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ホタルのようちゅう  作者: つかさ文研
3.陽香さん
15/33

【寝起き】

目を覚ますと横向きで寝ている私の腹に後ろからお腕を回されていて、バックハグの状態で寝ていた。重いし、お腹のお肉が気になるから、腕を静かに下ろし、ベッドから起き上がる。遮光カーテンからは光の粒がキラキラと漏れ出している。スマホの時間を見ると11時を過ぎていた。シングルベッドに大の大人が二人並んで寝ることの限界を思い知った。疲れが取れていない。腰もちょっと痛い。

土曜日は缶瓶ペットボトルの回収日なのに、もうこの時間ではもう手遅れだった。キッチンに綺麗に並べられているビールの缶と昨夜飲んだいちごのワインの瓶を見てそう思った。

ベッドに目をやるとホタちゃんはまだ寝ていた。普段仕事のし過ぎで週末に寝溜めするタイプなのかもしれない。

洗面所に行きマウスウォッシュでうがいをする。顔を洗い、シートパックを丁寧に貼る。しわがないように綺麗に貼りたいのだが、毎回それは叶わない。キッチンに戻り冷蔵庫を開ける。昨日の残りのお惣菜がところせましと入っている。お茶でも飲もうかなと考えていたら、部屋に続くドアが開く。

「おはよう。ようちゃん、顔怖い」

「はよ~。朝パックだよ~。ホタちゃんもする?」

「しない」

「そう。もうお昼だけど何か食べる?」

「うん。でもちょっと気持ち悪い」

「二日酔い?」

「そうかも。泊まってっていいって言うから飲みすぎたのかも」

「寝落ちできるって最強だもんね」

「それだわ」

寝起きのホタちゃんは少し声がかすれ気味で、ダルそうな感じだった。二日酔いのせいかもしれないけど。外で見る彼とは真逆の無防備すぎる姿だ。

「お茶飲む?冷たいやつ」

「飲む。めっちゃ寝汗かいた気がする」

「ごめん、暑かった?」

「いや、そうじゃなくて」

「さすがにシングルベッドに二人はきついよね」

「それは別にいいけど」

コップについだお茶を二つ渡す。

「持ってって~」

「了解」

半目の状態でふらふらと部屋に戻ってった。寝起きはいつもあんな感じなのかと少し心配になった。

「ローストビーフ丼にする?結構余ってるし。ご飯炊くよ」

部屋のドアを開けて少し大きめの声で言う。

「えっ、最高じゃん」

ホタちゃんはテレビでやってるテーマパーク特集を見ながら最高だと思ってなさそうな声を発する。まあ、作ったら食べるだろと米を炊く。


炊飯器をセットして顔のパックを捨てて部屋に戻ると、ホタちゃんはデスクに乱雑に置かれた本や紙を眺めていた。

「ごめん、そこめっちゃ汚い」

「紙いっぱいあるね」

「紙加工のサンプル全部取ってあるんだよね。印刷で色変わったりするし、質感とか知りたいからね」

「こういうの意外と面白いね」

「実際見ると楽しいよね」

「ようちゃんは今日なんか予定あるの?」

「別にないかな~。明日は新宿にネイル直しに行くけど」

「じゃあ、まだいれるね~」

ホタちゃんは床に座り、お茶を一口飲む。まだ少し眠そうだ。

「ご飯炊いてるからせめてご飯は食べてってよ~」

「なんなら夜までいる気なんだけど」

「いいよ。私絵描いたりしてていい?」

「いいよ、見たい!」

「デジタルのラフ画だけだから見ててもつまんないよ」

「どんなの描いてるか気になるだけだから」

「暇だったらテレビ見ててもいいし」

「あ~、でもパンツ買いに行きたいかも。ドンキとかある?」

「阿佐ヶ谷にはないわ~。荻窪にならあるから頑張れば歩けるかな」

「ご飯食べたら行ってこようかな」

「20分くらい歩いたら多分着くかな~」

「なんか買ってきてほしいのある?」

「あ~、青の絵具~」

「素人にはハードルたけ~」

「ははは。明日新宿行くからそん時に画材屋行くわ」


ベッドを背もたれに二人で並んでテレビを見る。テーマパークの夏イベントの特集で、可愛い女の子たちが踊りながら着ぐるみたちが放水する水を浴びてびしょびしょに濡れている。特に会話もなく、ひたすらにテレビを見る。お互いにテレビの内容が気になって見ているというわけでもなさそう。ホタちゃんはこれをどういう感情で見てるんだろうか。楽しそうなのか、行きたいなのか、女の子たち可愛いなのか、服が濡れててエロいなのか。

ホタちゃんはあんまり性欲強そうじゃないけど。昨日の夜も案の定、特にそういう雰囲気にならずに私がキッチンでコップを洗ってる間にベッドで寝落ちしていた。そこに潜り込む形で私も隣に寝たがキツい狭い痛いの三重苦だった。今日はゆっくりと一人で寝たい。

「ようちゃんはこういうとこ行きたいって思うの?」

「遊園地好きだけど、混んでるのはやだな~」

「あ~分かる。今の時期だと暑いしね」

「でも並ぶ場所の絵みたり映像見たりするのは好き」

「根っからのデザイナーだな~」

「ついついそういうところ見ちゃうんだよね」

ホタちゃんは何が好きなんだろう。昔と同じようにさくらんぼに目がなくて黙ってひたすらに食べるのか。もう漫画はあんまり読まないのかな。こち亀は200巻全部集めたのかな。昔ハマってた街を作るゲームはまだやってるのかな。普段着てる服はどこで買ってるやつなんだろう。平日のお昼は何を食べてるんだろう。毎週会ってるけど私以外に友達いないのかな。家で何して過ごしてるんだろう。

考えてみたら今のホタちゃんのことほとんど何も知らなかった。

惰性で流れるテレビを見てると「あっ」と何かを思い出し、ホタちゃんは部屋を出て玄関の方へ向かった。玄関に置いてある通勤用バッグをガサガサと音を鳴らしている。仕事の何かを思い出したのかと、ご愁傷様とひっそり思っていた。

「ようちゃん、鍵~」

「あっ、は~い」

そう言って手を出した。右手に置かれた鍵は明らかに私の家の鍵ではなかった。

「ホタちゃん、これうちの鍵じゃないけど」

「え、俺ん家の鍵。交換しよう」

「半同棲カップルかよ」

「ようちゃんも来たい時にうちに来ていいよ。汚かったらごめん」

私の絶秒なツッコミは触れられずに流された。

「清澄白河降りたことないんだよな~」

「スカイツリー行った時にでも使ってよ」

東京に住んでたら意外とスカイツリーには行かないよと思いつつ、お互い一人暮らし同士だし、この間の私みたいに体調を崩した時に役立つかと思って右手の鍵をキーケースの余っている金具に差し込んだ。


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