『建国祭 美魔女VSサキュバスクイーン』
「みなさん、指示に従い教会もしくはギルド館へ避難してください!」
ガルフがルーベリアと戦っていたとき、ナミラたちは市民を安全な場所へ避難させていた。
他の兵士や冒険者らも協力してくれていたが、返り討ちに遭ったガルフの姿に群衆はパニックを起こしていた。
「こ、こっちに来たぞ!」
ルーベリアが満面の笑みで飛来し、広場の上で止まった。
「俺が迎撃に出る! みんなは」
「『私に夢中になって!』」
ナミラの指示が終わる前に、ルーベリアは両手を広げてピンク色の粒子を撒いた。
「なんだ?」
それは霧の如く王都を包んだが、視界を遮るほどではない。
「ルーベリアさまあー!」
「すてき! きれい!」
しかし、人々に与える影響は絶大だった。
誰もがルーベリアに羨望と好意の目を向ける。そしてそれはダン、デル、アニ、モモの四人も例外ではなかった。
「あーっはっはっは! そう、私はなにより美しい魔女! みんな私に夢中になってえええええ!」
王都を見下ろし、ルーベリアは喜びの声を上げた。
「お、おい! みんな、しっかりしろ!」
ナミラは仲間たちに声をかけるが、まったく反応がない。
「……サキュバスの魅了と似ているな。俺が無事なのはアルーナの耐性のおかげか」
ナミラは意識を集中させ、解析を行おうとした。
「……『風の刃』」
「っ!」
しかし風の斬撃が襲いかかり、咄嗟に後ろへ飛んだ。
上空のルーベリアが、冷めた目でナミラを見下ろしていた。
「本当に可愛げのない子。なんなのお前」
不快感を隠そうともしないまま、細い指がナミラ差した。
「みんな、あいつを殺して? 殺してくれた人には私、キスしてあげちゃうわ」
甘いささやきに誰もが従い、街中からの殺意がナミラに向けられた。
「マジかよおい」
一般市民はまだしも、操られているとはいえダンたちの実力は油断ならない。
他にも武装した兵士や冒険者がいる中、怪我を負わせずに立ち回ることは、ナミラにも至難の業だった。
「「ガァァァァァァ!」」
周りにいた全員が襲いかかる。
ナミラは多少の怪我はやむ無しと決め込み、闘気で迎え撃つつもりだった。
「……あれ?」
しかし直前になって洗脳が解け、人々は正気に戻った。
「これは!」
ナミラが声を上げる。
立ち込める霧とはべつに、いつの間にか桃色の光が王都を包んでいた。
「あらぁん、失礼しちゃうわねぇ〜。この私より美しいって言うのかしらん?」
「だれ!」
空で響くもう一つの甘い声。
ルーベリアとは違い、生来持った人を惑わす力が、言葉のひとつひとつに込められている。
「サキュバスクイーンの目の前で人を魅了するなんて、いい度胸してるじゃない」
黒翼を広げ、マーラがルーベリアと対峙する。
照らす光はマーラが放った魅了の力で、ルーベリアのものと拮抗しその効果を相殺していた。
「マーラ!」
「ナミラ様、ここは私が! はやく避難を終えてくださいませ! この霧は恐らく、白魔法の結界で防げますので」
「でも……お前はっ!」
ナミラはマーラの身を案じたが、覚悟を決めた視線を返された。
ナミラに与えられた力は半分もなく、クイーン本来の強さには遠く及ばない。ここまでのルーベリアの実力から考えても、勝てる見込みはなかった。しかし、魅了を相殺できるマーラしか時間を稼ぐことができないのも、紛れもない事実であった。
「……すぐに戻る! 死ぬなよ!」
「もちろん。まだみんなで踊ってませんもの!」
ニッコリと笑い、マーラは愛しさを込めた瞳でナミラを送り出した。
「邪魔しないでよこの淫魔風情があああああ!」
「あらあらぁ〜ん? きれいなお顔が台無しよん、この小娘」
二人は凝縮した魔力を纏い、王都の空で縦横無尽にぶつかり合った。
背中に激しい戦いの波動を感じながらも、ナミラは決して振り返らない。胸のブローチを取り、天に掲げて吠えた。
「我々は王から特権を与えられし者である! 指示に従いすぐに避難を! 兵と冒険者は同行し、白魔法での守護を行え!」
腹の底に響くナミラの声は、人々を有無を言わさず動かした。
「ダンは南デルは北、アニは西の教会へ護衛を。モモはガルフ様のところに。無事なら連れてきてくれ。俺は東へ行く」
四人は頷き、すぐさま行動を開始した。
ナミラたちは人々を誘導し、モモは杖に跨ってガルフが落ちた場所へ飛んだ。




