表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/31

第7話

 地図に、日本がないどころの話ではなかった。

 アメリカ大陸も、ユーラシア大陸も。自分が学校で習い、テレビやネットで何度も目にしてきた世界地図に描かれた大陸、ひとつも存在していなかった。

 代わりに描かれていたのは、六つの未知の大陸。

 五つの大陸が星形に配置され、その中心にもうひとつ、大きな大陸が鎮座している。

 こんな地図は見たことがなかった。


「ニホンがないのは、この地図に地名が書かれていないだけなのでは?」


 セクオールが、少し不安げに訪ねてきた。


「いや、そうじゃないんです。この地図そのものが......俺が知っている地図とは違うんです」


 圭介はそう言いながらスマホを手に取り、地図アプリを起動した。

 通信圏外ではあるが、最大まで縮小すれば世界地図は表示される。

 画面に表示されたのは、自身がよく知る世界地図。

 

「俺が知っている世界地図はこれです」


 スマホの画面をセクオールに見せたが、セクオールは眉間にしわを寄せた。


「......見たことがありませんね」


 なんとなく分かっていたし、覚悟もしていた。

 それでも、こうして決定的な違いを突きつけられると、現実味が増して圧しかかってくる。

 正直、ヨーロッパとかどこかだといいなと淡い希望を抱いていた。

 だが、日本という土地が存在しない以上、どうやって帰ればいいのだろうか。


「本当に、この地図に見覚えがなければ......帰る方法は見つかりませんね」


 セクオールの言葉に、圭介は無意識に拳を握りしめる。

 だが、ふと思い出した。


「──そうだ。俺が召喚されたとき、魔法陣がありましたよね? あれを使えば......帰れるとか?」


 自分がこの世界に来た始まり、家の玄関を開けた先に広がっていた異様な部屋。

 そこには確か、青白く輝く魔法陣があった。


「あの魔法陣は勇者を召喚する時にのみ発動し、それ以外では一切反応しない陣なのです」


 ことごとく希望が打ち砕かれていく。

 召喚されたのに帰れない。そんな展開は、ファンタジーではよくある話だが、まさか自分が同じような立場になるなんて。


(帰る方法どこか、帰る場所が存在しないのかもしれない......)


「過去にも勇者がいたって話でしたけど、その人たちの故郷ってこの地図に載っているんですか?」


「細かい出身地までは分からない方もいますが、おおよその出自は記録に残っています」


 セクオールは広げた地図の中央を指さす。


「ここがイニティウム王国。私たちがいる国です。過去の勇者殿の多くはこの国、もしくは周辺の五大陸のどこかの出身者でした」


「じゃあ、俺みたいなやつって......」


「おそらく、初めてかと」


 今までの勇者はこの世界の出身者。

 では、なぜ自分が勇者として召喚されたのか。この世界との関係は一切なはずだ。

 それでも、召喚された理由はあの王から明確に語られている。

 この世界に魔王が誕生したから、その討伐のために、勇者が必要だった。


「今までの勇者って、ちゃんと魔王を倒してきたんですよね?」


 圭介の問いに、セクオールは真っすぐ頷いた。


「ええ。例外なく、魔王を討ち果たしてこられました。ただ......残念ながら、命を落とされた方もおります」


「そ、そういうの......やめてくださいよ。怖いんで......」


 わざと軽く流すように返したつもりだったが、声は少し震えていた。

 召喚されたということは、いずれ自分も魔王と戦う運命にある。

 そう思うだけで、胃がぎょっと痛んだ。

 無意識にお腹の辺りをさすっていると、セクオールがふと窓の外に視線を向けた。


「......ん? 何かあるんですか?」


「いえ、ちょうど時間が来たなと思いまして」


「時間?」


 セクオールは何の前触れもなく、近くに掛け掛けてあった圭介のジャケットを手に取った。


「この服、あなたの国では正装なのでしょうか?」


「そんな感じですね。何かあるときは、これを着ていきますけど」


「そうですか。では、着てください。これから、謁見の間で勇者の儀を執り行います。ご参加を」


「ゆ、勇者の儀?」


 またしても聞き慣れない単語がと出してきた。

 儀というだけで、何やら神妙で、現代日本ではあまり耳にしない響きだ。強いて言えば、ちょっと怪しげな団体がやってる印象すらある。


「儀って......そう、なにかこう、儀式的なことをやるんですか?」


「儀と言っても、式典のようなものです」


「それに、俺が参加すると、と」


「はい。もちろんです」


 当然かのように言われて、圭介は思わず肩をすくめた。

 拒否権など、あるはずもない。


「もし、俺の怪我が治っていなかったら?」


「そのまま参加していただく予定でした。王族をはじめ、貴族や他国の要人もお見えになりますので」


 圭介の知らないところで、異世界の段取りは容赦なく進行していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ