30.焚き付けた
盾を確認し、ドラゴンの意識がリュントたちに向いていることを確認して俺は、洞窟の外に出た。姿勢を低くして、コルトがひっくり返ってるところまで早歩きレベルで進む。
「コルト」
「うぐ……」
あーうん、地面に顔突っ込んだ状態でぴくぴく震えてるわ。何とか呼吸は確保できてるみたいだから、ポーションは一本でいいかな。
コルトをひっくり返して、ポーションの蓋を開けて、その顔にぶちまけた。
ポーション類は飲んでも、身体にぶっかけても効果がある。当たり前のことなんで気にも止めなかったけれど、いったいどんな仕組みなんだろうな。
「て、てめえ!」
まあそういうわけでさくっと回復したコルトが、俺の顔を見た瞬間跳ね起きた。途端、ドラゴンもこちらに気づいたようで視線がこっち見た、気配がする。
「ドラゴンの前でよそ向いてる暇があるのかよ、『竜殺し』」
「えっ」
俺はドラゴンの方に少しだけ意識を向けていたからいいけどよ、コルトは今意識が戻ったばかりだからそうはなってない。なので、やっと視線をふらりと向けて、気が付いたようだ。
ぐわり、と大口を開けているドラゴンの、鋭い牙に。
「ひあっ!」
「きゅあああああん!」
思わず上げられたコルトの悲鳴に反応したのか、同じドラゴンだけれどなんだか可愛らしい叫び声とともにリュントが飛び込んでくる。剣、彼女自身の爪を閃かせその舌先を切りつけて。
「ぐわあああああ!」
「きゅいん!」
思わず怯んだドラゴンの鼻面に、さらに剣を叩きつける。これがドラゴン形態だったら、相手の顔を爪で引っ掻いてる図なんだよな。
……おっと、リュントにばかり戦わせてるわけにはいかないか。コルトの背中を押して、戦場に叩き出してやろう。何かあってもリュントと三人組とポーション、あと女性陣がいるし。頼りになる順番。
「ほれ行けコルト、お前に来た依頼なんだろ。彼女に名誉、取られるぞ」
「い、言われなく、ともっ」
『竜殺し』の名誉にしがみつくコルトは、俺の言葉にかっと顔を赤くした。そうして、ちゃんと回復した全身に力をみなぎらせて、突進する。
「おい、あんた」
がきん、とドラゴンの首にぶつけた刃は軽く滑る。それを気にすることなくコルトは、リュントに声をかけた。あ、あれ、あれだ。
「一緒に、ドラゴンの首切らねえか? それで、俺の仲間として一緒に来いよ。エールなんてほっといて」
「気持ち悪いので黙ってください」
一言でぶった切られた。心理的に。
コルト本人としてはある意味決め台詞らしいんだよね、一緒にドラゴンの首切ろうっての。けど、あいつは知らないけどリュント自身、ドラゴンだしな。
今戦っている相手は暴走していて、そういう奴ならリュントはこうやって戦ってくれる。あまり気分のいいもんじゃないかもしれないけれど……終わったら何か、好物ごちそうしようかな。トカゲのときから鳥の丸焼き好きだったもんな、お前。
「ぐわおう!」
「そういえば。エールも言っていたようですが……あなたの相手は、私ではありませんよ?」
「ぎゃん!」
吠えたドラゴンの下顎に、リュントが下から蹴り上げた爪先がめり込む。うわあ痛そう、人間なら顎砕けてるぞあれ。
ひとまずこそこそ戻りながら、リュントとドラゴンの様子を見てみる。リュントはまあ、どう見ても無傷でぴんぴんしててまだまだ戦えますよって感じ。ドラゴンの方が、かなり追い詰められてるかんじだな。まあ、こっちは集団あっちは一体だし。
「すみませんが、こちらに強力な防御魔術をかけてあげてくださいませんか。ドラゴンと一騎打ちなさりたいそうですので」
不意にリュントが声をかけたのは、洞窟の方角だった。疲れたらしいアードとチャーリーがポーションでさくっと回復し、彼女のサポートとばかりにドラゴンの足止めを文字通りしている。足に同時攻撃をかけて、ひるませたんだよね。
で、リュントの言葉にラーニャが反応した。涙目で、両手を突き出す。あ、魔力で光った。
「わわわわかりましたあああ! 守れ守れ守りまくれ剣士を!」
「俺もかけとこう。守れ守れ、ドラゴンと一騎打ちするすごい男!」
便乗してバッケも防御魔術かけてるし。あと、二人とも詠唱おかしくねえか? まあ落ち着け、と言いたいところだが……というところで俺は何とか、洞窟の中に戻れた。
「……あれでかかってるのかな」
「問題なくかかっている」
俺の独り言に、呆れ顔のフルールがボソリと答えてくれた。あー、かかってるのか。なら、大丈夫だろう。




