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朝は君と笑おうか  作者: 三鷹紀太郎
1/1

続きです

序章

君は学校が好きだろうか、大概の人間は口を揃えてこういうだろう、好きか嫌いかで言えば好きな方だとなぜこのような言い回しになるのかは明白だ、学校は面倒でしょうがないからである。どちらかと言って好きそれは部活、恋愛、学業、それらが高校生活の枠組みでのみ青春という名の魅惑的な香水となっているからだ、僕から言わせておけばこんなものはタバコやお酒コーヒーなどといった嗜好品と大差はない。彼らがなぜ面倒な学校生活に精一杯勤しむのかといえばそれは彼ら若者は各々の八十年と長い人生の中で唯一嗅ぐことが許されている香水だからだ。彼らはいずれにしても無意識だろうがそれを知っている。時が経てばいずれ消えるこの香水には異様なほどの中毒性とどうしようもなく脳裏に染み込みまるであの頃を忘れるなといった。ある種の浮遊した意識のような性質さえ兼ね備えている。本当に意地の悪い。令和から平成になった今でさえあの頃の、平成の高校生は輝いて見える。あの頃に帰りたい。などという意見を耳にしたのも記憶に新しい。本当にどうしようもない。もしブランド店に青春という名の香水が売っていようものなら即刻完売だろう。さらに青春には最も質の悪い性質がある。それは自らがそれに大きな憧れを植え付けることだ。まだ青春の一文字さえも知らないような子供にさえ「コウコウセイハキラキラ」なんて魅力を植え付けてしまうのだ。本当に恐ろしい事この上ない。


ぢ上の理由から私の答えはこうだ、だったらいっそのことそんなものは知らなくて嗅がなくていい。  

                                 大空 朝日

放課後の教室、それを聞いて皆は最初に何を思うだろうか、夕日に彩られ橙色に輝いた教室、運動部の練習の掛け声、そんなことを想起させるのではないだろうか、しかし今この瞬間俺がいる教室にはそんな青春真っただ中の美しい景色とは程遠いドス暗く重苦しい空気が漂っている。聞こえてくるのは運動部の生気に満ち溢れた声ではなく、嫌悪ががひしひしと伝わるような溜息だ。

いつもながらにやってしまったと心の中で酷く反省したがもう遅い。先ほどまで楽しそうに各々の作文を朗読していた者たちは皆視線を床に向けている。

先ほどまで仲良く談笑していたのは同じ文芸部に身を置き青春を共に謳歌する仲間たち、、、ではなく単なる部活仲間たちだ。といっても俺はただ文字通りこの部に身を置いているだけの幽霊部員だ。今日は夏休みが終わり二年生の新学期初日ということでまだ部に馴染めていない一年生の為に親睦会という意味合いを含めた集まりらしい。

同じ部に所属していて俺の唯一の友人、片瀬唯と朝倉海斗は俺にこう言ったのだ

『今日は部の皆で暴露会をやろうと思っているんだ。話すことは何でもいいぞ、実は俺はゲームが好きで、なんて話でも全然いいぞ、ただし俺らも一応文芸部だからな話を面白おかしくしてもしてもいいし、昔あった悲しい出来事の話なんかでも何でもいいぞ、まぁとにかく小説チックなものになっていれば大丈夫だ』

なんてやけに白い歯を輝かせながら半ば強引に誘われた俺は自信たっぷりの力作を書いてきたつもりでいたがどうやら今回もまずったらしい。

俺の左右隣に座る海斗と唯は俺の肩に手を置き申し訳なさそうに瞳を潤ませ口元に手を置いている。

『や、やめろ、そんな目で見るんじゃない、ちゃんとした説明を受けなかった事に関しては物申したいことはあるが、さすがに俺もいろいろと正直に書きすぎた』.

俺は唯と海斗の手を優しく払い、彼らの視線を背中で感じながら部室を後にした。


常々思うことがある。なぜ俺は周りと合わせることができないのか、同じにになれないのか、中学生まではそれでよかった。俺は俗にいうクラスの人気者だったから友人、人間関係、恋愛、青春これらに困ることは一度もなかった。ただ気ままに自分のしたいように日々を過ごし共に笑いあえる仲間との日々が続けばいいなんて思っていた。

 しかし中学三年の夏休みが終った新学期の初日、意気揚々と登校したはいいものの教室には何とも言えないような俺に対する疎外感を感じずにはいられなかった。今朝だっていつもならば真っ先に俺に駆け寄り話しかけてくる有象無象も今日は話しかけてこない。それどころか妙な冷たい視線を教室のどこにいても感じる。誰かに聞こうにも俺は今まで皆の愛想のよさそうな表情しか知らなかったため、俺と目が合うたびに見るからに怪訝そうな表情をする彼らと話したことはない。自分にも全く理解できない異常事態に俺はいったいどうしていいのかわからい。夏休み前とは打って変わってしまった俺への態度、皆に嫌われるようなことをした覚えは一つもない。一日中考えていたが答えのでないまま最後の授業のチャイムがなった。俺は一刻も早く帰ろうと思い席をったその時本日初めて声を掛けられる。

『見損なったよ、朝日』

そう言い残して視界から消えたのは俺の親友で俺の次には人気者であったであろう男、彼は心底理解できなかったがあの男が俺に言い残した時のあの目は、軽蔑、憎悪それらが本気で伝わってきた。何より驚いたのは当時付き合っていた彼女が俺のことが全く見えていないような素振りでその男の腕にピタッとついて俺がよくかけられた甘い声を出している。彼女にとって俺はもう透明人間だった。

俺はその時事の大きさと異常さを本当の意味で理解した。それからの日々は今までとは百八十度一変、俺に話しかけてくる者、俺に近づく者はもういない。唯一、海斗と唯だけは俺を心配してか何度も話しかけてきてくれたが俺はそんな二人の優しさを無下にしてきた。俺の周りに残ってくれた唯一の親友二人とすらも必要以上の会話はしていない。

俺はあの男の軽蔑の目が忘れられない。俺をいない者として扱った彼女の視線を忘れられない。もしも海斗、唯からも同じような悪意をあの目を向けられようものならと考えずにはいられない。だから俺は距離をとった。必要以上に距離をとったのが功を奏したのか俺がなぜあんな目にあったのかの理由についてもあの日から分からづじまいでいる。

親友としては適切な距離、関係とは言えない間柄の俺たちだが必要以上に距離を取ろうとする俺を気にしてか同じ高校にまで来てくれた。本当に感謝している。今も彼らはきっと下級生からの矢面に立たされているだろう。『なんであの人はまだここの部員なんですか!』とか『先輩方が仲良くしている理由がわかりません』とかそんなとこだろう。

夕日に彩られ美しい模様を写す雲を見上る。あの日の空もこんな空色だった。

『さて、気分転換に図書館でも寄って帰るか』

家までの帰路を歩く時間は十五分ほどしかない。何とも毎日代わり映えしない帰り道だ高校生が学校帰りに良く行くカラオケやスタバなんかは何もない。俺の帰り道にある娯楽施設といえば病院内にあるコーヒーショップやここら近所のご老人たちが通う食堂くらいだ。皆に嫌われているとか避けられているとか以前に俺を誘ってくれたところで俺には学校帰りに行けるところがない。

そんな言い訳まがいな事を考えながら図書室に向かっていると聞きなれた声が俺の名前を呼んでいた。

『朝日―、待ってよ』

どうやら唯が俺を追いかけてきてくれたらしい。唯は相当急いできたのか乱れた呼吸を膝に手を当て整えている。改めてよく見ると中学の時に比べてものすごい成長ぶりだ。身長や体格もそうだが、昔はいつもやたらと長い前髪に隠れていた茶色がかった大きな瞳、ひと際目立つのは今では大きく成長した胸、ワイシャツは谷間が見えるほどに開いている。彼女のこの外見の変化は自分に自信がついたことへの現れだと思う。

しかしそのせいで同級生のみならず下級生までもの注目の的になり陰ではビーナスだなんて呼ばれている。本人も相当困っているようだ。それは海斗も同じで高身長の優しいイケメンへと変貌した海斗も中学の時とはえらい違いだ。部員のほとんどが女性なのも海斗に起因しているだろう。

『先に帰らないでよ、今日は一緒に帰ろうて言ったじゃん』

『先に帰るも何も俺とお前、校門出てすぐにさよならだろ』

『久しぶりに朝日の家でゲームしたいの』

唯は腰に手を当て何とも偉そうに鼻を鳴らしている。その姿はいつも教室で話すような聖女の面影は見られない。どちらにせよ俺の知る中学生の唯は根暗で臆病でその上泣き虫、そんな奴だった。

『俺の家になんて来たらクラスで変な誤解されるぞ、唯が俺をこう誘ってくれるのは嬉しいが』

『べ、別に誘ってないわよ!、 ただゲームがしたいってだけよ』

『だからゲームに誘ってくれてるんだろ?』

唯は顔を赤らめ必死に弁明するが俺には慌てている理由が思いつかない。

『俺の事心配して一緒の高校に来てくれたのは嬉しいけどこの学校には同じ中学だった奴らもいるだろ。あんまり俺と一緒にいるの見られると面倒なことになるぞ』

『私はただ朝日と同じ高校に行きたかっただけよ、、、、』

唯は口を尖らせ小声でブツブツと何か言っているが、俺は背を向け手を振った。

『ちょっと待ってよ朝日、何度も言ってるけど私と海斗は朝日のあんな噂を信じてないよ、だって、、、、、、、朝日があんなことするわけないもん、朝日が女の子にぼ、、、、、、、』

俺は唯の言葉に耳を塞ぐ、あれから一年半、何度か耳に入りそうだった言葉、俺がいったいどこの誰に何をしたのかその真相を知りたいという気持ちはある。実際、俺が意識しないうちに誰かを傷つけたのかもしれない。それでも俺は自分自身の不透明な責任から逃れ続けたい。そんなどっちつかずの考えが俺の中でこの一年半もの間駆け巡っている。

『朝日、、、、、』

『悪いな、唯、わざわざ俺なんかにかまって棒に振ることはねーよ』

俺に何か言いたいそうに涙目で手を伸ばすが、そんな唯を背にして歩き始める。


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