第一章・第10話 ——王女、農場に降り立つ——
第一章・第10話 ——王女、農場に降り立つ——
あの“婚約発言”から数日――
「……なんでいるんですか」
ミノルは、目の前の光景を見て素直にそう言った。
青空の下。
のどかな農場。
そして、その中央に――
「おはようございます、ミノルさん」
優雅に微笑む一人の少女。
フィリア・エルロード。
王国第一王女が、なぜか普通にそこにいた。
---
「いやいやいやいや、どういう状況!?」
思わず頭を抱えるミノル。
「私はお手伝いに来ただけですよ?」
フィリアは首をかしげる。
「いや、“だけ”で済む立場じゃないでしょ!?」
「大丈夫です。許可はいただいています」
にこり、と笑う。
(絶対王様ノリノリだっただろ……)
ミノルは遠い目をした。
---
「フィリア様、こちらへどうぞ」
シロが穏やかに案内する。
「ありがとうございます、シロさん」
フィリアも自然に応じる。
二人はすでに、かなり打ち解けている様子だった。
「……意外と馴染んでるな」
「当然です」
背後から声。
振り返ると、腕を組んだカグラが立っていた。
「主様の関係者ですから」
「いや“関係者”って言い方やめろ」
妙に含みがある。
---
「ぷるんっ!」
そこへルミィがぴょんと跳ねて、フィリアの肩へ。
「きゃっ……ふふ、可愛いですね」
フィリアは優しく撫でる。
「ルミィもすっかり懐いてるな」
「はい。とても優しい方だと分かるのでしょう」
シロが微笑む。
---
「それで、今日は何をすればよろしいですか?」
フィリアがやる気満々で聞いてくる。
「いや、王女にやらせる作業じゃ――」
「やります」
即答だった。
しかも無駄に力強い。
「……分かりました」
ミノルは観念した。
---
「まずは畑の手入れからだな」
「はい!」
---
数時間後――
「……はぁ、はぁ……」
フィリアは息を切らしていた。
「だ、大丈夫か?」
「だい、じょうぶ……です……」
明らかに無理している。
「無理するなって」
「ですが……皆さん、こんなにも大変な作業を……」
汗を拭いながら、それでも笑う。
「少しでも、お力になりたくて」
「……」
ミノルは少しだけ黙る。
そして――
「じゃあ、無理しない範囲で手伝ってくれ」
「はい!」
嬉しそうな笑顔。
その表情に、思わず苦笑する。
---
「ふふ……楽しそうですね」
シロが穏やかに呟く。
「……まあな」
「主様は、優しいですから」
「別に普通だろ」
そんなやり取りをしながら――
農場には、少しずつ新しい空気が流れていた。
---
「ミノルさん!」
フィリアが手を振る。
「これ、どうすればいいですか?」
「それは――」
自然と会話が生まれ、
自然と笑いが増えていく。
王女であることを忘れるほどに。
---
夕方。
作業を終えた一同は、並んで座っていた。
「……楽しいですね」
フィリアがぽつりと呟く。
「こんな時間、初めてです」
「そうか?」
「はい。今までは……ずっと、部屋の中でしたから」
静かな言葉。
だが、その表情は明るい。
「だからこそ、今がとても幸せです」
「……そっか」
ミノルは空を見上げる。
「じゃあ、好きなだけいればいい」
「え?」
「ここは別に、王女とか関係ない場所だからな」
少しだけ笑う。
「やりたいこと、好きにやればいい」
その言葉に――
フィリアは、少しだけ目を見開き。
そして、優しく微笑んだ。
「……はい」
---
その様子を見ていた――
「……」
カグラが無言で視線を逸らす。
「……ふふ」
シロが意味深に微笑む。
「ぷる?」
ルミィはよく分かっていない。
---
こうして――
王女フィリアは、農場の一員として加わった。
身分も立場も違う者たちが、同じ場所で笑い合う。
それは、少し不思議で――
とても温かい光景だった。
---
だがその裏で――
王都では、静かに動き出す影もあった。
王女の回復。
そして、謎の力を持つ作物。
それらに興味を持つ者たちが、確かに存在していた。
---
平穏な日常の中に、忍び寄る新たな波乱。
物語は、次の局面へと進んでいく――
---




