』する。

つまり、ダイビングスポットはリスポン地点となるわけだだが、その『強制送還』を妨害し、装置が指定したダイビングスポットに送る設備。

距離によって、妨害にかかる電力消費が変わるため、太平洋のど真ん中から東京に送ると言うのは難しい。

事前の届けの無い『妨害装置』の設置および稼働は違法である。何故ならば、こういう場合送られるダイビングスポットは、ほぼ間違いなく不法に建造設置された物だから。

事実上の拉致監禁になってしまう。


「先輩、不法のダイビングスポットって事は、つまり……」 

「反社か、外国のマフィアが設置してる奴よ。今の状態で死んでみなさい。外国の不法ダイスポに強制送還されて、どんな目に遭うか知らないよ」

例え、復活を拒否して、しばらくダイビングスポットに納められた構成情報個体になったとしても、強制サルベージされて、

どこぞの外国のヤバイ場所の『通常の現実世界(レベル0)』での回収となるだろう。

そうなった場合、どうなることか。ダンジョンを巡る行方不明と拉致事件の件数は増えている。何処までが本当に行方不明?


「妨害装置を発見して破壊する必要があります。妨害の強さから言って、恐らく西部……ではなく、東部方向」  「最悪。『女子寮』が暴れている場所の真逆」

『――村井!』  「なに?」

インカムよりマスドロからの呼び声。


『――おまえの所から近い所に支援に行ってくれ! 裏から回り込んで確保! 「女子寮」と交戦中の謎の傭兵どもはこちらにSAMを撃ち込んだ奴らの顔とAI解析が一致した!』



『西洋テクニカル』の5号警備員(オペレーター)たちはもちろん、『赤井』に『春日の隊長さん』、そして『加西』とともに、現場に到着したとき

その場所は火災現場のど真ん中に変わり果てた空間になっていた。 負傷した女性達がライフルを単発での使用で銃撃戦の真っ最中。

銃撃相手の敵傭兵達は遠慮無い弾幕を形成し、負傷した『女子寮』組は数発を撃ち返す。負傷もあるが、元々持ち込んでいる弾丸の数が違う。


「お金持ちな傭兵どもだ」

村井は日本刀を引き抜く。『現代化刀剣類』の日本刀はスイッチ一つでその機能を解放する。

尤もバッテリーの消耗が激しいくせにバッテリーが切れると無駄に重たいだけの刃物になるのが困るが。

刀剣類で重火器に挑む意味が現代にあるだろうか? 答えは無い。

どれだけ修練を重ねても、ライフル弾は簡単にコンクリートの塊を粉砕する。 だが、高い技量で刀でコンクリートを切ることは出来ても粉砕するには時間と労力が必要だ。

引き金を引くだけで出来る事が槍や刀、剣や弓矢では出来ない。

けれど、12.7ミリでは手加減は出来ないし、物体を切断することは出来ない。或いは、接近戦をすることは極めて難しい。

乱戦の中、小さな標的めがけて接近射撃で仕留めることはほぼ無理だ。


「でかい企業のひも付きね。この辺でバカすか撃てるほどの大企業なんて数が限られている!」

銃弾を持ち込むコストを考えると、刀剣類の方が安上がりの手段なのも否定不可能だ。

要するに、ダンジョンで強者とは、刀剣類も重火器もどちらも使う奴だ。どちらも使いこなす奴だ。

いくら、こっちが楽だからって言って、弾幕を形成するだけ鞘から剣を抜こうともしない奴らは、金持ちってだけの舐めた奴らだ。

本当のダンジョン金持ちからしたら舐めた奴らだ。


「ワシの家がぁぁああああ――――っ!!」

誰かの叫び声がする。

それは、初代村長が建てた家。このダンジョンの中でアリながら、普通の2階建て一軒家という無駄に金のかかったら家。

周囲を鉄格子で取り囲み、また防衛用のミリタリーグレードドローンが動いている。

そんな初代村長とその奥さんの普通の一軒家というダンジョンでもかなりの大豪邸がロケット弾の着弾に吹き飛んでいく。


「わたくしのおうこくがぁあぁあああ!!」

これまた、どこぞの人の奥さんが叫び声を上げているが、皆無視して武器を取る。

12.7ミリ50口径の銃弾は物にもよるがだいたい1発500円くらいする。でもって1発当たり約115グラムほど。

つまり、20発で2万円近くのダンジョンに持ち込む投入コストがかかる。故に


「虎の子の銃弾をもっていけぇえええ!!」  「ああ、弾丸1発1発が札束にみえるぅううううう!」

泣き叫びながらの銃撃をする男達、女達の群れが戦場にエントリー!

テントや、やっとの思いで建てた小さなプレハブ小屋の持ち主達だ。


「今ね」

『村井』はその瞬間を見逃さない。そんな先輩の後ろ姿を慌てて、刺股片手に追いかける『加西』。

拳銃片手に日本刀を構え、遮蔽物に身を隠しながら接近していく。そして、一閃。後方警戒中の敵傭兵の首を切り落とし、そのまま拳銃ですぐ近くの敵へと発砲する。


「『村井先輩』!?」  「どうせ、『妨害装置』はこいつらのでしょ! 全員を確保するのは諦める!」

開き直り。

9ミリ拳銃弾程度なら、ボディーアーマーでどうにか出来る。故に撃たれている人間は遠慮無くこちらにライフルの銃口を向けてくる。

煩わしい『村井』の拳銃弾に妨害されながら。それだけで十分だった。

高振動ブレードとしての日本刀の突きは遠慮無くボディーアーマーに守られていない右肩脇に刃を突き立て骨ごと貫通する。

そして、『村井』はそのまま低い姿勢に。彼女の頭上をスパークしている刺股が右から左へと流れるように振り回されていく。

『加西』の振り回す刺股は、刺股と言うより、長物の武器として機能していた。


「Naめるなよ、小―ッ―!」

何かを言う前に、そいつの体は宙を舞っていた。サイバー刺股の電撃を浴びながら刃物部分が突き刺さり、『加西』がその塚、すなわち石突き部分を思いっきり足で踏みつける。

『村井』がそんな刺股の柄の部分に自らの肩を差し出す。

てこの原理だ。もはやカタパルトだ、トレブショットだ。刺股より解放された男は電撃のダメージを負ったまま、天井へと。

鍾乳石の様なそれらを折られ、地上に降り注ぎながら、傭兵の身柄が落ちていく。


「『加西』、確保だ!!」  「はっ、はい!」

この現状だ。強制送還目当てに撃破しても逃げられるし、万が一こいつら以外が『妨害装置』を起動させていた場合、こいつらも何処へ行くかわからない。

何人かは手錠かけて確保しておきたい。尤もアバターだ。手錠だけでは拘束具としては不十分すぎるのが厄介だが。

かくして、手錠とは別に全身粘着テープのミイラ男が出来上がった。当然鼻以外の全ての顔の穴を封印している。警察官がして言い振る舞いでは無い。本来なら


「決めたわ、絶対寿退官してみせる」  

「『村井先輩』、いえ、『村井巡査部長』、無理だと思います。あなたは刑事という仕事と結婚しております。だから、後輩に寿退官の可能性を渡してください」

女性刑事2人組のイチャイチャ(意味深)を横目に、『赤井』がピッケル片手に数個のボールベアリングを空中に投げる。

そして、野球バットの容量で、ピッケルでボールベアリングをはじく。

そして、ボールベアリングは変化球の様な動きで複雑な軌道を描き、曲射弾道軌道で仲間の救出に来た傭兵達の頭上より撃ち抜く。

彼女が操るボールベアリングは近距離では45口径の拳銃弾クラスの威力を叩き出す。所詮は拳銃弾と甘く見てはいけない。

自在に曲がる弾道軌道の拳銃弾の乱舞は恐ろしい技術だ。


「全く、刑事さん何時までやってるの? 百合趣味?」  「「違う!」」

『春日の警備隊長』がその後ろで気を失った可哀想な巻き込まれ冒険者達の保護をしているが、女性陣3人組は軽く口論しながら、銃撃戦に参加する。

警察組の2人は拳銃で、赤井はボールベアリングの弾道軌道乱舞で。

そして、敵傭兵達の中から、投げナイフで反撃してきた奴らが現れる。

銃弾と比べてそれらは遅い。だが、一瞬だけ出会ったとしても目で追える!! それがもたらす恐怖感は、多くの人の動きを一瞬止める!


「わ、ぁ!?」

その一瞬だけで良かったのだろう。片手にライフルを、片手にシミターを『野球帽』をかぶったその人物はあっという間に距離を詰めてきてライフルの銃口を。

『村井』は思わずライフルに向けて頭突きを行い、『加西』に向けられた銃撃の矛先をずらす。けれども、相手はその程度でひるまない。

そのまま引き金を引いてライフルの銃声という衝撃波を『村井』の耳に直撃させる。

頭が割れるように痛い。それが目的なのだから当然と言われれば当然。そのまま、ピカニティーレールで『村井』の頬をぶん殴る。そしてシミターが彼女に迫る。

『村井先輩』の状況を『加西』はよくわかっていない。だが、訓練で身に着けた動きを繰り出して、刺股で刃物(シミター)を握る腕をぶん殴る。

電撃が、突起部分が思いっきり腕を変な方向に曲げた挙句突き立て、ぴくぴくと通電反応を起こす。

だが『野球帽』は通電反応を起こしてびくびくと震える左肩を無視して、突き進む。奇妙な動きが左肩に見えた。震えながら、目に見えて関節が外れていく。


「気持ち悪い動きしやがって」

そして、肩が落下する。左腕が地面に落ちて、そこには新たな左腕の生えた『野球帽』が。


「いや、マジでキモっ!!」

『村井』の抜刀。日本刀が野球帽のライフルを握る右手を切りつける。

バッテリーの消耗が激しい切り札を作動。日本刀が治められていたハズの鞘の部分からプラズマ化した一筋の光が放たれる。


「日本官警、おまえ達、どうせ、無駄」  「無駄かどうかはあんたが決めるわけじゃ無い」

一筋の光は『野球帽』の胸を貫き、だが、それでも即死しない。けれどその反動は確かに野球帽の行動を縫い止めた。

一閃。

それだけで十分だった。『野球帽』の両手が地面に落ちる。足首から先が無い。『村井』はワイヤーを取り出し、後はそれで拘束するだけだ。


「……警告しておく。はやく、国に戻ったほう、良いぞ」  「その余裕そうな顔がむかつくわね。で、わざわざ口を開いたって事はなにかあるのかしら?」

「おまえ達はやり過ぎた! この1週間! 被害、おおすぎる! 上は頭に血が上っている! 戦車まで遠慮無く何両も吹き飛ばされて、上から下まで大絶叫だ!!」

「うん?」

なにやら唐突に雲行きが怪しくなってきたと、『村井』は頭を抱える。戦車って何だよ……。投入コストだけで何十億するの? それ。挙げ句の果てに燃料も必要でしょう?

日本の自衛隊でもダンジョンに主力戦車を投入したという話は聞いてない。試験的に2~3両ほど送り込んでいる可能性はあるが、実戦投入した事実は無いだろう。

と言うか、投入コストは何十億円するのだろう? 1キログラム100万円のロケット打ち上げより安いと言われるダンジョンへの投入コストを考えた時、

どう考えても戦車は数十億単位でお金が飛ぶ上にコスパが悪いだろう。

ましてや『第1階層(レベル1)』は鍾乳洞もどきの空間だ。これが、地球サイズに広がっている。本来の通常時空であば、海の底になってる場所だろうと広がっている。

……『第1階層(レベル1)』でこの有様って、やっぱこれを管理しようなんて無理だろと、誰もが心に思っている。けれど、この空間を無視する事は出来ない。


(……仮に戦車を投入しなきゃいけない局面があったとして、さすがにそのレベルだと税金の無駄遣い云々で文句がつくはず……)

理論上、陸路でワシントンDCからモスクワに行ける。モスクワから東京に行ける。東京からシドニーにいける。何処にでも歩いて行ける。

つまり、やり方次第では各国は国境を無視して 敵国首都に直接歩兵師団でも機甲師団でも何だって送り込める。核兵器だって送り込める。

と言うか、すでに違法な密貿易業者があちこちで猛威を振るっている。が、その対処に戦車は色々間違っているだろう。


「若い男女4人組! あんな! バカみたいな! 強さ! 絶対、おまえ達の関係する特殊戦力!」

OKなんか、嫌な予感がすごーくしてきた。


「上は、『アセット』の回収と大規模報復を命令してきた。ここは時期に戦場だ!」

「あーその若い4人組って、男2人、女2人で長物振り回してなかった?」  「やはり、日本官警の関係する特殊戦力」

……県警が把握する我が県有数の冒険者集団を後で締めるとか考えてる『村井』の前に『赤井』がやってきて、『野球帽』の口を閉じさるわぐつをかませ、言葉を封じる。

考えてみれば、今は事情聴取とかそう言う事をやってる暇は無い。


「混乱を治めなきゃいけないけど、もうこれどうするの」

それが『村井』の本音。後輩である『加西』が不安そうな顔をしてこっちを見てくる。

地対空ミサイルまで持ち出してきた存在を白兵戦で捕まえられるほど県警の戦力は大きくは無い。いや、無理すればいけるだろうが『妨害装置』が稼働している。

『死』は絶対の終わりでは無いが、今だと間違いなく悲惨な結末を引き寄せてくる。


「ふぅ。『加西』ぃ」  「はい! なんです、先輩っ!」

「少し、深呼吸しながらラジオ体操でもして考えまとめるから、守ってくれない?」  「は?」

「そんじゃ、よろ~」

そう言って本当に深呼吸から始めた。

先輩流のアンガーマネジメントに『加西』の目が点となっているが、『村井先輩』から言われたとおりとりあえず彼女を守るために武器を構えて、

『赤井』に警戒が甘いと後ろから来た攻撃から守られていた。

壊された建物の壁にはスプレーアートっぽい模様が描かれ、なんかこの場にいる自分がみじめに感じる。イライラしてくる。

全部被疑者が悪いのだ。捕まえるとき、事故って1発殴ろうとか不謹慎なことを考える一同であった。



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