運命の人
「私、あなたに初めて会ったあの日…爽くんに助けられて、この人が私の運命の人なんだ、って直感したんだよ。私たちの産まれからして必然的に、胸襟を開いて話せるのって爽くんしかいないし、あなたといる時が、一番ありのままの自分でいられる気がするの。話していて楽しいしね。私の直感、間違ってなかったね!」
「華乃…。でも僕、華乃みたいに優しくないし、釣り合ってるのか不安だ。」
爽は夕映えを受けながら、さらに一層、頬を朱色に染める。そして伏目になり、日々心中に秘めていた本音を漏らした。
「普段は確かに冷淡だけど、本当は心の温かい人だってこと、私だけが知ってるよ。他にも、私だけが知ってる温かい表情や言葉も、沢山ある。だからね、心配しないで。私の心はいつまでもあなたに寄り添ってるから。」
華乃は立ち止まって隣を歩む爽の顔を直視し、唐突にぎゅっと抱きついてきた。爽は突然の抱擁に動揺するも、すぐに華乃の背中に腕を回し、優しく頭を撫でる。
「えへへ、ごめんね。なんか急に、爽くんに触れたくなっちゃって。やっぱり爽くんのこと好きだなぁ、って思って。」
華乃は爽の胸に埋めながら、そんな健気で可愛らしい言葉を紡ぐので、爽は自分が茹蛸になったのではないかと錯覚した。
「この際だから聞いちゃうけど…爽くんは、私のどこが好きになったの?」
寄り道して、爽と華乃は駅付近の人気のない公園へ足を運んだ。そしてベンチに腰掛けると、華乃がそわそわしながらそう尋ねてきた。
「いっぱいあるけど…あえていうなら、見返りもないのに人に親切に出来る所、かな。」
「え、意外。だって爽くんはそういうの、嫌いでしょう?」
「まぁ自分では絶対にしないけど、自分にはない所だからこそ、惹かれたんだよ。なんて優しい人なんだろう、って。」
瞠目する華乃に、爽は頬を掻き乍ら補足した。
「勿論、華乃が持ち合わせる、その場にいるだけで周囲が明るくなる華やかさとか、ふんわりとした笑顔も仕草も全部好きだよ。他にも色々。つまりは華乃全てが好きなんだよ。」
爽が言い切ると、華乃はポッと湯気が出てきそうな勢いで赤面した。普段から愛の言葉を投げかけられてはいるものの、今のように、好意を持つ所以と共に、改まって愛情を伝えられると破壊力が段違いだ。
「ありがとう…。」
頰を紅潮させて恥じらう彼女を前にして、爽は彼女への愛おしさが溢れ出し、今度は爽から彼女をぎゅっと包み込むように抱きしめた。
爽と華乃は互いの体温を感じながら、こんな日常がずっと続きますように、と願った。