【真っ赤なほっぺの男の子】
そんなはずない。だって私の中のホタちゃんは、ほっぺが赤くておかっぱで、雪によく足を取られて転んでて、運動はからっきしなのにサクランボの種飛ばしは誰よりもうまくて、ド田舎にはふさわしくないほど頭が良くて神童なんて言われてて、本人はそれを一切鼻にはかけないで、いつも優しくて穏やかで笑うと眉毛がヘニャって下がるあのホタちゃんがこんな胡散臭い男なわけがない。
でも、「久しぶり、ようちゃん」と言ったその笑顔は眉毛が下がって目が細くなって、小学生の頃のホタちゃんそのものだった。
「えっ……あっ……」
動揺で言葉が出てこなかった。聞きたいことは山ほどあるはずなのに、思考停止して何から話せばいいのか分からなかった。
「デザインワークスアワードの作品見てたらさ、『矢護陽香』って名前あって矢護って珍しい苗字だし、ようちゃん昔っから絵描くの上手だったから間違いないって思ったんだよね」
「あっ、別に昔馴染みだからこの仕事頼んだわけじゃないからね?ちゃんと他のデザインのも色々見てこの仕事はようちゃんにやってほしいなぁって思ったから依頼したんだよ?」
声を失う私とは裏腹に身振り手振りで話し続けるホタちゃんだと名乗る目の前の男。
「ホタちゃん」
「あっ、ごめん!俺だけベラベラ喋っちゃってたよね?懐かしくてつい」
焦った様子で右手で髪の毛をクシャっとさせた。
「ホタちゃん男だったの?」
「は?」
目を丸くさせてこちらを見る。
「だってホタちゃん、小学校の時おジャ魔女ならおんぷちゃんが好きとか、嵐ならニノ派かなとか、家庭科で作ったナップザックもハムちゃんの柄だったし、髪もおかっぱだったし……」
「ごめんなさい!私ホタちゃんのこと女の子だと思ってました……」
「えっ、それマジ?」
ホタちゃんは手で口を押えながら目線をそらした。その手は指が長くて骨ばっていて男性の手そのものだった。
「確かにおかっぱだったけど、あれは田舎過ぎてあんまり髪切りにいけなくて母さんが切ると毎回決まっておかっぱになってただけだし、おジャ魔女はようちゃんが見てたから日曜に一緒に見てただけで、嵐はまあ今もニノ派かな?てか、俺ナップザックの柄ハムちゃんだっけ?めっちゃラブリーじゃん!」
そう言って八重歯を出して笑った。
「二歳上の頭のいい近所の女の子だと思ってました」
顔の前で手を合わせてホタちゃんに対して拝むように謝った。
「俺、普通にランドセルは黒だったけどな?」
少し不服そうな顔をしてこちらを見た。
「まあいいや。今日の夜空いてる?飲みに行こうよ!ようちゃんお酒好き?」
さっきの打ち合わせの胡散臭さとは打って変わって親しみやすい笑顔だった。
「お酒は好きです」
「オッケー!和食とイタリアンとエスニックなら何が好き?」
「肉寿司じゃないならなんでも」
「ようちゃんはやっぱり面白いね!」