1 発見
新シリーズ少しだけ書きました〜
「ハア……ハア……」
どれくらい走っただろう。
暗く、不気味な臭いと音が絶えず追いかけてくる森の中をがむしゃらに逃げ回ってとうに時間も忘れてしまった。
俺の家系が何世代もかけて探していたものを見つけたところまではいいのだけれど、今のところそれを我が家の土産話にする前に俺の首が追手たちの土産になってしまいそうだ。
──新神聖国ファヴ―ル。
【竜の涙】が体に流れ、俺たちでは到底想像もつかない【魔法】を使う人間たちが現在住んでいるとされる場所。
数百年前のロア事件での大量虐殺をきっかけに滅んだとされているけれど、両親の研究によってまだ生き残っていると結論付けられていた。
しかしロア事件の影響で、例の血が流れている人間たちを忌み嫌っているためにその説を信じる者は周辺の町にも俺の故郷にもおらず、人類史上最悪の研究とまで罵られ異端者として扱われるようにもなってしまった。
ただ自分らの研究結果が認められたいという一心だった……らしいけれど、彼らが生き残っているという説を唱え続けた両親は数年前に物盗りに殺された。
俺は両親の研究の無念を晴らすため、彼らがまだ生き残っていることを証明しようとあらゆる手を使った。
しかしこの広大な世界から絶対にバレないように隠れて暮らす種族を探さなければいけないことは予想以上に困難を極めた。
しかし一週間前、俺の下へ代々伝わる言葉「ダアト」と書かれた手紙とファヴ―ルへの手がかりの二通が突然転がり込んだ。
すぐさま荷をまとめて家を出た俺はそのまま家も命も友人も捨てる覚悟で旅に出た。
その甲斐があってか、世界樹大森林の中についにファヴ―ルを見つけだすことに成功する。
見つけた当初は実感はわかなかったけれど、魔法使いが空を飛び魔法を扱う国をこの目で見て湧き水のように今実感を得ている。
……ところで俺の家系はどうして彼らを探そうとしたのか。
探していた先祖も両親ももういないからその理由も分からないし教えてもらった記憶もない。
しかしこれだけは分かる。両親の研究は無駄ではなかった。
そして、純粋に彼らの使う魔法という技術を見てみたい。
そう、俺は竜の涙とか、血とか忌み嫌いあっているとかはどうでもいいんだ。
世界中を歩き回って、いろんな技術を手に入れはしたものの失ったもののほうが大きいし、何より俺が想像する魔法とは程遠い。
「自分がなぜこの場所を探しているのか理由もわからないなんて、ちょっぴり可哀そうで愚かね」
「なんだと……!?」
気づけば俺は動く木に手足をからめとられて自由を奪われていた。
もがけばもがくほど締める力は強くなっている。
なんなんだこれは!?
「その木は混血のお前たちが惜しみなく切り取って無駄にしているただの木よ。違うところと言えば世界樹の加護を受けているだけ。お前をこの森から排除しようとしているのよ」
「それは手厚い歓迎だ……がッ」
冗談を言ってみるけれど木は笑顔の一つも見せず俺の口を塞いでくる。
「……この場所を見つけられたこととこの状況で冗談が言えるなんてね。でもそんな冗談よりお前が死んでくれることの方が笑えるわよ、さよなら」
ローブを着た魔女が懐から杖を伸ばして軽く振ると、その周りに光の玉が集まっていく。
綺麗だと思うことができたのも束の間、激痛に体を貫かれ体がミシミシメキメキと聞いたことのない悲鳴を上げた。
それこそ木の枝を折るように俺の体は絞められていく。
悲鳴をあげようとしても首が絞められているせいで擦れた声しか出ていかない。
ローブは杖を振り続けながら呟く。
「いったいどうやってここが知られたの……?」
意識がチカチカと炎が揺らめくように点滅する、ばたつかせていたはずの足はいつの間にかくっついているかどうかも分からなくなり、激痛で強張らせていたはずの体からは痛みが引いて力が抜けていく、手先が冷たくなる、段々と両親の顔が浮かび上がってくる、頭がぼうっとする。
死。
全てを失っている俺に帰る場所もない。
このままこの気持ちのいい眠りに身を任せてもいいかとも思った。
しかし俺の生存本能はそうさせなかった。
「ダ、アト……」
舌も回らず口も動かなかったけれど、肺を絞りに絞って羽根一枚動かないような息遣いで呟いた。
手がかりとして送られてきた言葉。
多分これが合言葉か何かなんだろう。
「は? 何それ」
……あれ。
抗いようのない眠気に暗い海底に引きずり込まれるように意識が消えていく。
そうか、これが、永遠の眠りにつくという、感覚。