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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二部一章 王都へ
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『王立学院アインズホープ 二体の竜』

「ん? 今のは……」


 ガルフに聞こえた声は、勝ち誇るナミラたちの耳にも届いていた。

 観客席を見上げると、一画から生徒たちが逃げ出している。その中心には、渦巻く魔力と魔法陣に囲まれたモモの姿があった。


「なんで……学校は、みんなで仲良くするんじゃないの? なんでひどいことするの? ナミラくんに、アニちゃんに、だんちょーに、デルくんに……よくも」


 歯を食いしばり、周囲の生徒たちを睨みつける。

 初めて見る膨大な魔力に、生徒たちは逃げ惑うしかなかった。


「なにをしたのじゃ!」


 逃げてきた女子生徒に、ガルフが声を荒らげた。


「モ、モモさんはあの子たちとは違うから、私たちと模擬戦を見てたんです。そしたら『みんなにひどいことしないで』って、怒り始めて。頑張ってなだめてたんですけど、いつの間にか詠唱始めて、それで……」


 ガルフは呆れてため息をつくと、闘技場のナミラに叫んだ。


「ナミラくーん! なんとかできんか?」


 ナミラは頷くと、杖から聞こえる音声に耳を傾けた。


 オーダー受諾しました……セーフティを検知しました。オーダーを保留します。


 今にも放たれそうな最高位魔法だったが、杖からは実行を妨げるような音声が流れていた。


「よし。杖のセーフティが発動してるから今はまだ大丈夫。だけど、外れて魔法が放たれるのも時間の問題だ」

「そんなの付けたの?」

「うん、モモに頼まれてね。暴走したら怖いからって言ってたけど、まさか初日からこうなるとは」


 ナミラはやれやれと首を振り、ガルフに叫び返した。


「ガルフ様、生徒たちの避難を! こうなったら、魔法を撃たない限り止まりません!」


 ナミラの言葉を聞いた生徒は、ますます混乱し出口に殺到した。

 ナミラは「しまった」と自分を責め、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。


「お、落ち着きなさい!」

「皆、止まるのじゃ!」


 ルーベリアとガルフが声を荒げるが、広がった恐怖は抑えられない。

 我先にと逃げ出す生徒たちは互いを思いやる余裕などなくなっていた。


「止まれえぇぇぇぇー!」


 そのとき、空気を断ち切る声が響いた。

 立ち上がったグレイヴが生徒を睨み、他の四勇士もその元に集っていた。


「落ち着け! 誇り高きアインズホープの者が取り乱すな!」


 立ち上がるのがやっと体で胸を張り、グレイヴは堂々としていた。


「たしかに我らは敗北した。しかし、アインズホープが堕ちたわけではない! 彼らには学院にふさわしい力があった。それを見苦しく認めない我らではない」


 他の三人も敗北の悔しさを滲ませながらも、グレイヴと同じ表情をしていた。


「それはきみたちも同じはずだ! 不測の事態に陥ったときこそ、高貴なる我らの真価が問われる。アインズホープの精錬された姿を見せてくれ!」


 グレイヴの言葉は、生徒たちの動きを止めた。

 屈辱的な敗北に喫したグレイヴたちの未だ折れない姿が、彼らを四勇士と慕う生徒たちの心を打った。


「へぇ……もう立ち上がっただけでもすごいのに」


 生徒たちは落ち着きを取り戻し、教師の指示に従って避難を再開した。


「さぁ、きみたちも逃げるんだ」


 グレイヴたちが足を引きずりながら、ナミラたちにも声をかけた。


「いやいや。まだやることがありますから。ね、団長?」

「おう。団員が暴走してるなら、助けねぇとな」


 ダンとナミラがニヤリと笑うと、テーベ村騎士団の四人は空に手を掲げた。


「来い!」


 すると、馬車に積んでいた武器が空を飛び、呼び声に応えて主の元へ駆けつけた。


「いくぜテーベ村騎士団!」

「「「応!」」」


 呆気に取られる四勇士を尻目に、ナミラたちは行動を開始した。


技巧手袋トリック・グローブ最大加護マックス・ヴェール!」


 デルはナミラとダンの刀身を撫で、攻撃力向上の付与を与えた。


「伍の舞。快鴨楽座かいおうらくざ


 アニは二人の周りを優雅に舞い、体力の回復と身体能力強化を与える。


「ふつくしいですわあぁ」


 アニの舞に見惚れたバーバラが涎を垂らしたが、普段と違い過ぎる姿に四勇士は戸惑い、若干引いた。


「私が舞ってる間しか効果ないんだから、はやくしてよね!」

「はいよ! いくぜナミラ!」

「了解、団長!」


 バフを受けた二人は武器を掲げ、闘気を練り始めた。

 その間も生徒たちは避難を続けていたが、限られた出入り口では思うように進んでいなかった。


 ……オーダーの継続を確認。セーフティ解除。

 オーダー再試行……クリア。


 そして、ついにそのときが訪れる。


「『天昇瀑水竜ドラグ・フォール!』」


 巨大な水の竜が現れ、尾を伸ばしながら天へと昇る。


「なんて大きさなの……」


 桁違いの姿に、ルーベリアは絶望の表情を浮かべた。

 一目見ただけで、学院すべてを消し去る力を理解した。雄々しき水竜は狙いを定め、コロッセオに向けて落下を始める。


「合わせろナミラ!」

「そっちこそ!」


 降り注ぐ竜を不敵に迎え撃つ者。

 ダンとナミラが、武器を振り下ろした。


斬竜豪衝波ざんりゅうごうしょうは!」

しん斬竜天衝波ざんりゅうてんしょうは!」


 魔力の竜に向けて、闘気の竜が放たれる。

 闘気の二体は絡み合うと、剛腕を持つ双頭の翼竜へと姿を変えた。


「「双竜豪天衝そうりゅうごうてんしょう!」

 

 同じ起源を持つ必殺技。

 二つが同時に存在するという斬竜団ではありえなかった奇跡が、新たな段階への昇華を生んだ。


 魔力と闘気の二体の竜は上空でぶつかり合い、絡み合い、互いを消し去ろうと闘った。


「すごい……」


 誰もが固唾を呑んで空を見上げる中、グレイヴが声を漏らす。

 そこには、心からの感動が込められていた。


 ガアアアアアアアアアッ!

 グオオオオオオオオオオオオッ!


 激闘を繰り広げる竜が雄叫びを上げ、決着の光が空を覆う。

 瀑水竜は飛散し、形作っていた水が雨のように降り注いだ。

 晴れ渡る青空に大きな虹がかかり、騒動の終結を美しく彩った。

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