ガジュマル
今日も店は開いているけれど暇なはず。
店の横に作った作業室で資料とネタ帳を開きながら新たな商品を考える。
店の入口に付けたベルが鳴った。
お客さんだ!
僕は深呼吸をして急いで店内に向かう。
「こんにちは!雑貨店ユーダリルへようこそ!」
お客さんは新しめのリクルートスーツを着ていて、不安そうに店内を見回している。
『あの…気付いたら森に居て、家があったので入ってみたのですが…』
「大丈夫です、少し道に迷っただけですよ。
せっかくなので、ゆっくりしていきませんか?お茶も入れますね」
店内の一角に小さなカウンターがあるので、僕はそこへ向かいお茶の準備をした。
「オレンジの皮を使ったハーブティーです。苦手でしたら香りだけでもどうぞ」
お客さんはカウンターの椅子に座りハーブティーの香りを嗅ぎ一口飲む。
『温かいし良い香りですね。ところで、お店の人は?君はお手伝いかな?』
「お口に合ってなによりです。店主は今出かけていて、僕が店番をしています」
僕が店主です!って言っても見た目は十代前半だから仕方ない… 言うと余計に混乱するので黙っていよう。
(成長が遅いだけで、実際はそこそこな年齢だから!お客さんより年上だから!)
お客さんは温まって落ち着いてきたのか店内を見て回り始めたので、僕は店内の隅で作業してる風を装い お客さんの邪魔をしないように見守る。
気になる物があったようで呼ばれ
近寄ってみると、それは編みが施されたマフラーだった。
「ガジュマルマフラーですね!巻いてみますか?」
『ガジュ…マル…?』
何の事だと困るお客さん。
ですよねー 説明せねば…
「ガジュマルは[多幸の木]って言われていて幸せをもたらしてくれます。
育ち方の関係で[絞め殺しの木]とも言われてるんですけど、生命力が強いゆえの縁起物で新しい始まりのお祝いにプレゼントする事もあるみたいですよ」
「寒くなると日が落ちるのも早いし気分も落ち込みがちになるので、少しでも暖かくなって幸せを運んでくれたらな…という思いで店主が作りました」
お客さんは しばらく考えてたけど微笑んで
『これください…そのまま巻いて帰りたいです』
「ありがとうございます!」
会計などを済ませ、フワッとマフラーを巻いたお客さんを店の入口まで送る。
「とても似合ってます!
帰り道は…来た時の、あのアーチの奥にあるので足元にお気をつけて。ありがとうございました!」
蔦のアーチを指差し見送った。
店に入りドアを閉め、僕はその場でしゃがみ込む。
「はぁ……」
そこにカラスくらいの大きさの白い鳥が飛んできて地面に着地した。
「むぎーーーー!僕の接客大丈夫だった?変な感じなかった?手震えてなかったかな?てか今震えるし!お客さんに失礼な事してないかな?泣きそうなんだけど!」
麦は店によく遊びに来てくれる唯一の友達で、何となく意思疎通は出来ている…と思う!
「今日はもう お客さん来ないよね?来ないと思う!来ないはず!と思うんだけど!店閉めて良い?もうキャパオーバーだよ!」
人と話す事が滅多になくて、慣れてないゆえに僕は必死に訴える。
〈この後誰か来ても現役のコミュ障には無理そうだね。さっきのお客さん最後は笑顔だったし、お疲れ〉
とでも言っているかのように扉に下げているOPENの札を嘴で器用にCLOSEにした。
途端に光差し込む暖かな景色から、霧に包まれ薄暗くて肌寒い景色に変わった。
実はこっちが本当の景色。
店が開いている時だけ麦が力を貸してくれて明るい景色になっている。
「ありがとう麦…1本吸って落ち着いてくる…」
フラフラと店の裏にあるテラスに向かい煙草を吸う事にした。
こんな感じでお店をやっていけるのか不安を抱えつつ煙を吐き出しながらテラス横に植えてある1本の木を見つめる。
周りの木に比べてだいぶ小さくて葉の育ちも疎らであまり良い状態では無い。
でも、これが僕の本体。僕は木の妖精だったりする。
お客さんが笑ってくれたら嬉しいのは本当で、数時間前より少し枝と葉が伸びている。
「よし!頑張ろう」
吸い終わったので作業に戻った。
ガジュマル 花言葉
健康、たくさんの幸せ