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◇第1話~普通に考えて、まず無理~

「…で……っけぇ…」


ここは、多分都会のまんなからへん

東京ドーム2~3個分の敷地内に建つ金持ち高等学園…


私立、綾白あやしろ学園である。

綾白高校は一応この辺では一番頭のいい学校で…

中学時代成績が中の上程度だった俺がこの学園の門前に立っている理由は


…まぁ…はっきり言って無い。

いや、無いことはないんだけどさ!

って俺誰に言い訳してんだ!


心の中で一人ツッコミをしながら「うあー」と頭をカシカシと掻いて、もう一度建物をキッと見上げる。


「っと、とりあえず入るか…!」


自分に言い聞かせるように呟き、無駄に煌びやかな学園の門をくぐった。






……門をくぐってから大分歩かされたと思う。

どのくらい歩いたか…なんて、考えるのも馬鹿馬鹿しくなってきた頃に生徒玄関に到着して、ふぅとひと段落の溜息を吐きながら靴を脱ごうとして、そういえばここ土足だったな、とか

事務室のおじさんの対応の良さにこっちが焦ってしまったりだとか

カフェテリア、なんて響きのいい食堂があるんだなぁとか

辺りをきょろきょろしながら、たまに壁にかけてある生徒作品の絵画や案内をみながら、ゆっくりと廊下を歩いていく。


「あー…、ここか」


ふと、大きくて少し威圧感のある扉の前で立ち止まり

ここが理事長か、と扉を見上げる。

…目を閉じて深呼吸一回


右手にぶらさげていた新品の革鞄を左手に持ち替えて、もう一回気を入れるように息を吸う。

そして開いた右手をスッと扉の前に出し、コンコンと軽くノックをする。


すると、重い扉の向こうから随分と軽い返事が返ってきた。


「入っていいですよー」

「あ、し、失礼します」


扉のノブに手をかけて、ぐっと押してみると

見た目よりはいくらか軽い感触で扉が開いた。


そして、中にいる人物をふたり見つけて、少し緊張しながらそこへ歩み寄る


庭吉にわよしくん?」


歩み寄った俺の目の前に立ち、首を傾げて聞いてくるこの人は薄い金髪でまだまだ若そうに見えるけど…

多分理事長なんだろう。

…多分。


「はい、今日から転入することになっている庭吉佑にわよしゆうです」


できるだけハキハキとした声で答えると、理事長らしき人はくすっと口に手を当てながら笑い

俺の右肩に手をポンとのせて…


「うんっ!元気があってよろしいっ!!」

「…へっ?」

「君みたいな可愛い子ならいくらでも歓迎するよ!」

「はっ?」


え?

何このパワフルな理事長?


俺が緊張していたことも忘れてぽかん、と口を開けていると、後ろに立っていたもう一人がスッと理事長の前に歩み寄り…


「可愛いさは武器だよ!俺は顔とか家柄とかそういうのを大事にしt―――」

「理事長!!」

「いだあぁぁぁあぁ!?」


スパァァン!!といつの間に持っていたのかわからない厚い本で理事長の頭を叩いた。

その人は、薄いフレームの眼鏡に黒髪を軽く七三にした、見た目的にはキッチリした人だった。

先程のとても爽快な音に、俺はハッと我に返る。

そして目の前に叩かれた頭を抱えてしゃがみ込んでいる人物を捉え、慌てて駆け寄り、その背中に手を乗せ、顔を覗くようにして尋ねる。


「理事長、大丈夫ですか?」

「いづうぅ…ひっどいなぁ後寄のちより、ただの挨拶なのにぃ」

「先程のは挨拶ではなく独り言でしょう!」

「うぅー!」

「うぅーじゃないっ!!」


スパンッ!!


お、鬼だ…鬼がおる…


でもまぁ理事長も理事長だと思うけど。

男子生徒に向かってかわいいだの顔や家柄がうんぬんだの言ってたし…

この人ほんとに理事長なのか?


――…って!


「わっ…」


しばらく頭を抱えてむくれていた理事長が急に何か思い出したかのように立ち上がったのに驚きつつ自分も立ち上がると、理事長はこちらを振り返りにこにこしながら言った。


「そうだそうだ、庭吉くん、改めて自己紹介するよ!

僕はこの綾白学園の理事長をやってる綾白あやしろ光司こうじです、よろしくね」


そう言って手を差し出してくる元気な理事長に応えるように、握手をする


「あ、はいっ!よろしくお願いします」


良い雰囲気を持った人だな、と素直に思った。

こんな人が理事長だって言われて、内心大丈夫なのかとも思ったけど。


「んで、この七三眼鏡は後寄のちよりたくみね」

「はぁ…まぁ、いいでしょう

君、私は学園の副理事を務めているので、何かあれば言うように」


俺が反射的に軽く頭を下げると、この低脳理事よりは役に立ちます、と理事長に聞かせるような口調で付け足した。

後ろで理事長が地団駄を踏みながら「副理事のクセに!少しは言動を慎め!」と怒っているのはまるで聞こえていないようなしれっとした顔で眼鏡のブリッジを軽く押し上げ「では…」と話を続ける。


「君は寮に入ることになっていたね」

「はい、そうです」

「では場所を案内するからついてきなさい」

「はい!」




―――――ここから始まる、俺の学園生活。

転入の話も急だったけど、まさか綾白に来させられるとはおもってませんでした父さん。

金持ちと天才がいっぱいいるこんな学園で、俺が無事に 平凡に 通行人Aさんみたいに

普通に生活していけると思いますか、父さん?



とにかく


早くここに馴染んで

勉強にもついていけるよう

普通でいられるよう

がんばりたいと



…切実に願っております父さん。



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