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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二部三章 王都動乱
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『建国祭 魔族の準備』

 王都セリアルタを暗雲が覆い、雨を降らせて三日三晩。

 その間、人々の心にも暗い影が落ち一部では窃盗や暴力沙汰などの混乱も見られた。


 しかし、今日。

 分厚い雲の切れ間から日の光が差し込み、街中に貼られた貼り紙を照らした。

 レオナルドの一件で誰もが今年はないと思っていた、建国祭開催の知らせである。

 左大将軍不在の不安がありつつも、王都に住む人々には久しぶりの笑顔が戻り来たる祭りの準備を始めた。


 そしてそれは、ナミラたちも例外ではない。


「そこのナーガのお姉さん、もっと体をくねくねさせて。魔人の子、恥ずかしがらないで笑顔笑顔。マーラさん及びサキュバス! 変なアドリブ入れない! 脱ぐな!」

「……なんだこれは?」


 地下下水道の秘密部屋にやって来たアレクは、目の前の光景に固まってしまった。

 アニの熱血指導の下、魔族の女性や子どもたちがダンスレッスンに励んでいた。モモはさらに小さな子どもたちに魔法を見せてやり、そばではダンとデルが楽器や寸劇の指導に当たっている。


「お、来たか」


 アレクに声をかけたナミラの体には包帯もなく、顔色も戻り傷の完治が伺えた。


「ほら、今朝早くに建国祭の知らせがあっただろ? 時間は一週間しかないけど、テーベ村名物こども楽団の歌と踊りを披露しようかと」

「魔族たちとか?」


 アレクは目を丸くしたが、伝わる熱気から本気であることが感じられた。


「あぁ……この機を逃すなんて、可哀想だからさ」


 真剣に稽古に打ち込む魔族たちは、三日前に出会ったときとは別人のように生き生きとしていた。

 体つきがあるべき姿に戻り、動きにもキレがある。


「しかし、見た目と体力が戻っただけなんだろう? 本来の力には程遠く、固有の能力も失われたままだと」

「あぁ……俺の【前世】やモモの【無限魔力】を使っても、これが限界だった」


 ナミラは悔しさに歯を食いしばった。



 三日前。

 ナミラはその場にいた魔族全員に触れ、すべての者から前世を得ることができた。しかしそれらは、魔族の全盛期と呼べる数万年前の者たちであった。

 故に、現状の悲惨さが色濃くなる。魂に刻まれた数多の魔族が嘆き悲しみ、ナミラはしばらく泣き続けた。

 その後吸血鬼の秘術などを使い、魔族たちに力を分けた。リソースにモモの魔力を使わせてもらったため、魔族たちは本来の力を取り戻すことができた。


 はずだった。

 

「なんだこれは!」

 

 ナミラが思わず声を上げる。

 魔族たちの体に満ちた魔力や生気が、みるみるうちに減っていく。

 その現象に、誰一人として例外はなかった。


「まさか」


 ナミラは悲痛な表情でマーラを見た。

 悲しげな微笑みを浮かべ、他のサキュバスたちと並び立っていた。


「……はい。いただいたお力は、すでに半分にまで減りました。この子たちに分けることはできましたが、新たなサキュバスを産むまでは……」


 拳を握りしめ、ナミラは爆発しそうな怒りを堪えた。

 

「ふざけるなよ……こんなことが」

「十分でございます」


 体を満たす充足感に涙を流しながら、シャラクが首を振った。


「これだけの力です。体力と姿だけなら一年は保つでしょう。それだけでも奇跡でございます。かつての栄光の片鱗が味わえるのですから。全盛を知らぬ子らにも、本来の魔族を教えられるというもの……魔王というものは、やはり我らで見繕うものではないようです。ですが、ここまでの奇跡を与えてくださり、本当にありがとうございます」


 心の底からの感謝を抱き、魔族たちは頭を下げた。


 その姿を、人間の少年少女は目を逸らさずに見つめる。

 胸に灯った名付けられない感情に戸惑いながら、魔族たちを責める気にはなれなかった。


 だが、ナミラだけは激しい怒りに震えていた。

 未だ分からぬ原因と救いきれぬ自分の不甲斐なさに。

 そしてなにより。

 なぜかはっきりと感じる、この現象を引き起こした正体不明の人物に対して。



 ナミラの怒りの炎は三日経った今でも燃え、魔族たちの生活の面倒を見ながら情報収集に勤しんでいた。


「……分かった。俺のほうで、ステージ参加の枠を確保しよう。だから、そんな顔をするな」


 アレクはナミラの肩を叩き、笑いかけた。


「ありがとう。だけど、なんか意外だな。アレクがこんなに素直に協力してくれるなんて。魔族の存在も、秘密にしてくれてるんだろう?」

「……正直に言うと、俺も四勇士も魔族への偏見が無くなったわけじゃない。平民云々とはまた違う。まだ受け入れられないことはあるんだ。だが」


 一生懸命に汗を流す魔族たちに、アレクは遠い目を向けた。


「初めて会ったときの彼らと、我が王家を重ねてしまったんだ。一歩間違えれば地位など簡単に崩れ去り、地下に身を潜めるようになる。種族そのものを背負う彼らとは規模が違うかもしれないが、なんだか他人事とは思えなくてな」

「……そうか」


 ナミラはグレイヴとして出会った頃からのアレクの変化を嬉しく思い、肩に置かれた手に自分の手を重ねた。


「で、今日はなんの用だったんだ?」

「おぉ、そうだ。お前を呼びに来たんだよ。父上がお呼びだ」

「そろそろ来ると思っていた。すぐに行こう」


 ナミラはアニたちにその場を任せ、アレクと共にタキメノの屋敷へ向かった。 


「この三日会えなかったが、こっちでも色々あったんだ。道中、それを話したい」

「うん。特にあっちの話は詳しく聞きたいな」

「あっち?」

「サタナシア皇女のことだよ。ガルフ様に聞いたぞ? 最近、毎晩通い詰めてるらしいじゃないか」

「なっ……」


 思わぬところをイジられ、アレクは顔を赤くした。


「……気をつけてな」


 どこからか、三日前に聞いた低い声が聞こえた。

 しかしナミラにしか聞こえないその声の主は姿が見えず、ナミラは再び気のせいだと思い、先を急いだ。

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