◇第3話~のんびり初登校(前編)~
さぁ、今日は記念すべき登校初日!
結局昨日は遠足前夜の小学生の様にわくわくして、あんまり眠れなかった。
3時間程度しか休息をとれなかった身体をぐっとベッドから起こして、隣を見る。
…向かいのベッドで寝ている同級生はまだ眠ったままだ。
俺は身体をのそのそとベッドから起こすと、まだふらつく足で彼のもとに歩み寄る。
「咲奈、起きて咲奈…」
布団が膨らんでいる部分に両手を乗せてユサユサと揺さぶりながら、彼の名前を囁くように呼ぶ。
「…ぁ?なに…まだ時間じゃねぇ…だ、ろぉ…」
咲奈は朝に弱い。
会って2日とちょっとだけど、これは多分誰にでもわかることだろう。
「今日は食堂の場所とか、教室とか教えてね?」
「…なん…あ…かったから…」
そう絞り出すように声に出すと、もう一度布団を頭まで被り直してしまう。
普段からこのくらいやわらかければいいのに、と思いながらクスッと笑ってしまった。
*****
その一時間後くらいに、咲奈の携帯目覚ましが起床時間を告げた。
「っ…んぁー!」
その元気な掛け声(?)とともに気合いを込めたかのような勢いでベッドから起き上がった咲奈は、すでに制服に着替えおわっている俺に目を向けた。
「…はえー…」
「いや、楽しみであんまり寝てないだけだから」
あはは、と苦笑いしながらそう言うと、咲奈は「ふーん」とあまり興味なさそうに返事をして、自分も身支度を始める。
「――――じゃ、朝メシ行くぞ」
「あ、うん!」
いつの間にか完璧に制服を着込んでドアの前に立っている咲奈に声をかけられ、慌ててそばにある鞄を手に取り、彼が開けてくれたドアから部屋のそとにでた。
寮の外に出て、少し距離のある通学路を二人で歩く。
「そいやお前、同じクラスになんだっけ?」
「うん、よろしく」
「んー…」
咲奈が同じクラスにいるっていうのが凄く嬉しくて、ついつい足取りも軽くなってしまう。
「おい…小学生じゃあるめーし、もう少し落ち着けって」
「あ…ご、ごめん!」
そう謝りながら咲奈の顔をチラと覗くと、少し怒った口調とは違って、どこか楽しそうに前を向いて歩いていた。
*****
カフェテリアで朝食を済ませた後、咲奈に教室へ行く前に職員室の場所を教えてもらって一旦別れた。
俺は転入生だから、初日は教師と挨拶をしなければいけない。
職員室の引き戸が少し開いているのを見つけて、そこから覗くようにして中の様子を伺っていると―――
「おはよう庭吉!」
「な゛っ!!」
突然、誰かに後ろから俺の身体を囲うように抱きしめられた。
あまりに唐突な出来事に状況把握が出来なくなり、口を開けたまま固まると、プッ…と小さく吹き出すような声が聞こえた。
「あはは、俺だよ」
その呑気な声の主を確かめるために、動かしづらい首を少し後ろに向けるとそこには…
「っ…に…二階堂先輩…!」
先輩は、「あったりー」と朝からテンションの高い挨拶をすると、俺から身体を離して改めて、といった感じで口を開いた。
「何してるんだ?先生待ち?」
「はい、今日が転校初日なので…」
「…」
「…?」
何故このタイミングで沈黙!?
俺、何か気に障ること言ったか!?
俺の目をじっ…と見たまま黙り込んでいる先輩に「あの」と声をかけようとした瞬間、彼は左手を自分の顎に当て、困ったように口を開いた。
「…危険だな」
「は…?」
「庭吉みたいな純粋で童顔なやつを1-Bに置くなんて…理事長は何を考えてるんだ…」
その声はまるで独り言のように、自分に聞かせるようにして消えていく。
「…?あの…」
……。
「…なーんてな!別に庭吉が童顔で天使のような美しさだからって誰もいたずらなんか―――」
「庭吉佑くん、待たせたね」
「あ、先生!」
二階堂先輩の言葉を聞き終わるより早く先生が職員室から現れて、教室に向かうから、と声をかけてくれた。
「じゃあ先輩、俺行きますね」
先輩の言ってることは聞こえてたけど、くだらないことだと思い、手早く切り上げて廊下の少し先にいる先生の方へ歩き出す。
「…庭吉!」
「?」
急に真剣味を帯びた声で呼び止められ、先輩がいる方をもう一度向くと…
「放課後でいい、庭吉の時間が余った時でいいから…
カフェテラスに、来てほしい」
「?良いですけど…なん――」
「話!話がしたいだけだから、そんじゃーな!」
絶対来るんだぞ、と語尾に付け足して、手を振りながら反対方向に歩き去って行く先輩の背中を見ながら、話ってなんだろうと考えて…
とりあえず今は先生を見失わないようにしなければということを思い出して、慌てて前を向き直した。
後編へ続く