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◇第4話~のんびり初登校(後編)~




「――――よっ」

「っわ…咲奈さきな

「どうした項垂れて」

「あー…あはは」


机に突っ伏して腕まで垂らすようにして項垂れていると、鞄を机に置いて隣の席に座っている咲奈に背中を叩かれた。

ゆっくりと身体を起こして生気の薄れた顔を咲奈に向けると、苦笑しながら頭をポンポンと労うように撫でてくれた。



今朝先生に案内された1-Bの教室。

俺に用意された机の場所は窓側の一番後ろ、の一個隣。

窓際の席には咲奈が座っていた。


現在教室には誰もおらず、電気が点いているだけの教室に二人だけ。



何故転校生は教室の教壇の上に立って自己紹介をしなければいけないのだろうか。

何故生徒全員に注目されながら自分の趣味や意気込みを語らなければならないのか。

そんなことをもやもや考えて、また机に項垂れる。


「頑張ったよお前、ガッチガチで顔真っ赤だったけどな」


そう言って、今朝の俺のガッチガチで顔の真っ赤な自己紹介を思い出したのか、ブッと吹き出す咲奈。

片手で腹を抑えて馬鹿笑いしている様が憎たらしい。


「うー…へたこいたかなぁ」

「いや、いろんな意味で好印象だったと思うぜ?」

「いろんな意味?」

「そう」

「――…ハァ」

「だーっもういつまでうだうだ言ってんだこのやろう!」

「っ!?」


咲奈は呆れた様に声を張り上げたかと思うと、机と椅子に寄っかけていた両腕を伸ばして俺の頭に手を乗せ、「オラァ!」と怒鳴りながらぐしゃぐしゃに撫で回した。


「いっづうぅぅ!ハゲる!ハゲます!!」

「ハゲてしまえ!」


ひ、ひどい!!

その強い衝撃を払いのけようと、頭の上で咲奈の腕を必死に手で叩く。


「あ」

「ん?」


俺がふと何か思い出したような声を上げて手を止めると、咲奈もつられたように手を止めて、俺の顔を見た。


「…二階堂にかいどう先輩に呼び出されてたんだった」

「は?お前が?」

「うん、放課後カフェテリアにって」


思い出したことを口に出すと、咲奈が何か考え込むようにして俺から手を離した。

そして、暫く黙り込んで顔をしかめた後…


「……怪しい、俺もついてく」

「え?」


突然席から立ち上がり、肩に鞄を担ぐと教室の引き戸まで歩き、呆然とする俺を振り返って―――


「ほら、早く行くぞ」

「っえ、あ?…う、うん!」


よくわからないけど、心配してくれてる…のか?

頭で色々考えても解決しないと解り、慌てて机にかけていた鞄をとって、彼を追いかけることにした。





*****



「……」

「…」


…とても空気が重い。

朝食をとりにきた時も、昼食をとりにきた時だって…このカフェテリアは賑わっていたのに!

今だって放課後だし、少数とはいえ暇を持て余してる生徒がここに集まって、それぞれに会話を楽しんでいる声がここを賑わせているはず…なのに…

カフェテリアの一角、そこの丸いテーブルに集まった3人。

二階堂先輩がまるで「なんでお前までいるんだ」と今にも口に出しそうなくらい顔をしかめながら咲奈を見ている。

その手元には、俺を待っている間に注文したであろう紅茶が湯気もなく、水面だけが微かに揺れている。

対する咲奈は特に何を言うでもなく、先輩を睨むでもなく…ただ、そこに足を組んで、堂々とした態度で座っているだけだ。


…場の空気を変えなければ…!

俺は残り少ない生気を絞りだすように声を出した。


「…あの―――」

庭吉にわよしに何か用か?」


俺が口を開いた直後に、咲奈が二階堂先輩に問いかけた。

二階堂先輩は少し驚いた顔をして、でもすぐにまた顔をしかめて…

温くなってしまった紅茶の入ったティーカップを口につけたあと、口を開いた。


「…そうだけど」

「何の用?」

「…なんでお前まで来てるんだ?」

「お前が変態紳士だから」

「なっ…なんだと?」


「間違ったことを言ったか」と付け足した咲奈に、先輩がムッとした表情でテーブルに握りこぶしを置く。そして、咲奈に引く気がないのをいやそうに受け入れた後、やっと俺の方へ顔を向けた。


「庭吉、今日呼んだ理由なんだけどな?」

「は、はい」

「今度俺とデ――」


ガスッ……


「い゛っ!!!??」

「!」


先輩が用件を口に出そうとした瞬間、咲奈の足がテーブルの下で…確かに、先輩の足首を強打した。


「デ…何だよ?」

「っつ、ぅ…咲奈!!お前先輩に対して態度悪いぞ!」


二階堂先輩が席をガタッと立ち、同時にテーブルをばんっと叩く。

テーブルに置かれていたティーカップがカチャンッと音を立てると、周囲で楽しく会話をしていた生徒たちの視線が一瞬にして集まってしまった。


「お前みたいなやつ誰が先輩と認めるかアホ!」

「アホじゃない!成績は常にトップだ!」


咲奈の口答えにキレる…いや、自慢し返すように、胸を張って答える先輩。

そんな二人を見た周囲の生徒たちは、まるで「ああなんだまたか」とでも言うように、各々の輪へと顔を戻していく。

こんなんでいい…のか?


「んな話してねぇだろーがよォ!!」

「ふ、二人とも落ち着いて…」


二人の間に手を出すようにして、落ち着かせようと試みる

座ったまま先輩を睨む咲奈と、歯をむき出しにして、今にも喰い掛かりそうな眼で睨み返す先輩。

…これはまずい。

昨日は狐猫ぐみょう先輩がいたから助かったようなものだ。

俺一人でなんとかなるものだろうか…!?


「大体お前はいいのかよ!」

「へっ!?」


先輩を睨んでいた眼をそのまま俺に向けて、咲奈が問いかけてきた。


「い、いいって…その、何が?」

「こんなやつとデートなんかして、無事に帰ってこれるわけがねぇだろって言ってんの!」

「デッ…!?」


デート!?そんな話してたっけ!?

この状況からそんな言葉が出てくるなんて予想もしていなかった俺は、突然出てきたその単語に一瞬固まる。

すると、咲奈の口からでてしまったその単語に先輩がハッと少し顔を赤らめて、慌てたように言う。


「あ、ばか咲奈!バラすなよ!!」

「るせぇ!言わなかったお前が悪い!」

「おーまえが言わせなかったんだろおぉぉ~!!」


ベーッと舌を出して、してやったりという顔をする咲奈に対して、先輩は先程よりも顔を赤くして、暫く何も言えず唸っていたものの…やがて諦めた様に椅子に腰を下ろした。

俺も、二人を止めようとした時のまま立ちっぱなしだったことに気付いて、慌てて席につく。

その様子を見た咲奈は、再び足を組み直すとふい、とそっぽを向いてしまった。


「あ、あの…デート、というのは…」

「そ、そうなんだ!してくれない、か?ッ…俺と!」



先輩が俺をまっすぐ見て、返事を待っている。


…俺、は……




…いやいや、おかしい。

この状況はおかしい。


女の子相手なら、この展開はあったのかもしれない



でも、俺も先輩も…男、だよな…?


「あの!」

「な、なんだ?」

「…あの、俺…男です!」

「そんなのわかってる!」

「えぇぇ!!」


俺が少し声を張って男である、と告げると先輩に即答された。

ま…まさかこの先輩、ホモというやつか?

な、なんで俺!?


「あ…あの、俺その、男性に性的感情を抱いたりすることは…なくて、ですね…?」


俺が冷や汗を垂らし苦笑しながら、呟くように言うと、先輩は力んでいた肩を落としてしまう。

そして顔を俯かせて悲しげに声を出した。


「…わ、わかってる…」

「っ……」


ここまであからさまに残念な態度をとるのはずるいだろう!

俯いたままの先輩。まるで俺が「いいですよ」と返答を変えるのを待っているようなふりだ。

咲奈も早くしてくれと言わんばかりにイラついているようで…

暫く先輩の様子を見ていても変わらないとわかり、俺は少し震える声で先輩に話しかけた。


「…あ、あのですね!こ…こういうのは、その、段階を踏んで、ですね…」

「段階…」

「はいっ!つまり、その…デートとかって恋人同士のするもので…だか――――」

「付き合ってくれるのか!?」

「っはぃ!?」


どーしてそうなるのォォォ!!!

先輩が俺の言葉を遮って、瞳をキラキラと輝かせて俺を見ている。


「ちょ、待ってください!そんなこと一言も…!」

「でも、段階を踏めば俺にもチャンスがあるってことだよな!?」

「え?ま…まぁ、そういうことに…なっ、ちゃうんですか…?」


あれ、そんな話してたっけ、と俺が焦ったような顔で困惑しているのに気付いているのかいないのか…二階堂先輩は目を輝かせたままテーブルの上に置いていた俺の手に自分の手を重ねて―――


「頼む、俺と…一週間、付き合ってくれ」

「…!」


先輩が、先程の演技掛かった表情から打って変わったように、俺の目を真っ直ぐに見つめている。

この目から視線を外すことは許さない、とでもいうような真剣な眼差し。

そしてその綺麗な緑色の目が、先輩が…ゆっくりと俺に言葉をかけていく。


「一週間、俺をそばで見てくれないか?

その後は庭吉が決めてくれて構わない、から…」

「せ…先輩…」



…ここでバッサリ断ることができたら、どんなに楽なんだろう。

それができない俺はただの甘ったれなんだろうか…?


正直二階堂先輩については昨日今日の仲で、ほんとに何も知らないようなもので

でも、この真剣な目に見られて…

俺はほぼ無意識なまま、小さく頷いてしまった。





そして…しばらくして、頭が混乱して固まった俺から、咲奈が二階堂先輩の手を引き剥がして、俺の手を引っ張ってカフェテリアを後にした。

その後部屋でベッドにはいるまでのことは、正直あんまり覚えていない。


男に告白されるなんて初めてだったし、あんなに真剣な顔で見つめられたのだって初めてで…混乱してしまっていたのだろう。

布団の暖かさに眠気を誘われながら、夢の中に落ちていく中で…


明日からどうなってしまうんだろうって、そのことだけが頭から離れなかった―――――。

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