世界の終焉への契機
柔らかな色なき風に、淡い青紫色で彩られた竜胆の花々が、みな同じ方向へ向いてよそぐ。
その花の匂いを、蹲み込んで胸いっぱいに吸い込む少女の姿があった。
「優谷さん。待たせてごめん。」
澄んだ声が響き、少女はふわっと徐に顔を上げ、声のした方へと向き直る。
すると、彼女はまるで、御伽話から飛び出してきたお姫様のような容姿をしていた。夏でも季節を感じさせない雪膚、柔和な雰囲気を醸し出す垂れ目の双眸に、長いまつ毛。ちょこんと小さい鼻、艶のある唇に、レースのように腰までふわりと広がるウェーブのかかった栗色の髪。彼女の顔、身体には幼さが残っている。
「涼風くん。どうしたの、急に呼び出して。」
優谷さんと呼ばれた美少女― 優谷華乃は柔らかく微笑み、首をかしげる。
彼女に向き合う少年もまた、童話から現れた王子様のような美男子であった。切れ長の吸い込まれるような漆黒の瞳、高い鼻に、整いすぎた輪郭。少女と同様に、少年の身体は未熟で、その透明さ故、少女と言われても違和感を覚えないほどだった。
そのきめ細かい肌は、空に浮かぶ天が紅と同じくらい赤く染まっていた。
「優谷さん、あなたが好きです。僕と付き合ってください。」
涼風くんと呼名された美少年― 涼風爽は大きく息を吐いてから、少女をじっと見据えて澱みなくそう言い、スッと右手を差し出した。
すると、華乃は両手を口に当てて瞠目する。数秒後、彼女は目尻を下げてふんわりと微笑むと、やおら口を開いた。
「嬉しい。私も前から涼風くんのことが好きだったの。喜んでお受けします。」
華乃は爽の右手に、自身の右手を重ねた。
こうして、大団円が約束された童話から飛び出してきたかのような、現代のお姫様と王子様は結ばれた。しかし、華乃と爽が紡ぐ御伽話は、この世界の終焉へと導くこととなる。