29.回復させて復帰させた
「おご、ご」
地面に突っ伏してぴくぴく震えているコルトには、ドラゴンはすっかり興味をなくしたらしい。振り向いて再び、リュントと鍔迫り合いを繰り広げている。……何か違うけどまあ良いか。あのドラゴンも人型になれば、爪は剣になるんだろうし。
「おいおい、あれ本当に『竜殺し』か?」
「少なくとも、『暴君』の首取ったとこは俺見たぞ」
バッケが雷魔術でリュントのサポートをしながら言うのに、一応フォローは入れてみる。ま、実際見たし。
そしたらバッケは、本気で呆れ顔になった。
「それ、この御一行がお前のこと盾にしたからだろ」
「あんた、何言ってんのよ!」
「そうよ! そんなこと」
「『暴君』倒して帰ってきて、ギルドそばの酒場で酒盛りしてたときに大声で喚いてたじゃねえか。うちには何にもできないけど一流の壁役がいますよーって」
力任せに雷をぶっ放したガロアと、マジックポーションを飲み干したラーニャがさくっと顔色を変えて反論しようとしたところに、さらにバッケの台詞が続く。何とか起き上がれたフルールの顔色については、いままで死にかけだったからと思っておこう。
外でひっくり返ってるコルトを、アードが足つかんで引きずって洞窟の中に戻してくれた。ラーニャの前にポイ、と放り出されたので回復してもらえるだろ……と思ってたところでどうやらアードも今の話聞いてたらしく、言葉を続けた。
「サラップ領の冒険者ギルドに当時所属してた面々は、ほとんど聞いてるぜ? ギルマスもな」
『えっ』
「ただ、『暴君』を倒したのは事実っぽいんでギルマスもしばらく様子見っつってたぜ。……その後、こいつらも俺らも増長しちまったわけだけど」
「しばらくって、三年もかよ」
「本人であるお前さんが訴えてたりしたら、違ったんだろうけどさ。あ、でも『魔術契約書』じゃ無理だわな」
「ああ、そういう」
なるほど。俺が何も言わないから、本人納得の上でやってたんだと理解されたわけだ。で、先だっての追放絡みで多分バレたんだろうね。俺が抜けた後もそのままの実力なら、何も問題はなかったわけだし。
さて、洞窟内のお三方は回復できたんで、後は外だな。リュントの盾になってもいいけど、ただ邪魔なだけになりそうなんだよね。そうすると……コルトだけ拾って戻るか?
「なんでも構いませんが。『太陽の剣』の皆さん」
がいん、と金属音が響いたのに重なってリュントの声が飛んできた。
リュントの代わりにアードとチャーリーがドラゴンとぶつかっていて……おー、何か押し戻してるように見えるぞ。『暴君』相手にしてたときのコルトみたいに。
「『竜殺し』コルトとともに、あなたがたはヒムロ伯爵領側からの依頼を受けてドラゴン討伐に来たのですよね? 回復したのですから、頑張ってくださらないと困ります」
それはそうと、リュントの言葉はある意味正論なんだけど、おい。
いやまあ、確かにドラゴン討伐の依頼を受けたのはコルトたちだしなあ。しかも名指しで、直接。
「こ、困るって」
おろおろしながら、ラーニャが後ずさる。お前さんは戦闘力、俺以上にないもんな。コルトが下半身で勝ち取ってきたもんだから、俺より大事にされてただけで。
その辺をリュントは知らないと思うが、正直関係ないだろうな。知ってても、多分同じような行動に走るだろう。
「魔術師、聖女、剣士。特に問題ないでしょう? ほら、出番ですよ」
「きゃああっ!」
「何するんですか、わあ!」
「わ、私はたった今まで、死にかけ」
洞窟の中に入ってきて、ガロア、ラーニャ、フルールの順に持ち上げてぽいぽいぽいと外に放り出した。適当に、近場にいた順だと思うけどね。
それからフルール、お前治ってんだからいいじゃねえか。
「『レッドヘルム』のとき、俺の腕折れてたの回復させずに奴の前に押し出したの誰だよ」
「っく」
覚えてるぞー。巨大人喰いウッドベアの討伐のとき、しっかりやってくれたの。
終わったあとで「事務処理とかやってもらうため」にラーニャが回復させてくれたけどな、うん。
「リュント。コルト回復させてくるね」
「あのままでも良い気がします、がっ」
いや、そう言うわけにもいかないだろ。
いま一瞬だけリュントの声が途切れたのは、洞窟の外に飛び出してドラゴンに飛び蹴り食らわせたから。見事に下顎にヒットして吹っ飛んでるのが、さすがドラゴン対決だよなあ。俺と本人以外知らないけどさ。
「一応、あいつがリーダーで受けた依頼だしな。体裁くらい保っとかないと」
「な、何を言ってるんですか! 守れ守れ、私を守れ!」
「穿け穿け、敵を撃ち抜け雷よ!」
ラーニャが必死に防御結界を展開し、ガロアが雷魔術を放つんだけど……あんまり効いてない気がする。リュントの飛び蹴りのほうが効果的に見えるんだよな。
それと、アードの鉄拳とチャーリーの剣のほうが。
「おらあ! てか、まだ動くのかよ!」
「ドラゴンて、結構タフらしいからな!」
「そうですよ! ドラゴンは、とってもタフなんですからね!」
リュント、自分で言うな自分で。




