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ホタルのようちゅう  作者: つかさ文研
3.陽香さん
14/33

【誕生日の次の日】

「松澤君さ、誕生日プレゼントだったら何がほしい?」

八幡課長が新しくできる科学館のHPのデザインと一緒にその施設のキャラクターを作るという仕事を取ってきた。もともと絵を描くのが趣味なこともあって、キャラ作りは私の仕事になった。休め休めというわりには次々と新しい仕事を持ってくる。美大出身のせいもあってか、科学には弱い。プラネタリウムもあるし、星関係のキャラクターデザインでいいのかな、少し安直すぎるか。正直手詰まりだった。

「俺誕生日10月っすよ」

「あっ、そうなの?いや、男の人って何ほしいのかな~って」

「えっ?ついにイケメンと付き合ったとか?」

「付き合ってないよ。でも、今週誕生日だから何かしらお祝いはしないと、と思って」

松澤君も意外とこういう俗な話題が好きなんだなぁと少し安心した。全く人に興味がなさそうだったから。

「別になんでもいいんじゃないんすか?」

「そういうのが一番困るんだよ~」

持っていたデジタルペンをくるくると回す。今書いてるキャラはボツだな、一昔前の奇をてらっただけの見た目だ。もういっそ媚びてるあざといキャラクターにするべきか。

「普通にご飯食べるとかケーキ買って一緒に食べるとかだけでいいと思いますけどね」

「まあ、確かに。変にモノあげるよりいいかな。重くないし」

「そうじゃなくて、好きな人だったら別にモノとかじゃなくて、一緒にいられるだけでいいんじゃなすかってこと」

「意外とロマンチストだね」

パソコン越しだから松澤君の表情は分からないけど、なんとなく照れてることは分かった。

「告ったりするんすか?イケメンに」

「しないよ、本当にそういうんじゃないんだよ」

「逆に告られたらどうすんすか?」

「う~ん、分かんない」

「それってどうなんすか」

少し呆れた声で言われた。実際に告白されたら困る。恋人でもない、友達というにはあまりに頻繁に会ってる、この関係の居心地が良すぎるからだ。

それともう一つ、もしホタちゃんにとって私が特別な存在だったとして、それは昔からの知り合いで友達だからな気がする。それを恋愛感情と勘違いしているだけだと思うからだ。今のホタちゃんが私を好きになる理由が見当たらない。


―――


ピンポーン――

家のチャイムの音が鳴る。インターフォンにはホタちゃんが映ってる。

「鍵持ってるんだから勝手に入ってきていいのに」

「そういうわけにもいかないでしょ」


「お邪魔しまーす」

通勤バッグを玄関の端っこに置いて靴を揃える。

振り返ったホタちゃんは袋に入った缶ビールをこちらに見せた。

「ありがて~」

「冷蔵庫入れちゃうね~」

「は~い」

ガサガサと袋とカランカランという音がキッチンからする。

「この間の賞味期限切れの卵まだあるんだけど」

「うわっ!捨てとけばよかった」

こないだは床が荒れ放題だったが、今日はちゃんと部屋を綺麗に片付けた気でいたが、そういうところまでは気が回ってなかった。

キッチンではホタちゃんは手を洗っている。

「暑い?クーラーの温度下げようか?」

「今歩いてきたから暑いだけで、多分そのうち治まると思う」

「りょ」

部屋に入ってきた彼は少し汗ばんでた。今年の6月は特に暑い気がする。もう少しで30度に届きそうな気温が連日続いている。

「ホタちゃんシャワー浴びる?Tシャツとハーパンならあるよ」

「えっ?いいの?もうベタベタで気持ち悪い」

「いいよ、私も帰ってきてからシャワー浴びたし」

「だからスッピンなのか」

「もうホタちゃんには一回スッピン見られてるから何とも思わん」

フフと軽く笑って彼は脱衣所に入った。


タオルで髪をわしゃわしゃと拭きながら部屋に入ってくる。お風呂上りのホタちゃんはに妙に色っぽかった。

「ごめん、ドライヤーの場所分かんなかったよね」

「あ~いいよ、自然乾燥で」

「え~せっかく綺麗な髪なのにもったいない」

「じゃあ、ようちゃんが乾かしてよ~」

「今日だけだよ~誕生日だから」

「誕生日昨日だけどね」

ドライヤーを持ってベッドに座る床にはホタちゃんが座ってる。左手でなぞる髪は細い。

ドライヤーの音はテレビの音も外の幹線道路の音もすべてをかき消した。

男の人は女の人に比べるとやっぱりドライヤーの時間が早い。

「終わった?」

ホタちゃんが振り向く。自然と上目遣いになる。

「うん。ホタちゃん髪細いね。ワックスあんまり効かなそう」

「そうなんだよね。オールバックとかできなくて真ん中で分けてるだけ」

「センターパートも流行りだし、似合ってるよ」

「ありがと」

「ご飯食べよっか?デパ地下でめっちゃ買ってきた!」

ドライヤーのコンセントを抜きグルグルと巻き付けながら立つ。

「やった!めちゃくちゃ贅沢じゃん」

「お誕生日ですからね」

「誕生日昨日だけどね」

「やたら強調するね」

「そりゃそうよ、俺もついに30歳だよ~」

「昨日でも良かったんだけど、流石に木曜は私がキツい」

「まあ、俺も昨日は普通に残業してたし」

「ホタちゃん30歳には見えないから安心しなよ」

「えっ?何歳くらいに見える?」

「28歳」

「そんな変わんないじゃん」

お惣菜をテーブルに次々と出す私に、それの蓋をいちいち取って袋に入れてくれるホタちゃん。割りばしも二膳並べてくれる。一つ一つ、何も言わなくても気遣いがある。

「あっ、ビールといちごのワインってのあったから買ってみたんだけど、どっち飲む?」

「え~いちごかな?可愛いから」

「了解」

そう言ってキッチンに向かう。

「グラス出すよ~!シャレオツなワイングラスとかはないんだけど」

「いいよ、コップで」

基本家ではお酒かお茶しか飲まないからワイングラスなんて、そんなものはあいにく用意はなかった。

一人暮らしの狭いキッチンに二人並ぶと少し苦しさを感じる。


テーブルは今までこんなにフル活用されたことがないほど、デパ地下のお惣菜で埋め尽くされている。

「結構量多いね、食べれるかな」

ホタちゃんは少し心配そうに言う。

「ちなみにケーキもワンホールである」

「絶対無理じゃん」

「明日に持ち越しかな~」

「泊まってっていいの?」

「いいよ」

「いいのかよ」

少し苦い顔をしながら彼は割りばしを折る。なんとなくの自信がある。今日彼が家に泊まっても、同じベッドに寝たとしても色っぽい事情など起こらないと。


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