プロローグ
咲坂高校冒険部活動報告書
プロローグ
TIPS:『ディープ・フロンティアスペース』……通称『ダンジョン』。『第1階層』がいかにもそれらしい地下洞窟状の空間である事からそう呼ばれている。
人類が科学の力で作り出した『法則採集空間』。実用化から14年ほどたった現在、人類社会に多大な利益と貢献、未来と犯罪をもたらしている。
校内新聞にこの間の表彰式の様子がでかでかと表示されている。今時新聞? と思われるが、なんだかんだでそれなりの名門校ではその『今時』が外部評価の高い活動として成績表に影響を与えてくる。
その校内新聞にはこう書いてある。
『野球部の山本君がダンジョンで1千万円稼ぐ! 我が校野球部に全額寄付! 是非ともトレーニング環境の整備を!』
「ウチの弱小野球部風情がビギナーズラックでこの扱いって……」
わなわなと震える1人の少女。
「納得いかーん!!」
県下でもそれなり程度の名門校で知られる咲坂高校の制服を着込んだお嬢様系優等生感ある少女がその風貌に似合わない叫びを上げて、周囲を驚かさせるが、周囲はすぐに普段通りに戻る。
彼女がその見た目と実際の性格にギャップがあることは広く知られた事実だ。
すぐさま校内新聞を壁から引きちぎり、彼女は自分の部活動の部室へと廊下を走っていく。
「あ~あ……」
こうなることを予想していた校内新聞部は廊下を走る少女の証拠写真を納めつつ、用意していた予備の新聞紙を廊下に張り出すのであった。
最近の警察は自分を殺そうとしているのでは無いか? 少なくとも県警捜査一課の女刑事村井は自分のデスクに積み上がった仕事の山にそう思わざる得なくなった。
県警のお偉いさんは女性がらみの事件を数少ない女性警察官で刑事をしている自分にとりあえず投げれば良いと思っているのでは? と最近は疑っている。
そんな自分の元に課長がぞろぞろと人を引き連れながら声をかけてくる。『この男が東京から我が県にやってくるかもしれない。ある事件の捜査対象者だ』と、新たな事件を持ち込みにきたのだ。
日本全国に労働基準監督署という行政機関が設置されている。労働基準法という、企業と労働者が最低限守るべき働き方の基本を定めた法律を守らせるための特殊な組織で、そこには事務官という国家公務員が自治体の職員と肩を並べて忙しくしている。
が、次のようなジョークがある。労働基準監督署、通称労基が本来真っ先に取り締まるべき組織は労基である。何故なら、労基が一番労働時間を守れていない。
特に――――
「――昨今のダンジョンを利用した企業活動は、取り締まるのに著しくコストと時間がかかる。とんでもない労力だ。だからこそ1回でわかりやすく見せしめに出来なきゃいけない。
まるでヤクザの論理だが、見せしめ以上に、安く確実に事件発生を防止する方法も少ない。この人手不足の時代、何が何でも結果を出して貰うぞ、長谷川」
「わかっていますよ、係長。今度の相手はダンジョン内部に簡単ながら作業所を作っている事がわかっています。場所が場所ですので、いつも通り税務署、税関と連絡を密にとって行う予定です。場所が場所ですから脱税だの密貿易だのそういうのが関係しててもおかしくは無いですからね」
長谷川は自らのダンジョン用のレイピアを取り出す。
女刑事は拳銃とスタンバトン、そして日本刀に手榴弾を。
校内新聞片手に失踪する彼女が飛び込んだ部室には、アメリカ製50口径ライフルや薙刀が並ぶ。
さて、ダンジョンに突撃だ。
TIPS:銃刀法……ダンジョン関係の発達の副産物、日本は軽く武装社会に突入し始めている。