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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二部二章 思惑の乱立
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『出会って五秒でおっぱい』

 闇猫に殺されかけ、呪いを解いたあの夜から二日後。

 ナミラは、自室のベッドで目を覚ました。

 傍には泣き腫らした目のファラがおり、息子の声を聞くとさらに号泣した。心配をかけた罪悪感と共に、これから始まる病床生活の喧騒を覚悟したナミラだったが、予想はさらに上をいく。


「「「ナミラーーーー!」」」


 目覚めの知らせを聞いて、授業をサボった友人たちが押し寄せてきたのだ。


「ナミラ……本当に心配したんだからね!」

「よ、よかった……ほんとに、よかったよぉ」

「ありがとう。アニ、モモ」

「まぁ、俺様は心配なんてしてなかったけどな。全然、なんにも」

「ダンちゃんったら、この数日寝ずに祈ってたんだよ?」

「言うなっ!」

「はははは、ありがとう。団長、副団長」


 騎士団の仲間たちは、ベッドを囲み思い思いに無事を喜んだ。 

 まだそのときは体の自由が効かなかったナミラは、微笑んで気持ちに応えた。


「……で、アレクはなんでへたり込んでるんだ?」


 目だけ動かし、ナミラは部屋に入ってすぐの場所に座り込むアレクに声をかけた。


「お、お前がっ、俺と別れてから死にかけたって聞いて、どれだけ心配だったと思ってるんだ! 安心したら腰が抜けたのだ!」

「しっかりしてくれよ、王子様。もっと肝が据わってないと、将来尻に敷かれるぞ?」


 騎士団のメンバーばかりか、続けて入ってきた四勇士にも笑われ、アレクは恥ずかしさで顔を赤くした。


「でも、本当なの? ナミラをここまで追い詰める暗殺者がいたなんて」


 手際よくリンゴを剥くアニが、動けないナミラの顔を覗き込んだ。


「あ、あぁ。手強かったよ……そうだ、ウルミさんは」


 気まずそうに表情を曇らせながら、アニが語る。


「……亡くなったそうよ」

「……そうか」


 さすがに、ナミラも言葉が詰まる。


「気に病まないで、ナミラ。だって、彼女は()()()()()()()()()()()()()()()()

「……は?」


 アニの口から語られた話は、信じられないものだった。

 あの日、ナミラは謎の暗殺者に襲われ交戦。異変に気づいたウルミは主人を守り、メイド長として名誉の死を遂げた……という美談が、すでに王都中に広まっているらしい。


「その話は誰から聞いたんだ?」


 不信感を顔に出さぬように、ナミラはアニに問いかけた。

 違和感のある改ざん。まるで、一部始終を見た上で描いた筋書きのように思える。

 

「えっと……あれ? 誰が見たんだっけ?」


 首を傾げるアニを、ナミラはキョトンとした顔で見つめた。

 どうやらその場の全員が知らぬようで、ただ「みんな言ってる」と口を揃えて言った。


「たぶん、巡回中だった警備兵の誰かだろう。暗殺者は跡形も無く消し飛ばしたようだが、相手は裏の世界の人間だ。そういった場合、目撃者の情報などは安全のため公表しないこともある。このあと父上が見舞いに来るから、詳しくはそのときに聞くといい」


 ナミラはひとまずアレクの言葉に頷き、改めて全員で無事を喜び合った。


 彼らが帰った日の午後。ルイベンゼン王とガルフが見舞いにやって来た。

 王は安全管理を謝罪し、ガルフはシュウに申し訳ないと涙ぐんだ。そして、ナミラがアニから聞いた話の出処を質問したところ、二人共同じように顔をしかめた。


「……すまん。なにせ、きみが瀕死という知らせだったのだ。慌てていて、覚えていない。すぐに確認して教えよう」

「い、いえ。王にそんな手間をかけさせるわけには……ガルフ様、自分を助けてくれた人も分かりませんか?」

「……うむ。恐らくは、目撃者と同一人物じゃろうが。儂も知らせを聞いたときには、すでに治療中とのことじゃったからの。いかんのぉ、年をとると忘れっぽくなって」

「おい、余はまだジジイじゃないぞ。お前といっしょにするな」


 思いの外和やかな空気が流れていたが、王も賢者も胸中は穏やかでなかった。

 魔喰を討ち、あらゆる前世を持ち、世界最強と思っていたナミラが、一介の暗殺者に殺されかけたのだ。詳しい戦いの状況を聞かねば、今後の要人警護や国防について戦力を見直す必要がある。


「口は動きますので、戦った暗殺者についてお話します……」


 その緊急性を察し、ナミラは戦いの状況を説明した。

 しかし、周囲に広まっている話と合わせ、ウルミと暗殺者闇猫は別人ということにした。リッパーマンに絡む呪いも闇猫のものとし、倒すよりも解呪に奮闘したが結果的に殺してしまったと説明した。


「なるほど、前世が原因の苦戦だったか! それなら、余も心臓が痛くならずに済む」


 安堵の息を漏らしながら、王は笑った。


「しかし、ナミラくんをある程度追い詰めたのは事実。あまり楽観視もできませんぞ?」


 ガルフがぴしゃりと述べたが、安堵の気持ちは同じであった。


「……では、王よ。傷に響きますので、今日はこのへんで」

「そうだな。しばらくは、治療に専念するといい。退屈したらドラ息子に腹踊りでもさせろ。余が許可する」 


 国のトップ二人は今後の支援を約束し、城へ戻って行った。


 それから一週間。

 毎日見舞いに来る友人たちのおかげで退屈はせず、ファラの献身的な看病と王家直属の白魔法使いの治療が行われ、今は物思いに耽られるほど回復した。

 戦闘はまだ厳しいが、軽い運動ならできそうだ。この調子でいけば、週末には学院にも復学できるだろう。誰が自分を助け、なぜ嘘の証言をしたかなど気になることは多い。だが、なにをするにしろ病床でやれることは少ない。このまま、素直に傷を癒やすほうが先決だ、とナミラは急く心に言い聞かせた。


 軽く息を吐き、眠りにつこうと目を閉じた。


(ん?)


 しかし、すぐに瞼の向こうに違和感を感じた。

 どこからともなく甘い香りが漂い、妖しい息遣いが聞こえる。


「誰だ!」


 ナミラは声を上げ、目を見開いた。

 同時に跳ね起きるつもりたったが、目と口以外の自由が効かず、いつの間にか金縛りに遭っている。

 そして、目にした異常の発生源。

 たわわに実った柔らかな二つのものが、ぷるんぷるんと揺れていた。


「……おっぱい?」

「せいか〜い」


 耳を撫でる妖艶な女の声。

 ナミラに跨がり、胸を強調しながら見下ろす者。


「サキュバスか!」

「またまた正解! いやぁ〜ん、賢い子。食べ甲斐があるわ」


 食欲と性欲を滾らせた視線を送り、その一挙一動が五感を刺激する。

 男女雌雄に限らず、サキュバスが発する魅了チャームからは逃れられない。現にナミラも、警戒心を強めつつ動かない体に火照りと気分の高揚を感じていた。


「でも、ちょっとだけ間違いよ。私はサキュバスだけど一番う・え。サキュバスの長、サキュバスクイーンよぉ〜!」


 翼を広げ、淫魔は自慰の手つきで体を触る。


「はじめまして、ボウヤ。私はサキュバスクイーンのマーラ。人間では感じられない快感で、忘れられない夜にしてア・ゲ・ル」


 再び目の前に出される、興奮を促す刺激的な膨らみ。


 いやさ、おっぱい。


 目を閉じて五秒で現れた淫猥な敵に、ナミラは早くも為す術がなかった。

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