『王立学院アインズホープ 反撃!』
「ここは本来、きみたちが立ち入ることもできない神聖な場所。アインズホープの英傑たちが、己の力を示し合う闘技場なのです!」
実況の言葉の節々から、ナミラたちへの侮辱が感じられた。
「しかし! 今回は平民であるきみたちに、アインズホープに通うとはどういうことか! それを直々に教えてくれる方々が、特別にお招きしてくれました! さあ、さっそくご登場いただきましょう!」
興奮が増す会場の中心にあって、ダンたちは口を開けて固まり、なにがなんだか状況を分かっていない。
ナミラがやれやれと首を振っていると、ひときわ大きな歓声と共に四人の生徒が反対の扉から入場した。
「まずはこの方! 学院で最も美しき孤高の薔薇! その棘は不敬な者を許さない! バーバラ・ロサ・ダマスケナ!」
金髪の縦ロールを揺らした女子生徒が、くるくると回ってお辞儀をした。
「ときに先生をも凌ぐ知識量! 人呼んで歩く図書館! ルノア・オリバー・ピープルズ!」
眼鏡をかけた長身の男が、手を降って歓声に応えた。
「怪力無双とは俺のこと! 学院一の重戦士! テネシー・カリー・ブランドン!」
筋骨隆々の男が上着を脱ぎ、力こぶを見せつけた。
「そしてぇ!」
実況に一段と力が入る。
「アインズホープ最強と名高き男! 並び立つ者なき絶対王者! グレイヴ・ヒルト・ファルシオン!」
制服を乱さずに着こなし、砂の足場にもブレぬ足取り。
他の三人とは違いただ進み出ただけで、会場からは爆音のような歓声が起こった。
「この四人こそ、我が学院が誇る頂点の生徒! 四勇士だぁー!」
一番の盛り上がりを見せるコロッセオに、呆れ顔のガルフが到着した。
「やれやれ……こんなことだろうと思ったわい」
席につくと、隣のルーベリアが笑みを浮かべた。
「いきなり田舎の平民が入学すると言われて、貴族の子らが納得するもんですか。せめて実力を証明してもらいませんと」
「そりゃあ、盗賊や魔喰との戦いが」
「それが本当なら、ね」
ルーベリアはスッと眼鏡を上げた。
「信じとらんのか、お前も」
「さぁ? でも、生徒の中には『妖精剣士の戦いを見ていただけだろう』なんて声もあるみたいですよ? まぁ、本当に貴方が言う戦果を挙げているなら、四勇士を相手にしても問題ないのでは?」
すでに勝ち誇った様子のルーベリアに、ガルフは大きなため息をついた。
「どうなっても知らんぞ? ルー」
「……その呼び方はやめてください」
二人はそれ以上なにも言わず、眼下の闘技場に視線を戻した。
「突然すまないね。驚いただろう?」
グレイヴが優しく微笑み、ナミラたちに声をかけた。
「いえ、全ぜ」
「なななななんだ! どういうこった!」
「し、死ぬの? 僕たち処刑されちゃうの?」
「おおおお落ち着くのよ! こういうときは、とりあえずお祈りを」
「……すいません、めちゃくちゃ驚いてます」
「……みたいだね」
三人のあまりの狼狽ぶりに、ナミラや四勇士も苦笑いを浮かべた。
「きみたちには、僕らと模擬戦を行ってもらうよ。木製の武器は、得手のものを用意している」
グレイヴが指を鳴らすと、客席から模擬戦用の武器が投げ込まれた。
木双剣、木ナイフ、木斧、木剣。
四勇士はすでにレイピア、槍、大剣、ロングソードを模したものを持っていた。
「悪いが拒否権はない。この学院にふさわしい力を持つことを、自ら示してくれ」
四勇士は有無を言わさず武器を構えた。
「仕方ない。やるよ、みんな」
ナミラは木剣を手に取り、三人に声をかけた。
「おおおおう。や、やったろうじゃねぇか」
「え、あの、僕ナイフ一本だけ? しかも槍相手?」
「うぅ……髪も肌もすごくきれい……」
しかし、三人は未だに緊張が解けず、明らかに動きがぎこちなかった。
「おいおい……」
「それでは四勇士対テーベ村騎士団の、歓迎模擬戦を開始します!」
ナミラは喝を入れようとしていたが、実況が開戦を宣言した。
「え! ちょっ」
「きみは僕が相手しよう」
慌てるナミラに、グレイヴが容赦なく襲いかかる。
「くっ!」
なんとか上段の一撃を防ぐと、鍔迫り合いになり三人のカバーどころではなくなってしまった。
(こいつ……強いな)
距離を取ったナミラは、グレイヴの実力を感じ取り警戒を強めた。
まだ小手調べの段階だろうが、馬鹿にできない力を秘めているのは確かだった。
「おーっほっほっほ!」
「うぅ……くう!」
一方、他の三人はそれぞれの相手に、苦しめられていた。
アニは砂の足場を軽やかに跳ぶバーバラの剣術に、動きを封じられていた。
「そらそらそらそらっ!」
「いや無理だよー!」
圧倒的にリーチで負けているデルは、鋭い突きをなんとか避けながらそこら中を逃げ回っている。
「オラオラぁ!」
「ぐっ……ぬぅ!」
ダンは自分よりも背の高いテネシーからの連撃に、防戦を強いられていた。
皆、実力の半分も出せずにいる。
「おーっと! 我らが四勇士に、手も足も出ないぞテーベ村騎士団!」
そんな様子を実況が囃し立てた。
「やはり、魔喰との戦いはただ見ていただけだったのだろうか! というか……い、田舎の村でき、騎士団って……ぷっぶふふふっ! し、失礼しました。あまりにも身の程知らずだったもので!」
目の前で起きている醜態もあって、実況の言葉にどっと笑いが起きた。
「……」
グレイヴからの攻撃を捌いていたナミラは、その声を黙って聞いていた。
「どうした? こんなものなのか?」
剣を振るいながら、グレイヴが口を開く。
「やはり、きみたちはこの学院にふさわしくない。田舎でどれだけ持て囃されたか知らないが、所詮は平民だ」
冷たい眼差しと容赦ない剣撃が襲う。
「生まれながらにして、我ら王族や貴族は平民の上に立っている。必要ないのだよ、きみたちにこの学び舎は。国を作るのは平民ではないのだからね」
見下す哀れみを携えた瞳で、グレイヴはナミラを見つめた。
「さぁ、もう帰り給え。一思いに楽にしてやろう」
剣を両手で持ち、渾身の力を込める。
次の瞬間、ナミラはカッと目を見開いた。
「うおおおおお!」
雄叫びを上げ、全速力で突進した。
だが、それは。
テーベ村騎士団の仲間たちに向けられていた。
「きゃあ!」
「うわっ!」
「おごぉ!」
三人を巻き込むと、そのまま壁面へ衝突し激しい土煙を起こした。
「おーっと! なんだなんだぁ? 仲間割れか?」
実況が馬鹿にし、なにが起こったか分からない四勇士たちも呆れた顔を浮かべている。
「ナ、ナミラ! なにしやがんだ!」
「痛いよぉ」
「抱っこするならもう少し優しくしてよ!」
土煙の中では、四人が折り重なるように倒れていた。
「みんな、いつまで緊張してるつもりだ?」
ナミラがため息混じりに口を開いた。
「こんなに馬鹿にされまくって、悔しくないのか? ガルゥの群れは、斬竜団は、魔喰はあいつらより弱かったか?」
三人はハッとして、煙の向こうの影に目をやった。
先程まで強大に思えた姿が、やけに小さく見える。
「なんか雑魚だったな」
テネシーの見下した声が聞こえた。
「時間の無駄でしたね」
「はやくティータイムにしましょう」
ルノアとバーバラも、すでに心ここにあらずの状態だった。
「団長、あんな風に言われていいんですか?」
「いいわけねぇだろ……悪かったな、ナミラ。おかけで目が覚めたぜ」
ダンの声に落ち着きが戻り、目に闘志が宿った。
他の二人も悔しさをにじませ、己への怒りを燃やした。
「では、全員でとどめを」
武器を構えようとした四勇士に、悪寒が走り冷や汗が流れた。
会場を包んでいた笑いが水を打ったように止み、恐怖で涙を浮かべる者もいた。
全員の視線が土煙の中に向けられている。
その奥から、とてつもない殺気とオーラが放たれていた。
「さぁ」
四人はゆっくりと起き上がり、それぞれ武器を構えた。
土煙が晴れ、激戦をくぐり抜けた戦士が姿を表す。
「反撃開始だ!」




