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追放された荷運び係のところに、竜人がやってきた  作者: 山吹弓美


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32.正体がわかった。そして

「『暴君』て」


 リュントが口にした名前を、思わず復唱する。

 だってあいつは真っ黒な、もっと大きなドラゴンで、そして。


「首、切ったよな? コルトが」


「あ、ああ」


 アードが尋ねてくるのに頷いた。俺だって、囮としてだけどその場にいたんだから……ちゃんと、見ていたんだから。

 大体、今コルトがつけている革鎧は『暴君』の身体を覆っていた皮で作られているもので、剣だってやつの身体から切り取って。


「厳密に言えば、生まれ変わりと言いますか。私も、以前会った仲間から聞いただけなのですが」


 『暴君』らしいドラゴンを見つめながら、リュントは言葉を続ける。以前会った仲間、ということはつまり、他のドラゴンから聞いたのだろう。竜の森にはこいつらやリュント以外にも、大人しく住んでいるドラゴンがいるはずだから。


「ドラゴンが卵生であることはご存知ですよね? エール」


「あ、うん知ってる。知識としてだけど」


 不意に問われて即答する。

 ドラゴンは……そういえば厳密な性別がないとか聞いたことがあるな。いずれにしろ、卵を生んで大事に育てるんだそうだ。

 リュントが女性っぽい外見だったり言動だったりするのは、俺の影響か? 前、そんなこと言っていたような。

 と、チャーリーがちらりとこちらを伺ってきた。あ、もしかしてあまり知られてない話か、これ。


「そうなのか?」


「そうだよ。俺、竜の森の近くで育ったからさ」


「ああ、そういうことなら、ある意味基礎知識だよな」


「そういうこと。で、リュント」


 マジックポーションを取り出して、バッケに渡す。「サンキュ」と一気に飲み干して再び防御魔術を展開してもらい、ドラゴンの攻撃を食い止めた。

 がんがんと、両の爪が振り回される。ひどく手数が増えてるのは、ひょっとして正体を知られたとか思ってるのかね。リュントもそうだけど、ドラゴンって人型にならなくてもこっちの言葉はわかるみたいだし。


「個体にもよりますが、自身が死んだときに自分で生んだ卵が孵っていない場合、そこに魂が潜り込むことがあります」


 ただ、それは俺も初耳だよリュント。というか、人間界にそういう情報持ってる者はいないんじゃないかな? 故郷の村でも聞いたことねえし。


「あ、それで生まれ変わり……って、え」


 アードが話の内容をさくっと理解して、そうしてその意味を、理解した。

 ドラゴンは卵から生まれる。つまり、孵る前の卵の中には小さなドラゴンがいる。そこに、親ドラゴンの魂が潜り込む……とすると、子ドラゴンの魂は、どうなる?


「このドラゴンは、我が子の魂を喰らって成り代わった『暴君』です。ただ、身体は生まれて三年ほどでしょうから以前よりは弱い」


 答え。親は、子の魂を食ってその身体を乗っ取る。リュントはそれを、当然のこととして言葉に紡いだ。つまり、ドラゴンの間では当然のことなんだろうな。ただ、起きる頻度がものすごく低いってだけで。


「要するに、自分の敵討ちにめっちゃやる気を出している、ってことか。こいつ」


「そうなります」


 とん、とチャーリーが前に出た。バッケの防御魔術が効いているようで、ドラゴンと正面から斬り合いできているのがすごい。ぎん、ぎん、がぎんと金属音が響く。


「これは……きちんと倒してやらないとだめ、かな。リュント」


「はい。もう、元には戻りません。食われた子も、食った親も」


 暴走の果てに倒された『暴君』は、残した我が子を食って成り代わった。そうして三年、再び暴走したのかそもそもしっぱなしだったのかはともかく、暴れだした。

 で、退治に来たのが本来の自分を討った『太陽の剣』で……そりゃ、チャーリーの言った通りやる気にもなるわ。自分の敵討ちなんて、めったにできることじゃないだろ。

 けど、人に『暴君』と呼ばれたドラゴンは、後戻りできないところまで来てしまっている、らしい。暴走して、子を食って蘇って、正気に戻ったところで再び暴走するしかないだろうな、これは。

 だったら。


「わかった。やってくれるか」


「おまかせを。エールのお言葉とあらば」


 リュントは俺の言葉に、大きく頷いてくれた。そうして地面を蹴り、自身の爪である剣を大きく振りかぶる。


「きゅおああああああああ!」


 人の声とは思えないほどの、大音量。衝撃波にも近いその叫びは、戦場全体を震わせる。『太陽の剣』たちは……あ、離れたところでひっくり返ってら。防御魔術は効果を発揮してるから、しばらく放っておいてもいいか。


「があああああ!」


「きゅああああ!」


 暴走したドラゴンと、人の姿をしたドラゴンがぶつかり合う。そこにはもう、人間である俺たちは入っていけなくなっている。

 ただ、薄汚れた緑色の身体のあちこちに傷が付き、血が吹き出していくのを見ているだけだ。


「……エール。聞いていいか」


 さらに防御魔術を上掛けしながら、バッケが呟く。「何だ?」と尋ねたら彼は、真顔になって。


「リュント姐さんって、何者だ?」


 そう、聞いてきた。

 何者も何も、リュントはリュントだから。


「俺のパーティメンバーだけど?」


「……そだな」


 そういうことにしとこうか。

 沈みゆく『暴君』の姿を視界の中央に捉えながらバッケは、俺の答えを苦笑しつつ受け止めてくれた。

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