表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ホタルのようちゅう  作者: つかさ文研
5.ようちゃん
33/33

【憎まれっ子】

油絵のにおいが懐かしい。一気に美大時代の油絵科があった作業場が思い出される。

「陽香、久しぶり!来てくれてありがと~」

油絵学科で学生時代によく一緒に映画を見たり、落書きをしあっていた親友の浅見悠里が話しかけてくる。グラフィックデザイン学科の私とは大学二年の時に授業が被ったことで仲良くなった。会うのは春ぶりになる。まだホタちゃんとは再会していない時期に食事に行ったきりだ。彼女はこうして年に何回かギャラリーを借りて絵を展示、販売をしていて文字通り『絵で食っていっている』人だ。シックな黒いワンピースを着て、展示会用にキメているが、黒髪から覗かせるインナーカラーの赤髪が彼女らしさを静かに主張している。

「久しぶり~!油絵のにおいめちゃくちゃ懐かしい!大学思い出す!」

「陽香はグラデザだから油絵は卒業してからはやってない感じ?」

「水彩画は趣味でやるけどね~。油絵はなかなかにハードルは高いよ~。でも、昔の油絵は全部取ってるよ!なかなか捨てられない。めっちゃ下手だから見返せないけど。悠里はやっぱり凄いな~。入口に飾ってたのとか綺麗だった」

「あれすっごい時間かかった!」

「迫力すごいもん!」

「で?そちらは?」

悠里は私後ろに立って私たちの会話中、目線のやり場に困って近くの絵をなんとなく見ていた松澤君に目をやる。

「あっ、松澤です」

彼は軽くお辞儀をした。

「彼ピ?」

「会社の同僚だよ」

彼女は「な~んだ!」と言った後、ギャラリーのスタッフに呼ばれて「ごめんね~また連絡する~」と忙しそうに去って行った。


「すごい絵がいっぱいでしたね。なんか語彙力なくてすいません。俺にはよく分かんないものも多くて」

ギャラリーを出てなんとなく駅までの道を二人で並んで歩く。

「悠里は学生の時から色んな賞取ってたからな~」

「俺勝手に陽香さんって美大で水彩画やってたのかと思ってました」

「水彩画もやってたよ。グラフィックデザイン学科だったけど、水彩画も油絵も色んなことやったよ。漫画連載してた頃は『漫画で一生食ってやるー!』って息巻いてたけど、今となっては向いてなかったなって思うし、普通に就職して良かったっても思う。でも、悠里みたいに自分の作品を自分で展示発表して~みたいなのやっぱ憧れるよね。これは美大卒の人はみんな思ってるんじゃないかな~。そんな人一握りしかいないから尚更ね」

「美大の展示会って面白いですよね。俺は卒業制作しか見に行ってないっすけど、わけわかんない展示もあるし、際どすぎる裸の人形飾ってたり、ゲーム制作してたり。俺はそのゲーム展示目当てに卒業制作の展示に行ったんですけど、そこで見た陽香さんの絵見て感激したんです。それから三年したくらいして自分が就活の時にふらっとその卒業制作のパンフ出てきて、陽香さんの事思い出してネットで検索したんですよ。今日みたいに展示会みたいなのするくらいすごいアーティストになってるんじゃないかって。そしたらデザイン会社のホームページ出てきて。そんで今こんな感じっす」

「ネトストじゃん。展示会か~」

そういう未来もあったのかもと一瞬考えたが、自分にはそこまでの才能がないなとすぐにその妄想は立ち消えた。

「まあ、私は悠里みたいに色んな人に響くような絵はかけないけど、一人でもファンがいてくれて嬉しいよ」

隣を歩く彼は「俺は一生陽香さんのファンっすからね~」と軽口を叩いている。

気付くと駅が見えてくる。時間は夕方の四時前。これだけで呼び出して帰しちゃうのも悪いし、ちょっと早いけどご飯食べて、それから帰ろうかなぁと考えていた。

ふと隣を歩く松澤君が視界から消えた。振り向くと立ち止まっていた。

「今日はデートだから今日一日の陽香さんの時間もらっていいんですよね?」

「デートかは置いといて時間はまだまだあるよ?ちょっと早いけど飲みに行く?」

「いや、俺ん家来ません?」

首を傾けて言う。長い前髪がなびいて片目を覗かせている。いつもと変わらずに表情が乏しいように見えて少しだけ優しい笑顔に感じる。

「別にとって食ったりはしませんよ」

彼はまた駅に向かって歩き出した。

「ただ、こないだ陽香さんからもらったデザインの3D作ったんで見てほしいんです。まだ一個ですけど」

「え~!見たい!」

私も駅の改札へと向かう彼を追いかけるように歩き出す。

「そうやってホイホイついて行くのはどうかと思いますけどね」

いつもの憎まれ口は健在で少しだけ安心した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ