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魂の継承者〜導く力は百万の前世〜  作者: 末野ユウ
第六章 滅亡の因縁
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『あなたのためなら』【第一部完】

 ここは冥界。

 死した魂がたどり着く場所。

 そして、美しき女神シュワが治める世界。荘厳な静寂と秩序が満ちる、転生の場。


「あっ……ガア……かっ、ハッあが!」


 だが、今は違う。

 死の苦しみに抗う声が響いている。


 その声を発するは女神シュワ。

 神としての尊厳もなにもかも捨て、よだれを垂らし涙を流しながら、所狭しとのたうち回っていた。


「あ……ああああ……あああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 瞳孔が開き、全身が痙攣している。

 気が触れるギリギリを保つシュワの姿は、レイジの魂を導いたときと同一人物とは思えない。


「あ、アト……ひと……つ」


 視点の定まらない目で、女神シュワは自分の手を見つめる。


 この苦しみは、ナミラが世に生を受けてから始まった。

 ギフト【前世】は、世界の歴史やことわりすらも変える恐れがある力。ナミラには行使する者としての責任が伴うが、授けた女神にも背負うものがあった。


 禁忌を犯した女神シュワへ、世界からの罰。

 ナミラの魂に刻まれたすべての前世。

 百万回の『死』を、疑似体験しなければならなかった。


 戦いの果てに力尽きた者、凶刃に倒れた者、圧死、溺死、焼死、斬首、飢えなど、死因は多岐に渡る。虫や魚などでは捕食される激痛と恐怖が襲い、罰は今まで休むことなく続いていた。


 そして、ついに残るはあと一つ。

 ナミラの魂が形作った、最初の命。

 シュワは、この死を待っていた。

 

「あぁっ!」


 一瞬で終わる絶命の瞬間。

 存在すべてを消し去る感覚が駆け抜け、シュワは意識を失いかけた。


「は……あぁ……こ、これ……が……」


 にもかかわらず、恍惚の表情が浮かぶ。


 彼女はこの死を受けるためなら、他の死などどうでもよかった。

 彼女はこの死を受けられた今、心からの幸せを感じていた。


 冥界の女神シュワは、狂っていた。


「あ……あ……」


 力の入らぬ手を、なんとか振った。

 手を貸す者などいない。

 女神以外には、死した魂しか存在しないのだ。


 目の前に、現世の様子が映る。

 戦いを終えたナミラが、胴上げをされているところだった。


 女神が愛おしい視線を送る。

 これほどの禁忌を犯したのも、断末魔の拷問に耐えたのも、すべてはあの魂のため。狂おしいほど愛している、あの人のため。


「……あなたの、ためなら……わたくしは……」


 消え入りそうな細い声が、目の前の現世に向けられる。


「……アイン、さま……」


 愛の言霊を呟き、女神はしばしの眠りについた。


 目が覚めた頃には伝説の美しさを取り戻し、また魂を導き始めるだろう。


 すべては愛する人のために。

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