第一章・第8話 ——王都、そして願いの理由——
王国騎士団に案内され、数日――
「……でかいな」
ミノルは思わず呟いた。
目の前に広がるのは、巨大な城壁都市。
高くそびえる白亜の壁、その向こうに見える無数の建物。
王都。
それは、今まで見てきた景色とはまるで別世界だった。
「人の気配が……とても多いです」
シロが周囲を見回す。
「ぷる……!」
ルミィも少し緊張しているのか、ミノルの肩にぴたりとくっついている。
「問題ありません。何かあれば、私が排除します」
カグラが淡々と告げる。
「いや排除すんな。目立つな」
慌ててツッコむミノル。
そんなやり取りをしながら、一行は王都へと入った。
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「うわ……」
中へ入った瞬間、思わず声が漏れる。
市場には人が溢れ、商人の呼び声が飛び交う。
色とりどりの品物、行き交う人々。
「すごいな……活気がある」
「はい。豊かな都市の証です」
シロが頷く。
だが――
「……あれ」
少し離れた場所。
石畳の通りから外れた先に、視界に入った光景。
崩れかけた建物。
痩せ細った人々。
「……貧民街、か」
ミノルは小さく呟く。
さっきまでの賑わいとは、あまりにも対照的な光景。
「同じ街とは思えないな……」
「どの国にも、影はあります」
シロの声は静かだった。
カグラも、何も言わずその光景を見つめている。
「……」
ミノルは少しだけ眉をひそめたが――
「行くぞ」
騎士に促され、再び歩き出した。
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やがて、一行は王城へと到着する。
巨大な門をくぐり、長い廊下を進み――
「こちらです」
案内された先。
重厚な扉が、ゆっくりと開かれる。
その先にいたのは――
「よく来た」
玉座に座る、一人の男。
威厳ある声。
年齢を感じさせながらも、その瞳には強い光が宿っている。
「我が国の王である」
ミノルたちは軽く頭を下げる。
(……ガチの王様だな)
内心で少し緊張しつつ、顔を上げる。
王は、じっとミノルを見つめていた。
「そなたが……幻獣を従えし者か」
「まぁ……そんな感じです」
少しだけ曖昧に答える。
王はふっと笑みを浮かべた。
「堅苦しくせずともよい。そなたは客人だ」
「……どうも」
少しだけ肩の力が抜ける。
そのとき、団長が一歩前に出る。
「陛下。例の作物を」
「ああ」
王が頷く。
運ばれてきたのは、ミノルたちが育てた作物。
瑞々しく、生命力に満ちたそれら。
王はそれを見つめ、ゆっくりと口を開いた。
「……やはり、ただの作物ではないな」
「ええ。霊気を帯びています」
シロが小さく補足する。
王は深く頷いた。
そして――
「そなたたちを呼んだ理由を話そう」
その言葉に、空気が少し変わる。
「この作物を、王に献上する理由――それは」
一瞬の間。
「我が娘……王女が、病に伏しているためだ」
「……!」
ミノルは思わず目を見開く。
「長きに渡る原因不明の病。あらゆる治療を試したが、回復の兆しはない」
王の声は、静かだが重い。
「だが――」
作物に視線を落とす。
「この生命力。この霊気」
「もしかしたら……治せる、と?」
ミノルが呟く。
「ああ」
王ははっきりと頷いた。
「希望は、わずかでもいい。掴みたいのだ」
その言葉には、王としてではなく――
“父”としての想いが込められていた。
だが、それだけではなかった。
「そしてもう一つ」
王は続ける。
「王都の貧民街にも、同様に病に苦しむ者が多い」
「……」
さっき見た光景が、脳裏に浮かぶ。
「彼らにも、この作物を与えたい」
「……なるほどな」
ミノルはゆっくりと息を吐く。
「ただの献上じゃなくて、“治療”のためか」
「そうだ」
王は真っ直ぐに答える。
「そなたたちの力が、多くの命を救うかもしれない」
静寂が落ちる。
シロは静かに目を伏せ、
カグラは腕を組んで考え込む。
ルミィは、微かに光を揺らしていた。
「……ミノル様」
シロがそっと声をかける。
「これは……とても尊いことです」
「分かってる」
ミノルは頷く。
そして――王を見る。
「……いいよ」
短く、そう答えた。
「元々、そのつもりで渡したわけじゃないけど」
少しだけ笑う。
「使えるなら、いくらでも使ってくれ」
王の目が、わずかに見開かれる。
そして――
「……感謝する」
深く、静かな言葉。
それは一国の王ではなく、
一人の父としての礼だった。
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こうして――
ミノルたちの作物は、“命を救う希望”として使われることになった。
王女のために。
そして、貧民街の人々のために。
それは、ただの農作物ではない。
命を繋ぐ、“奇跡の実り”。
物語は、さらに大きな局面へと進んでいく。
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