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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第二部一章 王都へ
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『王立学院アインズホープ 歓迎?』

「いよいよだね」

「き、緊張するねっ、アニちゃん!」 

 

 テーベ村騎士団は王から手配された馬車に乗り、城壁の南門から伸びる専用の街道を進んでいた。

 やたらと丁寧に整えられた道の先には、これから入学する王立学院があり、車内は抑えきれない興奮と緊張に満ちている。


「お前ら! な、舐められるんじゃねぇぞ!」

「ど、どうしよう……お腹痛くなってきた。ナイフもう一回全部研ぎ直したい」

「大丈夫だから。落ち着いて、みんな」


 ナミラは笑いながら、ガチガチの仲間をなだめていた。

 自分も緊張はしているが、前世の経験のおかげで心に余裕を持てている。


「さぁ、着きましたよ」


 御者の声と同時に馬車が止まり、ナミラたちは外へ足を踏み出した。


「おぉ……」


 目の前にはまるで城とも要塞とも思える、広大な学院が広がっていた。

 歴史を感じさせる圧巻の建物には、ナミラも感嘆の息を漏らした。


「い、い、いくぞ!」

「ダン、手と足がいっしょに出てるよ」


 五人が門に近づくと、重厚な扉がひとりでに開いた。

 

「ようこそ! 王立学院アインズホープへ!」


 軽快な音楽に合わせて、ズラリと並んだ生徒たちが拍手や指笛で出迎えた。

 魔法で作り出した光や花火が学院の空を彩り、合唱隊が学歌を歌い、上級生たちがダンスや軽業を披露している。


「す、すげぇ……」

「あ、あははは」


 ナミラ以外の四人は圧倒され、案内係の生徒のあとを浮き足立って進んだ。

 しかし、ダンたちは緊張で気づいていないが、隠そうともしない負の感情がそこら中から向けられている。

 若く荒々しい嫉妬。

 染み付いた侮蔑の念。

 純粋な嫌悪。

 生まれたての憎悪。

 それらの感情を余すことなく感じ取ったナミラは、これから起こるであろう出来事を想像した。

 奥で並び立つ生徒の前まで来ると、ガルフと老齢の女性が進み出た。


「ようこそ、アインズホープへ。私は、副学長のルーベリアと申します」


 女性は丁寧に頭を下げた。

 しかし、眼鏡の向こうから放たれた鋭い視線を、ナミラは見逃さなかった。


「儂は今さらじゃが、改めて。学院長のガルフじゃ。歓迎するぞ、テーベ村騎士団の諸君」


 ガルフがダンと握手を交わすと、明るい歓声が巻き起こった。

 どうやら、すべての生徒から批判を受けているわけではないらしい。ナミラは一瞬で、学院がガルフ派とルーベリア派に別れていることを見抜いた。


「さて、では食堂でご馳走を楽しもうではないか」

「お待ちください、学院長」


 ルーベリアがガルフの言葉を遮り、案内係の生徒を引き留めた。


「なにかね? 副学長」

「実は、生徒たちが彼らへ歓迎の催しを計画しているんですよ。そちらを先に」

「聞いとらんぞ、そんな話」


 ガルフが訝しむ表情を見せた。


「そりゃあ、貴方はここ最近学院のことは私に任せきりでしたからね。昨日も、いらしたのは夜遅くだったではありませんか」


 クイッと眼鏡を上げ、ルーベリアはガルフに厳しい目を向けた。


「生徒たちからのサプライズです。せっかく準備したのに、無駄になさるおつもりですか?」


 ガルフはそれ以上なにも言えず、そっとナミラに視線を向けた。

 ナミラは小さく頷き、生徒からの歓迎を受けることにした。


「……分かった」


 ガルフの言葉に満足げに笑うと、ルーベリアは別の生徒に案内を任せた。


「じゃあ、ぼくらについて来てください」

 

 眼鏡の男子生徒が、貼り付けたような笑顔で言った。

 他にも三人の男女が同行し、皆一様に同じ笑顔を浮かべている。ナミラたちが進み始めると、ぞろぞろと他の生徒たちも移動を開始した。

 道中、施設の説明を受けながら、広場を抜け東側の建物に入り渡り廊下を通って、敷地の奥に建てられたドーム状の建物の前にやってきた。きょろきょろと落ち着かない一行だったが、目の前の重厚な佇いに思わず言葉を失った。


「あ、モモさんはこちらへ」

「え?」


 建物の前で、女子生徒がモモの手を引いた。

 その先には正門があったが、ナミラたちは明らかに正規の入口ではない、脇に逸れた小さな扉を目指していた。


「モモさんは、賢者塔の出身でしょう? この催しは、地方出身の彼らに向けて企画したんです」


 語る女子生徒の笑顔は、モモに対しては好意的に見えた。

 ガルフの子という立場と、超天魔法などそもそも魔法使いとして優秀なモモは、彼らの中では別の括りになっているようだ。と、ナミラは冷静に分析した。


「で、でも」

「気にしなくていいよ、モモ」


 相変わらず緊張のし過ぎで気が回らないアニたちに代わって、ナミラが微笑んだ。

 モモと別れ、錆びついた鉄の扉から中に入る。薄暗く狭い階段を上がると、ダンジョンのような無骨な通路が伸びていた。


「すごいとこですねぇ」

「ははは。そうだろう」


 眼鏡の男子生徒が、乾いた笑いを返した。


「なにに使う場所か……は、やっぱりまだ秘密ですか?」

「そうだね、サプライズだから。でも、きみたちにとっては忘れられない場所になるだろうから、よく見ておくといい」

「分かりました。うーん、じゃあこれは教えてもらえます?」

「なんだい?」

「この染み付いた血の臭いはなんですか?」

 

 ナミラの問いには誰も答えず、ただ「ははは」と笑った。

 

「さぁ。ここからは、きみたちだけで行ってくれ」


 通路の奥で待っていたのは、ひときわ分厚く大きな鋼鉄の扉。

 ナミラたちが前に立つと、口を開けるようにせり上がった。


「いってらっしゃい」


 広がる空間は暗く、なにも見えない。

 ダンたちは言われるがまま足を踏み入れたが、ナミラは警戒を強めていた。


「そして、さようなら」


 囁かれた別れの言葉を、ナミラは聞き逃さなかった。

 扉が落下し、退路が断たれる。

 すると、周囲に松明の明かりが灯り、頭上の闇に亀裂が入った。


「うっ!」

「ま、眩しい!」


 亀裂はゆっくりと広がり、太陽の光を受け入れた。

 慣れてきた目で見ると、外から半円に見えた天井が開き建物がすり鉢状に変化していた。


「ようこそ! アインズホープ名物、コロッセオへ!」


 魔法で拡張された声が響くと、周囲を囲む観客席から歓声が起こった。

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