第一章・第1話 ——はじまりの牧場——
朝露に濡れた草原に、柔らかな光が差し込む。
「……朝か」
目を覚ました主人公は、ゆっくりと体を起こした。
昨日の出来事が夢ではないことを、すぐに思い知らされる。
見渡す限りの大自然。
人工物の気配は一切ない。
そして――
「コン」
足元で、小さく鳴く白い狐。
「お前、ちゃんと生きてたな」
思わず安堵の笑みがこぼれる。
昨夜、必死に手当てをしたあの白狐は、今ではすっかり元気そうにしていた。
傷もほとんど塞がっている。
「回復、早すぎないか……?」
普通の動物じゃない。
その確信は、すでにあった。
頭の中に響いた“声”――そして“幻獣”という言葉。
「……試してみるか」
主人公は、ふと呟く。
するとまるでそれに応じるかのように、再びあの声が響いた。
――《スキル《牧場主》起動》
――《管理領域の確認を行います》
視界の端に、半透明の“枠”のようなものが浮かび上がる。
「うわ……なんだこれ」
それはまるでゲームのインターフェースのようだった。
――《現在地:未登録領域》
――《周囲半径100メートル以内に適性あり》
――《拠点化を推奨します》
「拠点化……?」
戸惑いながらも、直感的に理解する。
ここを、自分の“牧場”にできるということだ。
「……やるしかない、か」
生きるためには、何かを始めなければならない。
主人公は深呼吸し、意識を集中させる。
「拠点化、開始」
――《承認》
――《領域登録を開始します》
足元から、淡い光が広がっていく。
草原に円状の紋様が浮かび上がり、やがて静かに消えた。
――《登録完了》
――《名称未設定:第一牧場》
――《管理者:あなた》
「……できた、のか?」
見た目はほとんど変わらない。
だが――何かが“違う”。
空気が、どこか穏やかで、満ちているような感覚。
「コン!」
白狐が嬉しそうに駆け回る。
まるでこの場所を気に入ったかのように。
「……ここ、いい場所なのかもな」
思わず呟く。
すると――
――《初期施設の展開が可能です》
――《簡易小屋を生成しますか?》
「それ、最初に言ってくれよ……。生成、頼む」
次の瞬間。
光が収束し――
ポン、と音を立てるようにして、小さな木造の小屋が現れた。
「……すげぇな」
思わず笑ってしまう。
異世界に来た実感が、ようやく湧いてきた。
「よし、まずはここを拠点にして――」
そのときだった。
白狐が、不意に動きを止めた。
「……?」
次の瞬間。
その体が、淡く光り始める。
「お、おい……?」
光は次第に強くなり、白狐の輪郭が揺らぐ。
やがて――
その姿が、ゆっくりと変わっていく。
小さな四足の獣から――
細い手足を持つ、人の形へ。
「な……」
言葉を失う主人公。
光が収まったとき、そこに立っていたのは――
白銀の髪を腰まで伸ばした、一人の少女だった。
頭には、ぴょこんと揺れる狐耳。
背後には、ふわりと広がる白い尾。
そして、あの金色の瞳。
少女は少しだけ不安そうに、しかしまっすぐにこちらを見つめる。
「……あなたが、助けてくれたのですよね」
澄んだ声が、静かに響いた。
「わたしは……妖狐」
一歩、近づく。
「あなたに、命を救われた者です」
主人公は、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。
(……幻獣って、そういうことかよ)
白い狐だと思っていた存在は――
まさかの、“女の子”だった。
「これから……その……」
少女は少しだけ頬を染め、視線を逸らす。
「お側にいても、よろしいでしょうか……?」
風が、やさしく草原を揺らす。
こうして――
彼の異世界牧場生活は、
一匹の妖狐少女との共同生活から始まるのだった。
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