せんせいのコイビト
日曜日はせんせいに会えないからつまらない。
友達とショッピングモールで遊んで、楽しかったけど物足りない帰り道。
ぶらぶら歩いてると、あたしの目がせんせいを感知した。あたしの目は視界180度の中にせんせいがいると、敏感に察知するのだ!
カフェの窓ガラスのむこうで、誰かとおしゃべりしてた。
相手は綺麗な、大人の女のひと。
誰──?
せんせいは独身だ。
妹さん……に、あんな顔……しない。
友達?
誰なの……?
せんせいの私服姿を初めて見た。いっつも白衣を着てるとこしか見たことがなかった。だらしないといってもいい格好。ヨレヨレのシャツに、安そうなジーンズ。
そんなだらしない格好で会えるほど、気心知れた仲なの?
せんせいが照れ臭そうに頭を掻いた。
みっともないほど崩れた笑顔。
女のひとが、褒めたらしい。
よほど嬉しかったの?
帰り道が、ぶらぶらから、とぼとぼになった。
♥ ♥ ♥ ❥
次の日、学校で、せんせいのいる生物学室に、あたしは行けなかった。
昨日の女のひとは誰? なんて、聞けなかった。
机に突っ伏して昼休みを過ごした。
放課後にとぼとぼ廊下を歩いた。
歩いていると──
「小池!」
せんせいがあたしを呼び止めた。
怯える子犬みたいに固まったあたしに、せんせいがカツカツ靴音を立てて、近づいて来た。
「どうしたんだ?」
「どうした……って?」
「いっつも生物学室に遊びに来るのに、今日は姿も見せないから心配したぞ?」
「あうぅ……」
「元気ないな? 熱でもあるんじゃないか?」
「さっ……、触らないで!」
「……小池?」
聞けなかった言葉を、口に出すしかなかった。
「昨日……見ました。カフェで……女のひとと、いるとこ……」
「えっ!?」
ひどい驚きよう。
「み……、見られてたのか」
「綺麗なひとでしたよね」
答えが怖かった。でも、聞かないと、いつまでも宙ぶらりんだ。
「……誰ですか?」
せんせいが、とっても言いづらそう。
悪い予感がどんどん膨らむ。
あたしが泣いて駆け出しかけた時、頭をくしゃくしゃしながら、せんせいが言った。
「電話がかかって来て……な。前に……その、英語の教材を買おうと思って……、でもやめたんだけど、でも。会ってお話だけでもと言われて、行ってみたら、やっぱり高くてやめたんだ」
ぶっと、あたしは吹き出した。
「笑うなよ」
「アハハハ」
「笑うなって」
「明日からまた行きまっすー!」
そう叫び残してあたしは玄関までの廊下を駆け抜けた。
♥ ♥ ♥ ♡
その夜、いつかせんせいと帰り道をらぶらぶ歩く夢を見た。