第2章 4.
4.
「こ、これ……海外のエロ本! 日本だとご禁制!! おまわりさーん!」 「やめろォ!!」
休憩、しかし続々と助けを求められたため、実際休めたのは2~3分だけ。『女子寮』大暴れでてんやわんやであった。
男女双方の悲哀のこもった叫びが各所に響き渡り、代々木ダンジョン村は大混乱。
当然の如く、正規職員と嘱託職員ではできることに大きな違いがある。かくして、数少ない正規職員(警察官)が嘱託職員に呼ばれてあっちこっちに走り回る!
「で、この本は」 「そ、それは拾ったの!! ひ……ひろっただけだから!!」
「うん、どこでどんな風に拾ったか教えてもらえます?」
こういうやり取りもまた、立派な正規職員のお仕事なのだ。
「『村井先輩』、こちらの女性が――」 「――リベンジポルノされました!」
「してねえよ!! お互い合意で撮っただけだろ!! どこにも流出してねえし、そもそもアバターのお前はリアルとちげぇじゃねえか!!」
「あんただって、リアルのあんたはそんなイケメンじゃないでしょ!! だいたい、あんたの好みに合わせてこのアバターにしたんでしょ!
浮気者! リアルの私とかなり違うじゃない!! ふざけんな! スマホ壊すから渡せって言ってるのよ!!」
傍目には危ない橋を渡ったカップルの痴話喧嘩であっても、実は重大事件の入り口かもしれない。
「そもそもそういうのは撮影しない、させないでください!! あと、壊すとか言わない!! データの削除を彼氏さんにしてほしいわけですよね!?」
警察そっちのけで口論を繰り返すカップルの対応は一度嘱託職員に引き渡し――マジかよという顔をされたが――
被害届を出すと叫ぶ男性とやってみろと売り言葉に買い言葉な女性の組み合わせへの対応を始める。
背景で今もマスドロが要請に従いスタングレネードの空中デリバリーを繰り返す中、てんやわんやの状態はいまだに収まる気配がない。
「「「人が足りない!」」」
県警の正規職員はもちろん嘱託職員として警察にやとわれた冒険者一同の叫びである。嘱託職員だって一応は警察学校を通うことになっている。
正規職員に比べて少ない期間であるがその際に嘱託職員として、警察官のように振舞えるいくらかの教育と受け、権限を授与されている。
とはいえ、ベテランの警察官でさえ、めんどくさすぎて手こずる出来事を手早く処理できるようになるかというと。ましてやダンジョンである。
右見ても左見てもみんな武装している空間である。どいつもこいつも重火器だの刀剣類だのアバターだのでぶっ飛んだ連中である。
「「なめやがって、ぶっ飛ばしてやる!!」」
「「「仕事増やすな、公務執行妨害で叩き潰してやろうか!!」」」
ついにブチ切れた連中と、これまたブチ切れた嘱託職員(警察にやとわれた冒険者)の衝突の鎮圧も正規職員のお仕事である。
当然のように本来であれば嘱託職員の1人でしかないはずの自称ドローンマスターこと、マスドロ――マスドロと呼ぶなと本人談――が、
スタングレネードの空中デリバリーを新たに実行していたりするが、
嘱託職員たちはそれで頭を冷やすのならよし、冒険者たちの動きを阻害できるのならそれもよし。
『――クソっ、スタングレネードや煙幕弾の在庫はまだあるよな?』
マスドロの愚痴が無線に流れるほど繰り返される爆撃。切りが無い。だが、『女子寮』戦闘員を全員拘束してしまえば終わりだと警察式人海戦術の極みを粛々と実行していく。
『全員拘束してしまえば、騒動は終わる!』と言う日本警察お得意の力業は、だが確実に状況の改善に一歩一歩と近づけていった。