『英雄の名は』
大陸の東に位置するセリア王国。
その王都セリアルタは、精巧な石造りの建物が立ち並び、この国伝統の赤い屋根が陽光を受けて眩く佇んでいる。街はセリア城をぐるりと囲むように造られ、整備された石畳が敷き詰められている。
街ごと覆う城壁の東門から太陽通りと呼ばれる大通りが、城の正門に向かって真っ直ぐ伸び、多くの商店が建ち並ぶ交易の場所でもあった。
旅人に「朝日と人と金が差し込む道」と呼ばれたその道は、この日最も華々しい盛り上がりを見せていた。
世界の危機を救った英雄たちの凱旋。
しかも、一人は歴史上類を見ない力を授かったという。
物語のような英雄の存在は、老若男女問わず強い関心を集めた。
太陽通りを練り歩いたパレードでは、雷迅の賢者ガルフをはじめテーベ村騎士団の若き勇姿など、戦争の凱旋では見られない光景がさらに好奇心を駆り立てた。
「静粛にっ!」
一行が城にたどり着くと、魔法で声量を増した左大臣の声が響いた。
テーベ村をはじめ、各地の空に浮かんだ長方形のスクリーンには、着飾った姿が映されている。
「セリア王国、第二十五代目国王。ルイベンゼン・フォン・キングス・セリア様からの御言葉である!」
隣に立つセリア王が、数歩進み出た。
右手に王笏を持ち、真紅のマントに身を包み、代々受け継がれてきた王冠を頭上に輝かせる絶対君主。
齢四十を越えてもなお、威風堂々とした王の風格は高まり続けている。
「国民よ……いや、世界の国々に言葉を送ろう」
王は真っ直ぐな瞳で言った。
「北の大地を、世界滅亡の力を持つ厄災が襲った。ゼノ山脈は消え去り、確認できる限りバーサ帝国は正体不明の暗黒に包まれている」
テーベ村の村人たちは、自然と北の方角に視線をやった。
「その厄災は『魔喰』と呼ばれるもの。雷迅の賢者ガルフの最高位魔法すら、滅することはできなかった」
映像を見ていた人々に、どよめきが起こる。
「しかし! 勇神アインの御力が働き、女神シュワは我らが冥界へ大挙することを許さなかった! 砦の兵士や村の勇敢な若者たちが、その進行を防いだ。そして、賢者ガルフの娘モモは最高位魔法を超える新たな極地。超天魔法を生み出したのだ!」
今度は「おぉ!」という歓声が巻き起こった。
スクリーンは誇らしげなテーベ村騎士団の中で、恥ずかしそうに頬を赤らめるモモの姿を映した。
「だが、魔喰はそれをも喰ろうた。だが! 奇跡は終わらなかった! 我ら人間族の永き歴史上類を見ない、最強の戦士が目覚め、見事魔喰を討伐したのだ!」
いよいよ高まった人々の興奮が、今にも爆発しそうだった。
「今日は、歴史に刻まれる偉大な日となる。この勇者と同じ時代を生きれることを、私は誇りに思う。皆も、そうであってほしい」
セリア王が横に動くと、スクリーンの端で隣に並ぶ人影があった。
絶対たる王と並び立つ。
それだけで、この国では何にも代えがたい名誉であった。
「では、紹介しよう」
王は改めて、大きく息を吸い込んだ。
「この者こそ、厄災魔喰を倒した英雄! 人類で初めて、四元素の妖精と契約した妖精剣士シュウ・タキメノである!」
国中で大歓声の爆発が起きた。
称賛と尊敬の声が絶え間なく投げかけられ、聞いたばかりのその名を誰もが呼んだ。
シュウがおもむろに剣を抜き、天にかざすと契約した妖精たちが螺旋を描いて現れ、四色の光を放った。
王の言葉に半信半疑だった者も、シュウの力が本物であることを認め、改めて驚愕した。
胸を張りつつも、緊張で固い笑顔を見せるシュウ。
そんな父の姿をナミラは笑いながら眺め、誰にも負けない拍手を送っていた。




