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ホタルのようちゅう  作者: つかさ文研
1.矢護陽香
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【松澤という男】

私指名できたその案件は自治体主体の大型イベントのポスター及びHP作成だった。

自治体からの指名ではなく、自治体がお願いしている広告代理店からの指名だった。どうも、去年私が受賞したデザインワークスアワードという賞の作品を見たことかららしい。

今までの仕事が実を結んで得た仕事だからもちろん嬉しい。嬉しいのだが、他にも色々と溜まっているいる仕事もあるため、その仕事とどう折り合いをつけようかと頭の中がグルグルしていた。

「矢護さん、俺このHP制作やりたいっす」

松澤君が依頼内容を眺めながら珍しくやる気を出してそう言う。

「う~ん、私はデザイン担当するだけだからリーダー次第かな?流れ的に八幡さんになるのかな?」

「そうっすよね~」

ため息のようにそう言い放ち、少し苦い顔をしてまたパソコンをカタカタを打ち始める。松澤君は今どきの若者といった感じだが、仕事はちゃんとしていて修正してほしい箇所や、こういう風にしてほしいと説明すると「は~い」とやる気なさそうな返事をするものの、想像通りのものができあがってくる。学生時代から趣味で様々なHPを作成したり、プログラミングを学んでいたようで、社会人一年目にして即戦力になっている。

わりと同じチームになることがあり、それもあって近くの席に座ることが多い。歓送迎会、忘年会などの会社全体の飲み会以外の飲み会と呼ばれるものには絶対に参加しないと徹底している。自分の話は極力しないし、相手のプライベートのことを聞いているところを見たことがない。もちろん、私も聞かれたことがない。プライベートが謎な男だ。


私の職場でのお昼休みは近くのカフェが外で売っているお弁当を買って社内で食べることが多い。周りの人は外にランチに行くことが多いようで、社内には私ともう一人、松澤君が少し離れたミーティングスペースのテーブルで食べているだけのことが主だ。今日もそうで、松澤君はコンビニで買ったアメリカンドッグ、ゼリー飲料、コーラというめちゃくちゃなメニューを食べている。これだけを見ただけでもこの子が普段どんなハチャメチャな食生活をしているかが伺える。

昼食中は会話もなく、オフィスにはコンビニの袋のガサガサとする音だけが響く。そんな少しだけ居心地の悪い空間が一変する。


「おーっす!矢護~!」


大声で八幡課長がオフィス内に入ってくる。私も松澤君も一瞬にしてオフィスのドアを見る。


「やっぱいた~!たまには外に食いに行けよ~」


声のボリュームは止むことなく二人ぽっちだった部屋にはうるさいほどに響く。


「さっきのやつやるだろ?内容的に俺と二人でいけると思うけどどうする?」

私はペットボトルのお茶で体の中に食べ物を流し入れる。

「八幡さんがHP制作するってことですよね?」

「そうだな。自治体系だと変に凝った内容にすると金もかかるし、公務員様には不評だからな。納期も結構時間あるし、二人でいけそうだと俺は思うんだけど。」

「あ~、松澤君入れて三人っていうのはどうですか?八幡さんにはリーダーと調整役でデザインが私でHPが松澤君で」

「別にいいけど。松澤はそれで大丈夫か?」

相変わらずのでかい声で少し離れたところでスマホをいじっている松澤君に問いかける。

「いいっすけど」

こちらも相変わらずの聞こえるか聞こえない声で返事する。


「じゃあ、三人でだな。矢護の推薦なんだから迷惑かけるなよ~」

「はぁ」

松澤君は返事ともため息とも取れる声発する。

「来週、都の広報と代理店担当と初回の打ち合わせあるからラフ案でいいから何個か用意しておいてくれ」

八幡課長はそう言って嵐のように去っていった。


また沈黙が訪れる。


「なんかすいません。俺がやりたいって言ったからっすよね」

この気まずい瞬間を止めたのはまさかの松澤君だった。

「いいよ。松澤君がやりたいって言うの珍しいしね」

「……っす」

聞こえるか聞こえないかの声で何かを言った。多分お礼を言われたのだと思う。

「来週の打ち合わせ行く?」

「行かないっす。デザインの打ち合わせっすよね」

それは行かないのね。顔合わせも兼ねてるんだけどね。まあ、無理強いはしないよ。

もう令和だし。


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